無能はいらないとSランクパーティを追放された魔術師の少年、聖女、魔族、獣人のお姉さんたちにつきまとわれる

おさない

文字の大きさ
38 / 103

第37話 タフガイ

しおりを挟む

「自業自得……ってことでいいですよね……」

 マルクは、生気を失ったゴルドムの顔を覗き込みながらそう呟く。

「はやくにげよう、マルク」
「そ、そうですね。――皆さん、もう出てきても大丈夫ですよ!」

 マルクの呼びかけに応じて、姿を隠していた子供たちが再び集まってくる。

「お兄ちゃん……やったの?」
「はい。悪い人はライムがやっつけてくれました」
「お姉ちゃんすごい!」「ししょーとよばせてください!」

 子供たちはライムの周りにあつまってわいわいと喜ぶ。

「とにかく、皆さん急いでください。のんきにしていると、また悪い人が目を覚ましちゃうかもしれません!」

 マルクは倒れているゴルドムのことを指さしながら、子どもたちにそう言った。

「――ライムはみんなのことを誘導してあげてください。僕は逃げ遅れた子がいないか探してきます」
「うん、まかせて!」

 こうして、ライムの誘導の元、子どもたちは階段を上り始め、アジトを脱出していく。

 マルクは、手早く通路脇にある部屋を見て回り、逃げ遅れた子供がいないか確認する。

「大丈夫そうですね……」

 両脇の部屋を一通り見終わり、ライムの元へ戻ろうとしたその時だった。

「ぐすっ……ひっく……!」

 ついさっきまで自分が確認していた物置部屋の中から、突然少女のすすり泣くような声が聞こえてきたのである。

「――誰かいるんですか?」

 不思議に思ったマルクは、再び部屋の扉を開けてそう問いかける。

 すると、置いてあった木箱の中から一人の少女が姿を現した。

「おにいちゃん……」
「そんなところに隠れていたんですか、あやうく置いていっちゃうところでした。……気付けてよかったです!」
「こわかった……こわかったよお……っ! うえええええええん!」

 少女は泣きながら、マルクに駆け寄り抱き着く。

「もう大丈夫ですよ。悪い人はライム――お姉ちゃんがやっつけてくれました!」
「ほんとぉ……?」
「はい! …………一撃のもとに。だから一緒にここから逃げましょう!」
「…………うん」

 そう返事をして、マルクの手を握る少女。

 こうして、マルクは逃げ遅れた少女を連れてライムの元へと戻った。

「――マルク! みんなにげおわった!」
「ありがとうございますライム。後は僕たちとこの子だけですね」
「……………………ほおー」

 ライムは、マルクの腕にぴったりとくっついている少女のことを見て、複雑そうな顔をする。

「どうかしましたか?」
「う、ううん、なんでもない。はやくにげよう。――――あなたも、もうちょっとだけがんばって!」

 ライムに励まされた少女は、涙を拭ってこくりと頷いた。

「それじゃあ、行きましょ「Kill you!!!!!!!!!!!!!!」

 刹那《せつな》、ゴルドムの怒声が響く。

 なんと、いつの間にか目覚めていたゴルドムが、三人の背後に迫っていたのだ。

「きゃああああああああああああっ!」

 ゴルドムは太い腕を伸ばし、悲鳴を上げている少女へ掴みかかろうとする。

「――プロテクトシールドッ!」

 マルクは振り向きざまに魔法で障壁を展開し、それを防いだ。

「F**k you!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 しかし、ゴルドムの攻撃はそれで終わらない。

 全力で体当たりして障壁を破壊し、強引に突破する。

「Go to hell!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 そして、一番近くに居た少女へ殴りかかった。

「クソガキがああああああああああああああああああああ!」
「――――っ!」

 マルクはとっさに少女を後ろへ引っ張り、自らが身代わりになる。

 しかし、魔法の詠唱が間に合わずゴルドムの攻撃を直に喰らってしまった。

 腹部にゴルドムの拳が入り、マルクの体がふわりと宙に浮く。

「ごほぉッ!?」

 口から血を吐き出し、今まで経験したことのないような痛みがマルクを襲った。

「おにいちゃん!」「マルクっ!」

 しかし、ゴルドムの攻撃はそれで終わらない。

 膝をついたマルクの頭を鷲づかみにし、壁へ叩きつける。

「がぁッ! げほっ、げほっ!」
「死ねぇ……死ね死ね死ね死ね死にやがれぇえええ!」

 そして、そのまま両手で首を締め上げた。

「う……ぐっ……!」
 
 マルクは、苦しさのあまり手足をじたばたとさせてもがく。

「マナ……ドレインっ!」

 とっさに両手でゴルドムの腕を掴み、反撃に転じる。

 その時、マルクはゴルドムの持つ魔力が明らかに異質であることを感じ取った。

「――――――?!」
「ぐおおおおおおおおおッ!?」

 苦痛から、マルクのことを手放すゴルドム。

「ファイアーボールッ!」

 マルクは間髪入れずに魔法を放ち、ゴルドムの顔面に直撃させた。

「ぐあああああああああああああ!? あづいあづいあづいッ!」

 ゴルドム、熱さのあまりのたうち回る。

「まるくぅっ!」

 ライムは、涙目になりながらマルクに駆け寄った。

「しっかりして! マルク……血が……! ライムちゃんどうすればいい!?」
「逃げてくださいっ!」

 ゆっくりと起き上がりながらそう告げるマルク。

「え……?」
「……外まで……走ってっ!」
「でも……!」
「助けを……呼んできてくださいっ!」

 マルクは、壁に手をつきよろめきながらそう言った。

「この人……魔人化しています……このままだと、町が危ないんですっ!」
「ら、ライムちゃんもたたかうっ!」
「お願いです……ライム。僕の言うことを聞いて……」

 身につけていた魔力制御用の手袋を外した後、マルクは続ける。

「――このままだと、巻き込んでしまうかもしれませんから」
「…………!」

 ライムは、マルクの周囲に圧倒的な量の魔力が渦巻いているのを感じとった。

「――ごめんね、マルク」
「お、おねえちゃん?!」
「ライムちゃんがいても、じゃまになるだけ……」

 ライムは、小さな声でそう言うと、少女を抱き抱えてその場から走り去った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

追放された荷物持ち、【分解】と【再構築】で万物創造師になる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーから「足手まとい」と捨てられた荷物持ちのベルク。しかし、彼が持つ外れスキル【分解】と【再構築】は、万物を意のままに創り変える「神の御業」だった! 覚醒した彼は、虐げられていた聖女ルナを救い、辺境で悠々自適なスローライフを開始する。壊れた伝説の剣を直し、ゴミから最強装備を量産し、やがて彼は世界を救う英雄へ。 一方、彼を捨てた勇者たちは没落の一途を辿り……。 最強の職人が送る、痛快な大逆転&ざまぁファンタジー!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?

名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」 「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」 「それは貴様が無能だからだ!」 「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」 「黙れ、とっととここから消えるがいい!」  それは突然の出来事だった。  SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。  そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。 「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」 「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」 「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」  ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。  その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。 「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...