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ストレス発散
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「いや、え、ニセモノ?」
さすがに私も驚いて聞き返すと、チャーリーは強く頷いた。
「あの二人は舌が鋭敏なわけじゃないからね。何より、海鮮なんて滅多に食べないから余計だよ。味なんて分からないから」
実の両親に対してかなり酷評である。いや、肉親だからこその評価だろうか。
私は顔を引きつらせながらも、文句は言わない。
チャーリーのこのアイデアは、確かに有効だと思うからだ。
うん、ニセモノ食って舌鼓を打つ二人。控えめに言って最高。
いいぞやれー! と内心で叫んでおく。
しかし、旅行プランナーはさすがに気まずそうだった。面と向かって否定しないのは、私たちを慮ってなのか、自分も煮え湯を飲まされているからなのか。
詮索はしない方がいいよね。
「あ、でもニセモノって言い方が悪いね。海鮮のグレードを下げられるものは下げていこう」
さすがに巨大海老なんかは削れないだろうけれど、確かに下げられるものはあると思う。
「グレードを下げる、ですか」
「要するにあの二人は贅沢がしたいんだ。分かりやすい贅沢って言えばいいのかな。とにかく品数を増やせってことなんだろう?」
「はい、そうです」
「じゃあ品数を増やす分だけグレードを下げればいい。あそこは海鮮がとっても新鮮なんだろう? グレードが下がっても美味しいと思うんだけど」
「それはもちろん。信頼できる漁港から取り寄せますので、品質には問題はありません。単純に漁獲量の違い等で値段に差が出ていたりしますから」
「うん。じゃあそれでいこう。料理名もテキトーに長ったらしいのにしておけば問題ないよ。そうしたら何が入ってるか、なんて聞いてこないから」
ああ、必殺の無知は晒したくない理論だ。
二人はかなりの見栄っ張りだから、なぞめいた名前を聞いたら知ったかぶりをするクセがあるのだ。
肉親だけあって知り尽くしているなぁ……。
悲しい習性を利用しているとも言うけれど。
ともあれ、予算は削らない方向で話はまとまった。そもそも私たちは参加しないので、予算も削った状態でオファーしているのだ。余剰予算などない。
いや、しっかしまぁ。
私の食費やら移動費やらを削って自分たちの食事を豪華なものにって、どんだけイビりたいんだろうね、私のこと。
想像するに、とんでもない何かで移動させられたりするんだろうなぁ。ついていったら。ついていかないけど、絶対に。
とはいえ、これでストレスがたまらないといったら嘘になる。さて、どうしてくれようか。
◇ ◇ ◇
さしあたってのストレス発散といえば、一つしかない。
翌日、早速出陣した私たちは山に入り、途中で分かれる。単独行動で私は目的地に辿り着いて、そっと気配を隠し、物陰に潜んだ。
うっそうと茂る森の中、ウェアウルフの集落があった。
規模は大きくない。
そこらの枝葉を集めて、簡単なテリトリーと寝具らしきものを用意している程度だ。何かの骨が転がってるのは食事の残骸だろう。
警戒心が高いのは、まだ逃げている途中で落ち着かないからだろう。王国軍にこっぴどくやられたのかもしれない。
いやはや、だからってこっちで安寧が訪れると思っていただきたくない。悪いけれど、こっちも必死なのだ。
町や食糧に悪影響が出ると分かっていて放置はできない。
私は静かに息を整えて姿を連中の前に見せた。
足音だけで気づいたか、耳をピンと立ててウェアウルフたちが一斉に私を睨んでくる。警戒。次いで――驕り。
理由は単純だ。
私が一人で、女だからだ。
ウェアウルフからすれば、貴重な欲望のはけ口であり、食糧だろうから。
「グルルル……ニンゲン、オンナ……」
「「イタダキマスッ」」
威嚇するように唸りながら、ウェアウルフどもが飛びかかってくる!
