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もうこりごりです!

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「ちょっと、また何を口だそうというのかしら。嫁いできた嫁の分際で図々しい」
「そうだ! うちに来た以上、うちのやり方に従え! お前は何もするな!」
「本当にでしゃばりねぇ。それとも我が家を乗っ取るつもりなのかしら、いやねぇ」
「なんだと! いくら長男の嫁とはいえ、そんな横暴は断じて許さんぞ! チャーリー! お前は男なんだったらもっと嫁を教育したらどうなんだ!」

 ──以上。
 これが今日の領主会議という名の吊し上げの内容である。

 議題は、つい先日行われた戦争の敗北、引いては帝国が隣国にちょっかいをかけて失敗したことを起因とする経済危機について、である。

 真剣に考え込まなければならない状態なのに、この有り様である。私たち夫婦はもう乾いた笑いしか出てこない。
 こんなバカみたいなウトとトメだけど、旦那はマトモに育ったのが唯一の救いなのかもしれない。向こうは旦那を私が洗脳しつつあるとか思ってるけど。

 なんだ、私は呪術師か何かか。

 もしそんな力があるんならトメとウトの方を洗脳してるって。
 いや本気で。
 なんて思いつつ、私たちは自室へと戻った。

「いやはや、これは本気で困ったね。ごめんな、メイ」

 ドアを閉めるなり、夫であるチャーリーが深いため息をついて謝ってくる。
 実の両親だけあって、なおさらダメージが大きいのだろう。消耗具合でいえば、私とどっこいどっこいだろう。

 私は控えていたメイドさんにお茶を二つお願いしてから、椅子に座る。

 しかし、本気で困ったわね。
 チャーリーの言葉に私は完全同意しかない。

 うちの国は帝国に属する辺境国だ。元々は王国だったんだけれど、帝国の圧力に屈して臣下に入った経緯があって、周辺諸国も同じ経緯を辿っているからか、辺境諸国ってひとくくりにされている。
 一応、一定の自治権は与えられていて、通貨も独自のものだけど、派兵要請なんかに対して拒否権はない。

 なので、世間的には帝国の一部とみなされている。

 そこが大きな問題だ。
 繰り返すけど、先日、帝国は隣国ともめた。それも盛大にやらかした。やり方も悪かったせいで、国際的に非難され、さらには王国との前哨戦ともいえる国境線の戦いであっさりと負けた。

「物流の流れは確実に悪くなっているね。商人の数も減ってしまった」
「諸外国の商人は、大多数が国外退去していってるからね」

 関所から届いている商人の出国リストの束を見て、私は臍を噛む。

「戦争の匂いをかぎ取って様子見していたようだけれど、帝国が惨敗したからね」
「負け戦に金は実らない、か。商人らしいわ」

 物が売れないのは正直に頭が痛いんだけれど、懸念材料はまだある。むしろこっちが深刻だ。

「そうだ、メイ。帝国南部の最新情報が入ってきたよ。見る?」
「うん。ってこれは……」
「大型のハリケーンが立て続けに三つ、襲い掛かったみたいだ。ルートは、どれも穀倉地帯をがっつり横断してるね」
「約一週間の大雨のせいで川が軒並み氾濫、洪水をはじめとした大災害が起きている……これはマズいわね」
「今年は夏の到来も早くて、干ばつ状態だったところにコレだからね」

 今年は帝国南部にとっては試練の年だ。
 おそらく、農作物はほとんど全滅だろう。そして、帝国南部は帝国中央部にとって穀倉地帯であり、台所でもある。そこがダメになるってつまり、大飢饉が待ち受けている。

「貿易による輸入、も厳しそうね」

 今、諸外国のほとんどが帝国との関りを避けている。
 金に糸目をつけなければ多少は融通してもらえるだろうが、帝国の食料事情を支えられる量は期待できないだろう。

「今は備蓄があるけれど、この冬は危険かもしれない」

 そう。
 この国は三方が山、一方が大きい湖に囲まれていて、移動ルートはかなり限られてしまう。特に冬場は物流が特に厳しくなる。
 だから必要なものは秋口にまとめて買ってしまうのが常だ。幸い、山の幸は豊富だし畜産も豊かだから、必需品は限られてくるんだけど、今年はそうもいかないだろう。
 もちろんその気配はウトとトメも気付いているはずだ。

「にもかかわらず、あの二人は買いだめする方向で動いてるのよね」

 頭痛の種でしかない。
 もちろん買いだめそのものが悪いワケじゃない。ただ、二人の魂胆が見え見えなのだ。
 食料危機が訪れたら、必ずこの国にも中央の商人たちが買いあさりにやってくるだろう。その時に、高値で売りつけようという魂胆だ。おそらく一番高値を払う商人に売り払うのだろう。

 当然、自国の商人より、中央の商人の方が金はあるわけで。

 結果、食料は大量に流出し、肉や山の幸まで買い尽くされてしまうだろう。結果、何もなくなって国民たちは飢える。
 簡単に予測できる未来だ。

「いやホント。来年以降どうするんだか。下手したら暴動、一揆だよ。その時、騎士団がどれだけ機能するか……ううん」
「考えない方がいいわ。その未来を避けるために動かないと」
「うん。そうだね、その通りだ。我が親ながら情けない」

 すっかり呆れた様子で、チャーリーは頭を抱える。
 旦那のチャーリーは理解がある。あの両親から生まれたとは思えないくらい聡明だ。
 まぁ、だからこそ私が好きになったんだけど。

「じゃあ、やっちゃう?」

 私は提案をする。

「……そうだね、やっちゃおうか。今ここで手をこまねいていても、誰も幸せにならないからね」

 チャーリーは面白そうに微笑む。

「今、ここで実行しよう。こういうの下剋上って言うんだっけ?」
「ちょっと違うと思うけど、似たようなものじゃない?」
「ふふっ。そうか。乗っ取りでもあるもんね。でも、民のためだ」
「ええ、そうね。頑張りましょう」

 今、領主はウトであり、妃はトメだ。
 事実上の反乱だし、内乱になるのかもしれないけれど、これ以上の圧政悪政を無視できないしね!

 本当は、ぶん殴るなり何なりして強制的に立ち退いてもらうのも手ではあるんだけど。

 さすがにそこそこのお年寄りだし、旦那からすれば肉親だし。
 ということで、そこは本当に最終手段にするとして、まずは民と国を救うために動かなければ!

 私は握りこぶしを作って、ぐっと窓越しに空を見た。
 本当はぶん殴りたかった……っ!
 って言っても、所詮せんなきこと。とにかくぎゃふんって言わせてやるんだから!





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