無能はいらないとSランクパーティを追放された魔術師の少年、聖女、魔族、獣人のお姉さんたちにつきまとわれる

おさない

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第82話 港町の領主

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「ようこそ!   マルク御一行様!」

 港町に辿り着いたマルクたちを待っていたのは、町民による熱烈な歓迎だった。

「えっと……これはどういうことですか……?」

 困惑するマルク達の前に、使用人の格好をした女の人が進み出てくる。

「お待ちしておりましたマルク様。この町の領主である、デネボラお嬢様がお待ちしております。どうぞこちらへ」
「は、はい…………?」

 訳がわからず、言われるがままにするマルク。

「ほんもののメイドさんだ……」

 ライムは使用人の後ろ姿を見ながら、のんきにそんなことを呟いた。

 こうして、マルク達は町にある大きな屋敷へと案内されることとなったのである。

✳︎

 領主の屋敷へ案内されたマルク達は、豪華絢爛な応接間へと通された。

「ぼ、僕たち、何か悪いことしちゃったんでしょうか…………?」

 手厚い歓迎に慣れていないマルクは、おどおどしながら呟く。

「歓迎されていたみたいですし、マルクさんはどっしりと構えていればいいのではないでしょうか」
「私もそう思うよ。あと、できれば領主の人にここにあるもの持ってっていいか聞いといてね☆」
「ルドガーって、色々と人として大切なもの捨ててるよね……」

 リタは、こんな状況でもぶれないルドガーを見てドン引きした。

「まあ、いざとなったらアタシが守ってあげるから、安心なさいマルクちゃん」
「は、はい……ありがとうございます……」

 それから少しして、マルク達の前に華やかなドレスを着た女の人が姿を現す。

「御機嫌ようマルク様。わたくしが領主のデネボラですことよ。お会いできて嬉しいですわ」
「ご……ごきげんよう…………」

   マルクは固まったまま、言われた挨拶を返した。

「さあどうぞ、皆様座ってくださいまし」

   デネボラに促され、大きなソファーに腰掛けるマルク達。

「それで、あなたみたいなお嬢様が、一体マルクちゃんに何の用があるのかしら?」

   カーミラは、デネボラにそう問いかける。

「……ふぁんに……なってしまいましたの」
「はい?    どういう意味かしら?」
「ですからその……マルク様の……ファンになってしまいましたのっ!」

   やや恥じらいながら、デネボラは言った。

 その後デネボラが語った話によると、どうやらマルクは、勇者パーティの悪事を暴いた英雄として、更に有名になったらしい。

「……ですから、ぜひ一度会ってお話がしたいと思いまして」

 デネボラは身を乗り出しながらマルクに言う。

「ちなみに、マルクの師匠である私のことはどう思っているんだい☆」
「失礼ながら、存じ上げませんわ」
「………………………☆」

 黙って戦闘態勢に移行したルドガーのことを、リタが抑え込んだ。

「――それじゃあ……マルクとお話しするためだけに、わざわざこんな手厚い歓迎を?」

 それから、リタはそう問いかける。

「いいえ、当然それだけではありませんわ。……単刀直入に言いますと、マルク様にはわたくしの船に乗っていただきたいんですの」
「船……ですか……?」
「ええ。マルク様がこの町に来た目的は、病床に伏せるお姉さまを救うべく国へ帰るため。配下の者に調べさせましたので、そのことは存じ上げていますわ」
「は、はい……」

    見ず知らずの人にプライベートなことを暴かれたマルクは、少し動揺した。

「そして、わたくしも丁度、商談で彼《か》の国へ出向く用事がございますの。ですから、是非ともマルク様御一行には、わたくしどもの船に乗っていただきたいと思っていますのよ。無論、料金は取りませんわ!」
「願ってもないことですけど……本当に良いん――」
「それでは決まりですわね!   出発は明日、それまではこの屋敷で、どうぞごゆっくりおくつろぎくださいまし!」

    有無を言わせず、そう決定するデネボラ。

「ゆっくりさせる気ないわよね……?」

    カーミラは、ぼそりと呟く。

    かくして、マルク達は半ば強引にデネボラの船へ乗ることになったのだった。
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