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一章 悪女は牢の中で
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一方、ナリニーユ帝国では──。
天井を彩る絵画とシャンデリア。豪華絢爛なダイニングテーブルには四人の妃が並んでいた。
空気は張り詰めており、一番の上座には黒曜石のような艶やかな黒髪を持ち、豊満な胸を露出させている女性がいた。
少し長い前髪からは紫色の鋭い眼光が覗く。
「こんな時間に珍しいですわね。ヴィクトール陛下、お話とはなんでしょうか」
妃たちは目の前に置かれた美しく彩られた料理には目もくれず、皇帝に熱い視線を送っていた。
ワイングラスを静かに置いたあとに、低い声が静まり返った部屋に響く。
「急遽、サンドラクト王国から五番目の妃を迎えることとなった」
そう言ったヴィクトールはめんどくさそうに瞼を閉じた。
彼女たちの反応がわかっているからだろう。
そして予想通り〝サンドラクト王国〟という国名に彼女たちは我慢できずに声を上げた。
「あんな乱暴で礼を知らない王国の王女を迎え入れるおつもりですか!? 彼らは一切、魔法を使えないのですよ……!」
「そうです! わたくしは幼い頃、サンドラクト王国の王女にパーティーで殴られそうになったことがありますのよ?」
「その方なら私も知っています。カリマ、という名前では? まるで殿方のような口調でした」
「…………最悪。魔法、使えない。存在価値なし」
四人は口々にサンドラクト王国の評判や文句を口にする。
しかし皇帝がカップを持ち上げて、紅茶を飲んだ後にやや乱暴にソーサーに置いたことで再び部屋が静かになる。
「嫁いでくるのはシャルレーヌ・ド・サンドラクト、第二王女だ」
その言葉に彼女たちは目を合わせた。
「彼女、病弱……聞いたことある」
「私も噂で聞いたことあります。第二王女は病弱で表舞台には出ていないはずです。二度も嫁ぎ先から国に帰ってきたのでしょう?」
「たしかその二国はサンドラクト王国に吸収されたとか。サンドラクト国王が溺愛しているのですのよね? 魔性の美女、絶世の美女と呼ばれていると聞いたことがありますわ」
「訳あり王女を寄越すなんて……やはり野蛮な国は考えることが違いますわね。わたくし、怖いですわ」
シャルレーヌがどんな人物なのか、誰も顔を合わせたことがないため知らなかった。
ただ一つだけ確かな情報は、彼女が嫁いだ二国はなくなりサンドラクト王国になったということ。
その噂は周辺の国々に回っていた。
一時期、ナリニーユ帝国でもシャルレーヌの噂が一人歩きしていた。
そして今回、彼女の結婚が三度目。
一度目と二度目の結婚のこともあり警戒しなければならない。
しかしこの婚姻が、サンドラクト王国とナリニーユ帝国の緊迫感のある空気を溶かすことになる。
はたまたこれがきっかけで、ぶつかり合うことになるかはまだ誰もわからない。
「彼女は魔法を使えない。この件でサンドラクト王国との関係が決まるといっても過言ではない……お前たち、やり過ぎるなよ?」
「わかっておりますわ。ヴィクトール陛下」
ヴィクトールは牽制するためか視線を送ると立ち上がり、早々にダイニングから出て行ってしまう。
残された妃たちは腹の探り合いとばかりに、すぐに口を開いた。
「ヴィクトール陛下はつれませんわねぇ。こんなにも美しいわたくしを置いて、すぐにどこかに行ってしまわれるのだから」
「本当ですわ。わたくしたちに興味もないようだし、もしかしたら……」
「表の場では謹んでください。余計なことを言うと身を滅ぼしますよ?」
「前皇帝は奔放な方だったけれど、今回は随分と隙がないんだもの。触れるのは最低限のエスコートだけ。わたくしは寂しいですわ……」
彼がいなくなったことで緊迫感のあった空気は解けていき、四人は料理に手をつけてフォークを口元に運んでいく。
「正妃に選ばれないと意味はありませんわ。きっとヴィクトール陛下に触れられるのはただ一人だけなのです。そう思うと一途で素敵ではありませんか」
「これからは正妃になるための蹴落としあいですもの。サンドラクト王国の第二王女はとんでもない悪女か、はたまた国王の人形か、私たちが見極めませんといけませんわねぇ?」
