10 / 11
救いの声
しおりを挟む
「メイシャ。気に病まないで」
アイナを連行し、全ての事情を問い質した翌日、辺境伯死亡の報せが届いた。アイナの指名手配と同時に。
こうなるのは当然の流れだ。
そして、私たちとしてもアイナを保護することはできない。
辺境伯を殺したアイナは大罪人だ。
もちろん辺境伯に人間とは思えないような行為をしていたのは事実で、そのあたりは斟酌されるべきだけれど――
それを差し引いても、アイナの罪は重い。
「アイナの尋問に立ち会ってきた」
「チル伯爵……」
「酷かったよ。彼女は一方的に君を憎んでいた。一方的に君を道具のようにしか思っていなかった。君が同情する理由はどこにもない」
普段誰にも優しくて、誰に対しても誠実なチル伯爵が言う。
その険しい表情には、疲れさえ見えた。
それだけの悪意にあてられてしまったのだ。
「ごめんなさい……」
「大丈夫だよ、メイシャ」
チル伯爵が私を抱き寄せてくれる。
「彼女は君から全てを奪おうとしていた。君の不幸を望んでいた。自分が犯した死罪に等しい罪を無視して、正当化して」
「それは……」
「確かに彼女はおぞましい虐待を受けた。でも、報いであるともいえる。彼女によって無為に殺されてきた人たちの怒りだよ」
そう、なのかもしれない。
アイナは私にだけでなく、一般市民にも手を出していたのだ。貴族としてやってはいけない。そういう意味で、同類である辺境伯を呼び寄せてしまったのだろう。
「あと、彼女の母親も同じような目にあって、二カ月前に命を落としているらしい」
「まさか、それも?」
「辺境伯だね」
これは辺境伯一族にとってもスキャンダルだろう。
かなりの大惨事である。
今頃王都の方でも炎上していることだろう。当然、一族から辺境伯を選出することはかなわない。
「まさか、父上は……」
「火の粉が飛ばないように離縁していた可能性はあるね」
その父上は、離縁と同時に年の離れた弟に地位を渡して隠居している。情報からも隔絶された田舎でゆっくりと生きているのだ。
もしかしたら、こうなることを分かっていて?
だとしたら……?
いや、でもそうかもしれない。
父上は婚約者交換の時、妙に物わかりよく理解し、その火消しに手を尽くしていた。とてもキレイで、何事もなかったかのように。
すべては、私に火の粉が及ばないようにするため?
私は、守られたんだ。
ずっと、ずっと。
そうだ。
妹から幸せを奪われた後、いつだって父上が私に新しい幸せを与えてくれた。そのきっかけを渡してくれていた。
不器用だったけど、私の畑だけは妹に手出しさせなかった。
私はっ……
「だから、メイシャ。君は許さなくていい。許さなくていいんだよ」
私は涙が溢れる。
そうだ。そうだったんだ。
ずっと諦めてきた。
妹から奪われることを、我慢して諦めてきた。
でもそれが溢れて、最後の幸せだけは渡したくなくて、妹に奪われるように仕向けた。
でも、そうだ。
私は許さなくていいんだ。父上は、分かってて。
私は――
「メイシャ。君は僕が守るから」
「チルっ……!」
私はチル伯爵に抱き着いた。
そのまま泣いて、そのまま慰めてもらった。
「ずっと一緒にいようね」
「はい……っ!」
アイナを連行し、全ての事情を問い質した翌日、辺境伯死亡の報せが届いた。アイナの指名手配と同時に。
こうなるのは当然の流れだ。
そして、私たちとしてもアイナを保護することはできない。
辺境伯を殺したアイナは大罪人だ。
もちろん辺境伯に人間とは思えないような行為をしていたのは事実で、そのあたりは斟酌されるべきだけれど――
それを差し引いても、アイナの罪は重い。
「アイナの尋問に立ち会ってきた」
「チル伯爵……」
「酷かったよ。彼女は一方的に君を憎んでいた。一方的に君を道具のようにしか思っていなかった。君が同情する理由はどこにもない」
普段誰にも優しくて、誰に対しても誠実なチル伯爵が言う。
その険しい表情には、疲れさえ見えた。
それだけの悪意にあてられてしまったのだ。
「ごめんなさい……」
「大丈夫だよ、メイシャ」
チル伯爵が私を抱き寄せてくれる。
「彼女は君から全てを奪おうとしていた。君の不幸を望んでいた。自分が犯した死罪に等しい罪を無視して、正当化して」
「それは……」
「確かに彼女はおぞましい虐待を受けた。でも、報いであるともいえる。彼女によって無為に殺されてきた人たちの怒りだよ」
そう、なのかもしれない。
アイナは私にだけでなく、一般市民にも手を出していたのだ。貴族としてやってはいけない。そういう意味で、同類である辺境伯を呼び寄せてしまったのだろう。
「あと、彼女の母親も同じような目にあって、二カ月前に命を落としているらしい」
「まさか、それも?」
「辺境伯だね」
これは辺境伯一族にとってもスキャンダルだろう。
かなりの大惨事である。
今頃王都の方でも炎上していることだろう。当然、一族から辺境伯を選出することはかなわない。
「まさか、父上は……」
「火の粉が飛ばないように離縁していた可能性はあるね」
その父上は、離縁と同時に年の離れた弟に地位を渡して隠居している。情報からも隔絶された田舎でゆっくりと生きているのだ。
もしかしたら、こうなることを分かっていて?