その俊敏性は人間の限界を超えているが――。
「ごめんね。今、ちょーっと私、腹立ってるの」
私は笑顔で言い放ってから、真正面から飛び掛ってきた一匹目をビンタで叩き落す。さらに右からの一匹を引っつかんで振り回し、左からの一匹を弾き飛ばす。さらに後ろからやってきたヤツには、裏拳をかましてやった。
うん、いい手応え。
「ッギィっ!?」
ウェアウルフどもが驚愕するが、もう遅い。
「あのクソトメとクソウトがあああああああ――――っ!!」
私は八つ当たり三割くらいの勢いで、ウェアウルフたちを制圧していく。
スプラッタな状況は私としても避けたいので、そんなえげつないことはしない。
「きゃいんきゃいんきゃいんっ!!」
「ぎゃんっ!」
「きゅーんっ、きゅーんっ!」
ものの数分でウェアウルフの全員が撃沈し、私に降参の意思を示すかのように地面に伏していた。よーし。完全勝利。
密かに勝ち誇っていると、向こうでも戦闘が始まっているらしい音が聞こえてきた。
チャーリーが指揮するのだから、問題はないだろう。
少し運動ができてスッキリしていると、一番私に挑んできてボコボコにされた一際身体の大きいウェアウルフが頭を上げた。
「ア、アノ、ドウカタベナイデクダサイ」
「……何、食べて欲しいの?」
「きゃいんきゃいんっ!」
「そんな大泣きしなくても食べないわよっ! 大人しくここから出て行くならね」
私は盛大にため息をつく。
正直、私は魔物討伐が好きじゃない。食べないものを殺生するのはGを相手にするときだけと決めているからだ。
だから、私の場合は二度と抵抗しない程度に痛めつけて逃げてもらうようにしている。もちろん、また復讐に来るんならその時は容赦しないけど。
「ウウ、ワカリマシタ」
しょんぼりしつつ、ウェアウルフはふらふらと起き上がる。
な、なんだろう、この妙な罪悪感。
「オレタチ、イクサキ、ナイ」
「うっ……!?」
「タベモノ、ナイ。ニンゲン、オレタチ、ツカマエル、キョウイクスル、ツカウ、ソシテ、ステル。オイダス」
「ううっ……!?」
「カナシイ」
「うううっ……!?」
がっくりうな垂れるウェアウルフの背中。
そうか、そうだよね。
考えてみれば、今回の一件、魔物たちも利用されてるんだよね。帝国が大きく関与して、相手の王国の将軍をたぶらかして、獣人であることを利用して、彼らに何かしらの影響を与えたんだ。
で、高い知性を手にした。
結果、こうなったわけか。
ということは……
「メイ。困ったことになった」
私が結論を出すちょっと前に、本当に困り顔のチャーリーがやってくる。
「向こうのゴブリンとコボルトの集団、あっさりと白旗を掲げてきて、命乞いをしてきてるんだ。かなり知性が高くて言葉も通じてさ、ちょっと色々と訴えられているんだけど」
やっぱり。
私はがっくりと肩を落としたのだった。
これ、どうしよう?
さすがに私も驚いて聞き返すと、チャーリーは強く頷いた。
「あの二人は舌が鋭敏なわけじゃないからね。何より、海鮮なんて滅多に食べないから余計だよ。味なんて分からないから」
実の両親に対してかなり酷評である。いや、肉親だからこその評価だろうか。
私は顔を引きつらせながらも、文句は言わない。
チャーリーのこのアイデアは、確かに有効だと思うからだ。
うん、ニセモノ食って舌鼓を打つ二人。控えめに言って最高。
いいぞやれー! と内心で叫んでおく。
しかし、旅行プランナーはさすがに気まずそうだった。面と向かって否定しないのは、私たちを慮ってなのか、自分も煮え湯を飲まされているからなのか。
詮索はしない方がいいよね。
「あ、でもニセモノって言い方が悪いね。海鮮のグレードを下げられるものは下げていこう」
さすがに巨大海老なんかは削れないだろうけれど、確かに下げられるものはあると思う。
「グレードを下げる、ですか」
「要するにあの二人は贅沢がしたいんだ。分かりやすい贅沢って言えばいいのかな。とにかく品数を増やせってことなんだろう?」
「はい、そうです」
「じゃあ品数を増やす分だけグレードを下げればいい。あそこは海鮮がとっても新鮮なんだろう? グレードが下がっても美味しいと思うんだけど」
「それはもちろん。信頼できる漁港から取り寄せますので、品質には問題はありません。単純に漁獲量の違い等で値段に差が出ていたりしますから」
「うん。じゃあそれでいこう。料理名もテキトーに長ったらしいのにしておけば問題ないよ。そうしたら何が入ってるか、なんて聞いてこないから」
ああ、必殺の無知は晒したくない理論だ。
二人はかなりの見栄っ張りだから、なぞめいた名前を聞いたら知ったかぶりをするクセがあるのだ。
肉親だけあって知り尽くしているなぁ……。
悲しい習性を利用しているとも言うけれど。
