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聖女選出試験
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聖女選出試験。
それは王都でも三年に一度開催される一大イベントだ。もうフェスティバルと呼んでいい賑やかさに都は包まれる。
あちこちでパレードや出店やイベントが開催される。
全国から聖女候補生たちが集められるのだから当たり前なのかもしれない。
期間中、聖女候補生はお互いの交流が禁じられる。
且つ、徹底的に護衛されるので、外出するにもいちいち許可が必要だった。だからあまり出歩かないのが普通だ。
私も同じ。
あまり出歩かず、黙々と一人で聖女選出試験のための勉強と調整をするつもりだった。
そう、つもりだった。
「うん、正解。ここは火属性であってるよ。でもここは惜しいわね。元素付与記号を良く見て、実は裏属性があって、そっちが勝ってるのよ」
黒板に、ベス様の文字が躍る。
走り書きなのに美しいのは、基礎が完成されているからだと
おっしゃってたけれど、本当にそうなのかと思うくらいキレイだ。
そして、分かりやすい。
ベス様はあれからも頻繁に私をたずねてくれて、こうして勉強も歌も教えてくれた。
びっくりするくらい丁寧だ。
声の調整にいつもより時間がかかるから、という理由らしい。
ともあれ、私としてはラッキーだ。
いつもより勉強に励むこともできるし。
「では、水属性ですか?」
「正解。いいね。ちゃんと勉強してきてる証拠。試験ではこういう引っ掛け問題が結構出てくるよ。しかも配点高いし」
「そこで聖女としての本質が問われるんですね」
「そういうこと。正しい知識と正しいタイミングで使えるようになっておくのは、判断において重要な下地になるからね。じっくり考えたり調べたりする時間がないときもある。特に魔物を相手取る時はね」
一瞬の判断が大事になる。
そんな時、すぐに思い出せる知識が役に立つ。
「じゃあ次、ここはね――……」
◇ ◇ ◇
賑やかな町というのは楽しい。
特に王都となると、ただでさえ大きくて栄えているのに、その勢いといったら筆舌にしがたい。
シルニアは、護衛を引き連れてそんな町に足を運んでいた。
本来ならば勉強するべきなのに出歩いているのは、ミルの声を奪った余裕からである。もちろん、そもそも座学の成績が優秀であることも手伝っている。
いずれ、この道もパレードが開かれる。
自分が聖女になった記念に、である。
「そのためのシミュレーションもしておかねばなりません」
ゆっくりと練り歩きながら、時折聞こえてくる音楽にハミングを混ぜる。
それだけで、近くを通っていた民衆が取り付かれたように振り返り、時には拍手を送ってくる。
「ふふっ、良く覚えておいて。この声が、今年の聖女の声よ」
嬉しすぎて、有頂天になる。
つい話し言葉にも歌声を使うくらいには。
「それにしても喉が渇きますわね。ドリンクをいただけるかしら」
喉を少しなでながら、シルニアは護衛の一人に命令を下す。
この喉になってから良く喉が渇く。
それだけ繊細なのだろう。手入れは大事になってくる。
「試験まで、大事にしないといけませんわ」
喉を違和感を忘れるようにして、シルニアはそう独りごちた。
負けない。
負けるはずがない。
なんていったって、あのミルの歌声を自分のものにできたのだから。
忘れられない。
コンサートの日、披露されたミルの歌声。
あの声は脅威だった。
嫉妬と同時に怒りも涌いた。
冷酷令嬢の分際で、どうしてそんな声を。
だから奪い取った。
自分こそが、聖女にもっともふさわしいのだから。
それは王都でも三年に一度開催される一大イベントだ。もうフェスティバルと呼んでいい賑やかさに都は包まれる。
あちこちでパレードや出店やイベントが開催される。
全国から聖女候補生たちが集められるのだから当たり前なのかもしれない。
期間中、聖女候補生はお互いの交流が禁じられる。
且つ、徹底的に護衛されるので、外出するにもいちいち許可が必要だった。だからあまり出歩かないのが普通だ。
私も同じ。
あまり出歩かず、黙々と一人で聖女選出試験のための勉強と調整をするつもりだった。
そう、つもりだった。
「うん、正解。ここは火属性であってるよ。でもここは惜しいわね。元素付与記号を良く見て、実は裏属性があって、そっちが勝ってるのよ」
黒板に、ベス様の文字が躍る。
走り書きなのに美しいのは、基礎が完成されているからだと
おっしゃってたけれど、本当にそうなのかと思うくらいキレイだ。
そして、分かりやすい。
ベス様はあれからも頻繁に私をたずねてくれて、こうして勉強も歌も教えてくれた。
びっくりするくらい丁寧だ。
声の調整にいつもより時間がかかるから、という理由らしい。
ともあれ、私としてはラッキーだ。
いつもより勉強に励むこともできるし。
「では、水属性ですか?」
「正解。いいね。ちゃんと勉強してきてる証拠。試験ではこういう引っ掛け問題が結構出てくるよ。しかも配点高いし」
「そこで聖女としての本質が問われるんですね」
「そういうこと。正しい知識と正しいタイミングで使えるようになっておくのは、判断において重要な下地になるからね。じっくり考えたり調べたりする時間がないときもある。特に魔物を相手取る時はね」
一瞬の判断が大事になる。
そんな時、すぐに思い出せる知識が役に立つ。
「じゃあ次、ここはね――……」
◇ ◇ ◇
賑やかな町というのは楽しい。
特に王都となると、ただでさえ大きくて栄えているのに、その勢いといったら筆舌にしがたい。
シルニアは、護衛を引き連れてそんな町に足を運んでいた。
本来ならば勉強するべきなのに出歩いているのは、ミルの声を奪った余裕からである。もちろん、そもそも座学の成績が優秀であることも手伝っている。
いずれ、この道もパレードが開かれる。
自分が聖女になった記念に、である。
「そのためのシミュレーションもしておかねばなりません」
ゆっくりと練り歩きながら、時折聞こえてくる音楽にハミングを混ぜる。
それだけで、近くを通っていた民衆が取り付かれたように振り返り、時には拍手を送ってくる。
「ふふっ、良く覚えておいて。この声が、今年の聖女の声よ」
嬉しすぎて、有頂天になる。
つい話し言葉にも歌声を使うくらいには。
「それにしても喉が渇きますわね。ドリンクをいただけるかしら」
喉を少しなでながら、シルニアは護衛の一人に命令を下す。
この喉になってから良く喉が渇く。
それだけ繊細なのだろう。手入れは大事になってくる。
「試験まで、大事にしないといけませんわ」
喉を違和感を忘れるようにして、シルニアはそう独りごちた。
負けない。
負けるはずがない。
なんていったって、あのミルの歌声を自分のものにできたのだから。
忘れられない。
コンサートの日、披露されたミルの歌声。
あの声は脅威だった。
嫉妬と同時に怒りも涌いた。
冷酷令嬢の分際で、どうしてそんな声を。
だから奪い取った。
自分こそが、聖女にもっともふさわしいのだから。
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