だとしたら……?
いや、でもそうかもしれない。
父上は婚約者交換の時、妙に物わかりよく理解し、その火消しに手を尽くしていた。とてもキレイで、何事もなかったかのように。
すべては、私に火の粉が及ばないようにするため?
私は、守られたんだ。
ずっと、ずっと。
そうだ。
妹から幸せを奪われた後、いつだって父上が私に新しい幸せを与えてくれた。そのきっかけを渡してくれていた。
不器用だったけど、私の畑だけは妹に手出しさせなかった。
私はっ……
「だから、メイシャ。君は許さなくていい。許さなくていいんだよ」
私は涙が溢れる。
そうだ。そうだったんだ。
ずっと諦めてきた。
妹から奪われることを、我慢して諦めてきた。
でもそれが溢れて、最後の幸せだけは渡したくなくて、妹に奪われるように仕向けた。
でも、そうだ。
私は許さなくていいんだ。父上は、分かってて。
私は――
「メイシャ。君は僕が守るから」
「チルっ……!」
私はチル伯爵に抱き着いた。
そのまま泣いて、そのまま慰めてもらった。
「ずっと一緒にいようね」
「はい……っ!」
14
あなたにおすすめの小説
ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
ヒロインがいない。
もう一度言おう。ヒロインがいない!!
乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。
※ざまぁ展開あり
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
悪役令嬢に相応しいエンディング
無色
恋愛
月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。
ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。
さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。
ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。
だが彼らは愚かにも知らなかった。
ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。
そして、待ち受けるエンディングを。
9時から5時まで悪役令嬢
西野和歌
恋愛
「お前は動くとロクな事をしない、だからお前は悪役令嬢なのだ」
婚約者である第二王子リカルド殿下にそう言われた私は決意した。
ならば私は願い通りに動くのをやめよう。
学園に登校した朝九時から下校の夕方五時まで
昼休憩の一時間を除いて私は椅子から動く事を一切禁止した。
さあ望むとおりにして差し上げました。あとは王子の自由です。
どうぞ自らがヒロインだと名乗る彼女たちと仲良くして下さい。
卒業パーティーもご自身でおっしゃった通りに、彼女たちから選ぶといいですよ?
なのにどうして私を部屋から出そうとするんですか?
嫌です、私は初めて自分のためだけの自由の時間を手に入れたんです。
今まで通り、全てあなたの願い通りなのに何が不満なのか私は知りません。
冷めた伯爵令嬢と逆襲された王子の話。
☆別サイトにも掲載しています。
※感想より続編リクエストがありましたので、突貫工事並みですが、留学編を追加しました。
これにて完結です。沢山の皆さまに感謝致します。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
【短編】お姉さまは愚弟を赦さない
宇水涼麻
恋愛
この国の第1王子であるザリアートが学園のダンスパーティーの席で、婚約者であるエレノアを声高に呼びつけた。
そして、テンプレのように婚約破棄を言い渡した。
すぐに了承し会場を出ようとするエレノアをザリアートが引き止める。
そこへ颯爽と3人の淑女が現れた。美しく気高く凛々しい彼女たちは何者なのか?
短編にしては長めになってしまいました。
西洋ヨーロッパ風学園ラブストーリーです。
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる