凄腕の探索者? いいえ、ただの釣り人です~ゲームに似た異世界に転移したが、ただの素材集めキャラなのでのらりくらりと過ごそうと思います~

うみ

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第50話 納品納品

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 変な空気の中、受付の女の子がアーニーに向け助けを求めるようにウサギ耳をちょんちょんと動かしている。こわばったまま笑顔を浮かべ、ウサギ耳だけが動いているのは何ともシュールで、こちらとしてもいたたまれない気持ちになってきた。俺のお作法が悪かったんだよな。
 意を決し声を出そうとするより早く、アーニーが動いてくれた。
「ミミちゃん、聖杯の水はハミルさんからの依頼なんです」
「う、うん、あの聖杯の水なんだよね? アーニーさんたちが偽りを言うはずがないもの」
「あ、てんちょおがちょいと押したら中身が漏れちゃうかも、な水袋へ雑に入れてたからびっくりしたのかな?」
「……う、うん」
 言い辛そうにうつむいて、肯定する受付のうさ耳の女の子。
 聖骸の水の保管方法がよくなかったのか? 一番いいのは小瓶なのだろうけど、手間がねえ。空の小瓶の手持ちがなく、小瓶に聖骸の水を入れようとすると買い出しからはじめなきゃならん。
 あ、蓋つきの水桶とかに入れてくればよかったのか? 小瓶と違って一つで済むからそれほど手間もかからない。
「水桶……空の酒樽ならホームにあったかもしれない」
「唐突にどうされたんです? お酒ならこの後飲みに行きましょうよ!」
「アーニーはアルコールダメよ」
「そんなあ……」
 つい呟いてしまっていたらしく、アーニーが即反応してしまった。
「あ、あはは……も、申し訳ありません。お二人のやり取りがあまりに微笑ましくて」
 受付の女の子はウサギ耳をペタンとさせて深々と謝罪する。
 彼女がくすりとくる要素って何だろうか。
 …………!
「あ、そうか、やっと分かった」
 我が意を得たりと声が大きくなり過ぎたようで、受付の女の子のウサギ耳の毛が逆立っていた。アーニー? 彼女は特に動じた様子はない。
 彼女は俺の奇行に慣れっこだからね。
 俺の考えがあっているか、受付の女の子に聞いてみよう。これだけ得意気で間違っていたら赤面ものだけど。
「もしかしてなのですが、聖杯の水ってレストラン一回分くらいの価値になったりします?」
「街で一番のレストランでお食事してもおつりがきますよ……」
「アーニーと二人で食事したらさすがに?」
「……おつりがきます」
 な、なんだと……想定以上に聖杯の水がお高い。ゲーム時代のプレイヤーの店で売っていた時の相場って、水袋一個で30から50シェルだった。
 ゲートを使えればお手軽に入手できるアイテムだもの。
 対してアーモンドアイのレストランで一食(飲み物込み)で食事をすると、30シェルくらい。アーニーの分を含めて60シェルくらいかな。
 お高いレストランが三倍くらいのお値段になるとすれば90シェルくらいだろ。二人なら180シェルになる。これでも既に聖杯の水のお値段が数倍にも跳ねあがってるのだが、まだおつりがくるとは。
 なんて内心驚愕していたら、受付の女の子から追撃がくる。 
「水袋ではなく小瓶一つです」
「小瓶一つで高級レストランで食事をしてもお釣りが!?」
 いくらなんでもぼったくり過ぎだろ。入れ物の小瓶が宝石でできているとかじゃないだろうな。
「ミミちゃん、水袋じゃ納品できないの?」
「できるけど、こぼしちゃったら……と思うと怖いよ」
「専用の瓶があるの?」
「うん、ギルドでも売っているよ。一個2シェルだよ」
 そいつは聞き捨てならん。瓶は一個たったの2シェルとは。本当に聖杯の水が数倍の値段になっているのか。
 いやでも、なかなか依頼が達成されないからハミルトンから俺に依頼がきたんだよな。
 情報整理しよう。
 水中神殿の女神像の前で俺は何を考えていた? たしか、聖骸の水の出し方自体、知られていないんじゃね、と。
 なのでお金持ちのお貴族様が、聖骸の水を使った錬金術のレシピを見て作りたくなったとかで、高額依頼の募集となった。
 ……なんて想像してたじゃないか。
 俺の想像が正しければ、聖骸の水(聖杯の水)は超珍品になる。
 市場に滅多に出回らない超珍品となれば、収集癖のあるお金持ちが買い取ってくれそうだ。ただ、供給が増えると欲しい人に行き渡ってしまい価格が崩壊するだろうけどね。
 そこまで考えが至ってたのなら、水袋に入れて雑にカウンターテーブルに置くなんてことしないよ。
「すいません、瓶を50個ほどいただけますか?」
「ご、50個……ですか」
 50個くらあれば汲んできた聖杯の水を小分けにできるかな。瓶を受け取ったら一度ホームへ戻って、ハミルトンに直接渡すことにしよう。
 今度はアーニーに彼とメッセージで連絡を取ってもらって、時間を合わせればいい。
 彼を通さず探索者ギルドへ納品することもできそうだけど、その場合は数個の納品に留めるべきだ。変な騒ぎになるのが嫌だからな。
 偉業だ、偉業だ、と騒がれるだけならともかく、聖杯の水の価格が崩壊すると敏感に反応した怖い権力者なんてのに目を付けられると厄介だろ。
 だったら数個に留めて残りはインベントリーに保管しろって話か。
 どうするかはハミルトンに相談することにしよう。
 
 ◇◇◇
 
 結局、聖杯の水を小瓶に移し全て直接ハミルトンに手渡したんだ。あとは彼によろしくやってもらってとお願いした。
 もちろんその時に変な噂が立たないように、とも頼んでいる。
 その際にハミルトンから渡された小瓶の量が多すぎるので、依頼としては5本のみとして、残りは彼が保管すると言っていた。
 とまあ、そんなこんなで一連の「聖杯の水の納品」依頼は完了となったのである。
 ハミルトンに会ったその足で露店に立ち寄り、いくつかのテイクアウト用の食事を買い込んでアーニーと一緒にホームへ戻った。
「終わった終わった。あとはお任せだな」
「はいー。ハミルさんから連絡がきたらお知らせしますね!」
「助かる。食べよっか」
「どれから食べるか迷いますね」
 ちょっとばかし買い込み過ぎてしまい、ずらりとテーブルにところせましと色んな料理が並んでいる。
 俺は……そうだな、スパイシーな肉と野菜炒めからにしようかな。エールに一番合いそうだし。
 おっと、エールを飲む前に魔法でキンキンに冷やしてっと。
「いただきまーす!」
 ぐいっとエールが喉を通る。
「こいつはたまらん。生きててよかった」
 お約束の感想を述べ、今度は肉へと手を伸ばす。
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