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82.1942年 秋頃 国境紛争勃発 過去

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――エネルギー開発研究所 叶健太郎 過去
 叶健太郎はエネルギー開発研究所の取材に訪れていた。ここでは既存の火力や水力発電だけでなく、実験的なエネルギー開発研究も行われている。といっても叶健太郎がここを訪れた目的は、ダム建設によってどれくらい電力が賄われるのか調査に来たに過ぎず、叶健太郎自身が一番興味のある新エネルギーについては時間が余れば取材といった形になる。
 ダム建設は大小様々だが、難工事になることが多く死者も出ているほどだ。国をあげてダム建設が進んでいるが、工事に当たる人にとっては命がけといっても言い過ぎではない危険な業務となる。
 
 ダム建設の目的は二つあって、一つは治水。もう一つは水力発電になる。水力発電は火力発電と違い資源を消費して発電を行うものではないから、石油、石炭資源に乏しい日本にはあって損はない発電方式だろう。
 家庭や企業への電化製品の普及は目覚ましく、日本の年間消費電力は年々増加の一途を辿っている。ダム建設でどれだけ対応できるのか叶健太郎も知りたいところなのだ。
 
 取材に訪れた叶健太郎は応接室に通されると、既に研究所のスタッフが彼を待っていたのだが……
 
義龍よしたつじゃないか。せっかく取材に来たって言うのに」

 叶健太郎を待っていたのは息子の義龍よしたつで、叶健太郎は待っていたのが息子だとわかるとげんなりとした顔になる。
 
「父さんが来るっていうから、俺が取材対応することになったんだよ」

 息子も不本意といった様子で叶健太郎へ言い返す。
 
「何が悲しくてわざわざ息子へ取材にくるんだよ……」

「それはこっちのセリフだよ。父さん……」

 彼らはお互いに顔を見合わせ大きなため息をつく。ため息をついたときの表情が二人ともそっくりで親子だなと感じさせるものだった。

「取材で出していい資料とかあるんだろ。見せてくれよ」

「このファイルに入ってるよ。持って帰っていいみたいだから」

「そうか。ありがとうな」

 叶健太郎は息子から水力発電とダムについての関連資料を受け取ると、中身をチラリと見て鞄にしまい込んだ。
 
「父さん。中身を見ながら取材しないのかよ!」

「いや、お前になら電話で聞けばいいじゃねえか。わざわざここで聞かなくてもいいだろ」

「ぶっちゃけたなあ。父さん。まあそうだけどさ」

「ははは。細かいことはいいんだよ。転んでもただじゃおかねえ俺は別のことを取材したい」

「何を聞きたいんだい? 父さん」

「新エネルギーのことだよ。許可が下りている分だけでいいからさ。資料をくれとは言わねえ」

「全く……父さんらしいよ」

 息子はあきれたように肩を竦めるが、父の態度はいつものことなので記事にしないことを約束してもらい新エネルギーについて父に説明を始める。

「書いて良いとなったら教えてくれよ」

「了解」

 息子が説明した研究中のエネルギーはいくつかあって、自然エネルギーを利用した太陽光、波、地熱の三つと、理論が確立されている原子力について教授してくれた。
 太陽光は技術的に非常に困難らしく、発電効率が非常に悪くこのままでは使い物にならないらしい。波も同様で地熱は三つの中では一番マシではあるが、現状コストが高すぎてまだまだ採用には遠い。
 原子力は暴発する恐れがあるから慎重に研究を重ねているとのこと。発電効率は悪く無いけど扱いが難しい見込みと息子は語っていた。
 
 叶健太郎はついでに日本では余り採用されていない既存技術の風力発電について聞いてみたが、日本の風土だとそこまでの電力は稼げないそうだ。
 結局、火力発電の効率を良くすることが一番の急務だと息子は語っていた。言っていることは至極当然なのだが、面白みがないなと叶健太郎は思うのだった。
 
