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35.世界恐慌 過去

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――過去 東京国際経済会議 外務大臣と大蔵大臣
 アメリカの証券取引所で株価の大暴落があり、これをきっかけに世界的な不況が広がりつつある中、日本はこの不況をどう乗り切るかについて各国で意見を出し合おうと経済会議を開催する。
 この呼びかけに、日本と経済協力を締結した各国―ロシア公国・ナシュド王国・ドイツ・オーストリア連邦・トルコの五か国はすぐに応じる。欧州大戦後ようやく経済的な回復のきざしを見せたものの未だ昔日の勢いを取り戻せていないイギリスもこれに参加する。
 他の列強はどうだったかというと、震源地かつ圧倒的な経済力を持つアメリカは自身が震源地と自覚しバツが悪いのか不参加。イタリアはファシスト政権故、他国と構造が違うとして不参加。ソ連も同じ理由で不参加。フランスは詳細は不明ながらも都合が悪いとの回答。

 日本はアメリカへは別に会議を開催することを提案し、アメリカも自国で行うならと了承を得る。今回は不参加となったが、日本とアメリカは近く経済会議自体は行う算段である。
 
 この試みは世界の経済学者に歓迎され、イギリスの著名な経済学者も出席してくれることになる。
 
 初日はイギリスの著名な経済学者が講演を行い、各国へ不況を乗り切る方策を提示した。
 日本から参加した閣僚は田中外務大臣とつち大蔵大臣の二名で、初日の会議終了した日の夕方、閣僚の二人は会食を行っていた。

「田中卿、イギリスの経済学者殿は的確な方策を示しましたなあ」

「そうですね。日本にあそこまでの経済学者はいません。彼に師事して欲しいですね」

「それにしても……例の情報は彼に並ぶ経済知識を持っているようですな。一体何者なのか……」

「土卿……例のあれについては私達に推し量れるものではありません。卓越した政治センス、経済センス、さらには技術的造詣も深いと来た。本当に個人なんでしょうかね?」

「全て不明ですなあ。我々にはどこから例の情報がもたらされるのかも不明ですからな」

「詮索は止めておきましょうか。そうそう、大蔵大臣の目から見てどうですか? 経済学者殿がおっしゃっていたGDPという考え方は」

「素晴らしいですな。日本と友好国で採用したいところですな」

「ドイツとオーストリア連邦でしたら可能と思います。その他の友好国へは日本でノウハウを溜めてから人材を派遣しましょう」

「友好国は全て円ペックを採用してますから、為替も気にせず数字を比較できますね」

「そうですね。明日は土卿の講演です。日本の方針を特に隠す必要はないかと思います」

「そうですな。経済学者殿が全て話してしまいましたから」

 二人の会食はその後暫く続き、今後の日本談議に盛り上がったという。

――翌日
 日本の経済対策の講演が始まるとイギリスの閣僚が色めきだつ。例のイギリスの経済学者は日本が金本位制に復帰しないと宣言すると立ち上がり拍手を送っていた。
 彼は金本位制について「未開社会の遺物」と切り捨てていたから、欧州大戦で他国が疲弊したとはいえ、世界第二位の経済力を持つ日本が自説に沿う経済政策を行うことを聞いて歓迎しないわけがない。
 金本位制の脱却、大規模公共投資による需要の強化によって需要を喚起し、不況を乗り切る指針。まさに彼が提示した内容に合致する。これで日本が不況を弾き返せば彼の自説が正しい事を証明する。
 
 会議終了後、経済学者は土大蔵大臣にぜひ会いたいと希望し、二人は会談を行うことになった。その席で経済学者は日本の経済政策と自説がいかに合致するかを語り、土大蔵大臣は経済学者が説明したGDPについていくつかの質問を行ったという。


――磯銀新聞
 どうも! 日本、いや世界で一番軽いノリの磯銀新聞だぜ! 今回も執筆は編集の叶健太郎。え? 今回は別の者じゃなかったんだって? いやあ。東京で国際会議が行われているというのに俺じゃないなんてダメだろ。
 しかし大変なことになったな。アメリカのウォール街で株価が暴落したことをきっかけに、投資家は大暴落した株価の資金を回収するため、世界各国から資金の引き上げをはじめる。元々アメリカは供給過剰気味の経済状況にあったこともあり、金融パニックから来る大混乱で消費が落ち込む。
 圧倒的な経済力を持つアメリカは国内で消費の冷え込みから不況に陥り、他国にも波及していく。投資家の資金引き上げはそれに拍車をかける。そのうちいくつかの銀行や国が危機に陥ることは確実視されている。
 
 こうした背景があり、日本は各国へ経済会議を行おうと呼びかけたわけだ。結局既存の友好国とイギリスだけが集まる会議になってしまったが、会議はイギリスの著名な経済学者の独壇場だったなあ。
 会議終了後、かの経済学者は日本の今後を見守りたいとコメントを残しているぜ。自説が正しければ日本は不況をものともしないと太鼓判を押してくれた。彼の自説が正しい事を祈るぜ。
 
 政府は「列島改造論」をスローガンに大規模な公共投資を発表している。震災対策にこれまで道路敷設を行ってきたが、新しく大都市間を繋ぐ高速道路を敷設する。さらには鉄道網も地方に至るまで敷設を行うと発表した。
 技術面への投資も大規模に行うことを発表。特に重要項目とされたのが自動車と貨物列車だ。国内輸送力を拡大し、国民全てが自動車を持てるまでに安く性能の高い自動車を開発せよと指針を出した。
 その他、大学や企業への技術開発費の支援額をこれまでの三倍まで拡大することを発表。外国からの技術者の招へいについては、政府の協力を仰ぐこともできるらしいぞ。
 政府は本気で狙っているようだな。世界一の技術力を持つ国……日本を。俺は世界一ってのは夢物語じゃない気がして来たよ。日露戦争から既に十五年近く経つが、日本の技術力は列強上位に至る。あともう少しの所まで来ているんだ。
 そうそう。技術技術と言っているが、農業だって支援金が出ている。農耕機械・品種改良の研究開発費はもちろん、北海道・東北・樺太については農地整備の補助金も出ているんだぜ。
 
 不況だと言いつつ、これほど政府支援があるならこの機会にガンガン民間投資も動きそうな勢いだなあ。逆に景気過熱しないかこれ?
 
 恐慌の話題が良く取り上げられているけど、世界情勢も動きがある。中国共産党は南京事件のあおりをうけて内モンゴルへ脱出した。内モンゴルはお隣共産党政権のモンゴルと接しているから何か大きな動きがあるかもしれないぞ。
 共産党の勢いはベトナムでも共産党が結成されたんだ。広がる共産党は脅威になるかもしれない。
 
 日本で東京国際経済会議が開かれたが、次はロンドンで海軍軍縮会議が行われる予定になっている。前回の海軍軍縮会議では小型艦の制限が無かったから、主に各国の主張が交わされるのは小型艦になると予想される。
 小型艦は日本にとって重要項目だから、今回の海軍軍縮会議は紛糾しそうだよなあ……上手くいくことを願ってるぜ。

 ※作中の大臣達は仮名です。実在の人物ではありません。イギリスの経済学者は名前出してませんが、もう皆さんお分かりですよね? 固有名詞をなるべく出さないようにしてますので、名前を出してません。
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