ともあれ、予算は削らない方向で話はまとまった。そもそも私たちは参加しないので、予算も削った状態でオファーしているのだ。余剰予算などない。
いや、しっかしまぁ。
私の食費やら移動費やらを削って自分たちの食事を豪華なものにって、どんだけイビりたいんだろうね、私のこと。
想像するに、とんでもない何かで移動させられたりするんだろうなぁ。ついていったら。ついていかないけど、絶対に。
とはいえ、これでストレスがたまらないといったら嘘になる。さて、どうしてくれようか。
◇ ◇ ◇
さしあたってのストレス発散といえば、一つしかない。
翌日、早速出陣した私たちは山に入り、途中で分かれる。単独行動で私は目的地に辿り着いて、そっと気配を隠し、物陰に潜んだ。
うっそうと茂る森の中、ウェアウルフの集落があった。
規模は大きくない。
そこらの枝葉を集めて、簡単なテリトリーと寝具らしきものを用意している程度だ。何かの骨が転がってるのは食事の残骸だろう。
警戒心が高いのは、まだ逃げている途中で落ち着かないからだろう。王国軍にこっぴどくやられたのかもしれない。
いやはや、だからってこっちで安寧が訪れると思っていただきたくない。悪いけれど、こっちも必死なのだ。
町や食糧に悪影響が出ると分かっていて放置はできない。
私は静かに息を整えて姿を連中の前に見せた。
足音だけで気づいたか、耳をピンと立ててウェアウルフたちが一斉に私を睨んでくる。警戒。次いで――驕り。
理由は単純だ。
私が一人で、女だからだ。
ウェアウルフからすれば、貴重な欲望のはけ口であり、食糧だろうから。
「グルルル……ニンゲン、オンナ……」
「「イタダキマスッ」」
威嚇するように唸りながら、ウェアウルフどもが飛びかかってくる!
その俊敏性は人間の限界を超えているが――。
「ごめんね。今、ちょーっと私、腹立ってるの」
私は笑顔で言い放ってから、真正面から飛び掛ってきた一匹目をビンタで叩き落す。さらに右からの一匹を引っつかんで振り回し、左からの一匹を弾き飛ばす。さらに後ろからやってきたヤツには、裏拳をかましてやった。
うん、いい手応え。
「ッギィっ!?」
ウェアウルフどもが驚愕するが、もう遅い。
「あのクソトメとクソウトがあああああああ――――っ!!」
私は八つ当たり三割くらいの勢いで、ウェアウルフたちを制圧していく。
スプラッタな状況は私としても避けたいので、そんなえげつないことはしない。
「きゃいんきゃいんきゃいんっ!!」
「ぎゃんっ!」
「きゅーんっ、きゅーんっ!」
ものの数分でウェアウルフの全員が撃沈し、私に降参の意思を示すかのように地面に伏していた。よーし。完全勝利。
密かに勝ち誇っていると、向こうでも戦闘が始まっているらしい音が聞こえてきた。
チャーリーが指揮するのだから、問題はないだろう。
少し運動ができてスッキリしていると、一番私に挑んできてボコボコにされた一際身体の大きいウェアウルフが頭を上げた。
「ア、アノ、ドウカタベナイデクダサイ」
「……何、食べて欲しいの?」
「きゃいんきゃいんっ!」
「そんな大泣きしなくても食べないわよっ! 大人しくここから出て行くならね」
私は盛大にため息をつく。
正直、私は魔物討伐が好きじゃない。食べないものを殺生するのはGを相手にするときだけと決めているからだ。
だから、私の場合は二度と抵抗しない程度に痛めつけて逃げてもらうようにしている。もちろん、また復讐に来るんならその時は容赦しないけど。
「ウウ、ワカリマシタ」
しょんぼりしつつ、ウェアウルフはふらふらと起き上がる。
な、なんだろう、この妙な罪悪感。
「オレタチ、イクサキ、ナイ」
「うっ……!?」
「タベモノ、ナイ。ニンゲン、オレタチ、ツカマエル、キョウイクスル、ツカウ、ソシテ、ステル。オイダス」
「ううっ……!?」
「カナシイ」
「うううっ……!?」
がっくりうな垂れるウェアウルフの背中。
そうか、そうだよね。
考えてみれば、今回の一件、魔物たちも利用されてるんだよね。帝国が大きく関与して、相手の王国の将軍をたぶらかして、獣人であることを利用して、彼らに何かしらの影響を与えたんだ。
で、高い知性を手にした。
結果、こうなったわけか。
ということは……
「メイ。困ったことになった」
私が結論を出すちょっと前に、本当に困り顔のチャーリーがやってくる。
「向こうのゴブリンとコボルトの集団、あっさりと白旗を掲げてきて、命乞いをしてきてるんだ。かなり知性が高くて言葉も通じてさ、ちょっと色々と訴えられているんだけど」
やっぱり。
私はがっくりと肩を落としたのだった。
これ、どうしよう?
応援ありがとうございます!
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