――磯銀新聞
 どうも! 日本、いや世界で一番軽いノリの磯銀新聞だぜ! 今回もエッセイストの叶健太郎が執筆するぜ! 秋はいいな。過ごしやすくていい。野球の本場はアメリカになるんだけど、本国では黒人選手が冷遇されていることに目を付けた日本のとあるプロ野球球団が黒人選手をスカウトしたんだよ。
 これが大活躍でさ。この活躍をみた他の球団も黒人選手をアメリカからスカウトしたもんだから、急きょプロ野球連盟は外国人選手枠を三人までと定めたんだ。いやあ、すごいな本場の選手って。パワーが違うわ。
 愛嬌とサービス精神が旺盛な黒人選手は子供たちから大人気で、プロ野球には無くてはならない存在にまでなってしまったんだぜ。この話で少しでも野球に興味でた人は一度野球中継を見てみてくれよな。
 
 満州とモンゴルの間でついに国境紛争が発生してしまった。モンゴルと満州はお互いに国境線の係争地へ軍を派遣し睨み合っていたのだが、モンゴル軍が満州が実効支配している地域に一歩踏み込んだ時、満州軍が発砲したことで国境紛争が始まる。
 モンゴル軍は内モンゴルの蒙古ソビエト共和国と中華ソビエト共和国の軍隊と共に満州の実効支配地域に反撃を行い、満州側もこれを防衛すべく応戦し戦いが本格化する。
 三国の連合軍と満州では兵力の差もあり、満州軍は十日も実効支配地域を防衛できずに撤退する。三国連合軍はモンゴルが主張する国境線より満州側には侵入せず、軍をここに留まらせたんだ。
 
 戦争にまで発展してしまった満州国境問題に対し、アメリカはモンゴル側へ再度国境線について協議するよう打診するもモンゴル側は自国の主張する国境線以外支持しないと表明する。
 まあ、モンゴルは最初満州に国境線問題を打診した時に満州が拒否しているから、逆にモンゴルが実効支配に及んだらそら断るよなあ。
 
 アメリカはモンゴルが国境線の協議を拒否したことを受けて、満州と対応を協議し、満州へモンゴルと満州の妥協すべき国境線を提議する。
 アメリカは満州が妥協した国境線をモンゴルへ提案するが、モンゴルは受け入れることは無かった。その為アメリカはモンゴルへ妥協案の国境線を確保するとして、米軍を国境線に侵入させたんだ。
 三国連合軍は米軍へ応戦するも、両軍の技術格差が勝敗を分け、米軍は彼らが指定する国境線の確保に成功する。これに収まらない三国は米軍に反抗作戦を実施すべく動員をかけ始めてしまう事態まで発展してしまったんだよ。
 
 三国が総動員をかけ、米軍に対することになれば米軍も増強せざるを得なくなるし、ソ連まで出てくるかもしれないぞ。
 日本政府はアメリカの拙速を非難し、本案件はアメリカが仕掛けたものとして、ソ連が参戦したとしても日本の参戦義務はないと表明した。
 日本の表明に対しアメリカは日本の参戦義務はないと日本へ同意する。これは先日の防衛協定の決定事項を日米両国で確認した形だな。  
 
 日本はポーランドのソ連占領地域において独墺軍の後方支援を行っており、極東の戦争は避けたいところだったが満州国境紛争を受けロシア公国の防備を強化することを決定する。
 満州国境紛争はソ連を相当刺激するだろうから、ロシア公国の安全保障の為、日本は動いたんだよな。
 
 ポーランド戦線だが、独墺軍がソ連の巻き返しによって一進一退の攻防を続けていたが、ドイツでこのまま戦争の泥沼化を危惧する声が大きくなってくる。
 そこで、ドイツ軍部が今後の戦略を協議した結果「占領地に拘らず、機動力を生かした戦争を行う」方針を決定し、独墺軍は軍の立て直しに入った。この作戦が吉と出ればいいんだけどなあ。
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