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救いの声

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「メイシャ。気に病まないで」

 アイナを連行し、全ての事情を問い質した翌日、辺境伯死亡の報せが届いた。アイナの指名手配と同時に。
 こうなるのは当然の流れだ。
 そして、私たちとしてもアイナを保護することはできない。

 辺境伯を殺したアイナは大罪人だ。

 もちろん辺境伯に人間とは思えないような行為をしていたのは事実で、そのあたりは斟酌されるべきだけれど――
 それを差し引いても、アイナの罪は重い。

「アイナの尋問に立ち会ってきた」
「チル伯爵……」
「酷かったよ。彼女は一方的に君を憎んでいた。一方的に君を道具のようにしか思っていなかった。君が同情する理由はどこにもない」

 普段誰にも優しくて、誰に対しても誠実なチル伯爵が言う。
 その険しい表情には、疲れさえ見えた。
 それだけの悪意にあてられてしまったのだ。

「ごめんなさい……」
「大丈夫だよ、メイシャ」

 チル伯爵が私を抱き寄せてくれる。

「彼女は君から全てを奪おうとしていた。君の不幸を望んでいた。自分が犯した死罪に等しい罪を無視して、正当化して」
「それは……」
「確かに彼女はおぞましい虐待を受けた。でも、報いであるともいえる。彼女によって無為に殺されてきた人たちの怒りだよ」

 そう、なのかもしれない。
 アイナは私にだけでなく、一般市民にも手を出していたのだ。貴族としてやってはいけない。そういう意味で、同類である辺境伯を呼び寄せてしまったのだろう。

「あと、彼女の母親も同じような目にあって、二カ月前に命を落としているらしい」
「まさか、それも?」
「辺境伯だね」

 これは辺境伯一族にとってもスキャンダルだろう。
 かなりの大惨事である。
 今頃王都の方でも炎上していることだろう。当然、一族から辺境伯を選出することはかなわない。

「まさか、父上は……」
「火の粉が飛ばないように離縁していた可能性はあるね」

 その父上は、離縁と同時に年の離れた弟に地位を渡して隠居している。情報からも隔絶された田舎でゆっくりと生きているのだ。
 もしかしたら、こうなることを分かっていて?

 だとしたら……?

 いや、でもそうかもしれない。
 父上は婚約者交換の時、妙に物わかりよく理解し、その火消しに手を尽くしていた。とてもキレイで、何事もなかったかのように。
 すべては、私に火の粉が及ばないようにするため?

 私は、守られたんだ。

 ずっと、ずっと。
 そうだ。
 妹から幸せを奪われた後、いつだって父上が私に新しい幸せを与えてくれた。そのきっかけを渡してくれていた。
 不器用だったけど、私の畑だけは妹に手出しさせなかった。

 私はっ……

「だから、メイシャ。君は許さなくていい。許さなくていいんだよ」

 私は涙が溢れる。
 そうだ。そうだったんだ。

 ずっと諦めてきた。

 妹から奪われることを、我慢して諦めてきた。
 でもそれが溢れて、最後の幸せだけは渡したくなくて、妹に奪われるように仕向けた。
 でも、そうだ。
 私は許さなくていいんだ。父上は、分かってて。

 私は――

「メイシャ。君は僕が守るから」
「チルっ……!」

 私はチル伯爵に抱き着いた。
 そのまま泣いて、そのまま慰めてもらった。

「ずっと一緒にいようね」
「はい……っ!」
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