「心の底からどうでもいいです。自分のやるべきことをやるだけですよ」
「でも病弱なんでしょう? 魔法も使えない時点で勝負にもならないじゃない。また王国に逃げ帰るのがオチよ」
「ですが折角、ナリニーユ帝国にいらっしゃるんですもの。魔法の素晴らしさを自国で広げていただきたいですわね」
「魔法、使えない……興味ない」
これから始まるのは正妃になるための蹴落としあいだ。
巻き込まれた彼女には申し訳ないが、魔法大国において魔法が使えないこと自体で意味がない。
王妃になる資格はないのだ。それだけは共通認識だった。
恐らくヴィクトールもサンドラクト王国と波風立てずに共存していくための道具にすぎないと思っている。
そんななかで正妃争いに参加しなければならないのは可哀想だが、シャルレーヌにいい印象は抱いていない。
魔法に体術など無意味。病弱の王女となれば尚更だ。
それにナリニーユ帝国は今まで彼女が嫁いできた国とは格が違う。
妃に選ばれてここにいる時点で、帝国の女性たちの中でもっとも強い力を持っている四人と言っても過言ではないのだから。
だがこの時、彼女たちは知らなかったのだ。
シャルレーヌという魔力ゼロの病弱なはずの王女が、もっとも危険で容赦のない悪女ということに……。
天井を彩る絵画とシャンデリア。豪華絢爛なダイニングテーブルには四人の妃が並んでいた。
空気は張り詰めており、一番の上座には黒曜石のような艶やかな黒髪を持ち、豊満な胸を露出させている女性がいた。
少し長い前髪からは紫色の鋭い眼光が覗く。
「こんな時間に珍しいですわね。ヴィクトール陛下、お話とはなんでしょうか」
妃たちは目の前に置かれた美しく彩られた料理には目もくれず、皇帝に熱い視線を送っていた。
ワイングラスを静かに置いたあとに、低い声が静まり返った部屋に響く。
「急遽、サンドラクト王国から五番目の妃を迎えることとなった」
そう言ったヴィクトールはめんどくさそうに瞼を閉じた。
彼女たちの反応がわかっているからだろう。
そして予想通り〝サンドラクト王国〟という国名に彼女たちは我慢できずに声を上げた。
「あんな乱暴で礼を知らない王国の王女を迎え入れるおつもりですか!? 彼らは一切、魔法を使えないのですよ……!」
「そうです! わたくしは幼い頃、サンドラクト王国の王女にパーティーで殴られそうになったことがありますのよ?」
「その方なら私も知っています。カリマ、という名前では? まるで殿方のような口調でした」
「…………最悪。魔法、使えない。存在価値なし」
四人は口々にサンドラクト王国の評判や文句を口にする。
しかし皇帝がカップを持ち上げて、紅茶を飲んだ後にやや乱暴にソーサーに置いたことで再び部屋が静かになる。
「嫁いでくるのはシャルレーヌ・ド・サンドラクト、第二王女だ」
その言葉に彼女たちは目を合わせた。
「彼女、病弱……聞いたことある」
「私も噂で聞いたことあります。第二王女は病弱で表舞台には出ていないはずです。二度も嫁ぎ先から国に帰ってきたのでしょう?」
「たしかその二国はサンドラクト王国に吸収されたとか。サンドラクト国王が溺愛しているのですのよね? 魔性の美女、絶世の美女と呼ばれていると聞いたことがありますわ」
「訳あり王女を寄越すなんて……やはり野蛮な国は考えることが違いますわね。わたくし、怖いですわ」
シャルレーヌがどんな人物なのか、誰も顔を合わせたことがないため知らなかった。
ただ一つだけ確かな情報は、彼女が嫁いだ二国はなくなりサンドラクト王国になったということ。
その噂は周辺の国々に回っていた。
一時期、ナリニーユ帝国でもシャルレーヌの噂が一人歩きしていた。
そして今回、彼女の結婚が三度目。
一度目と二度目の結婚のこともあり警戒しなければならない。
しかしこの婚姻が、サンドラクト王国とナリニーユ帝国の緊迫感のある空気を溶かすことになる。
はたまたこれがきっかけで、ぶつかり合うことになるかはまだ誰もわからない。
「彼女は魔法を使えない。この件でサンドラクト王国との関係が決まるといっても過言ではない……お前たち、やり過ぎるなよ?」
「わかっておりますわ。ヴィクトール陛下」
ヴィクトールは牽制するためか視線を送ると立ち上がり、早々にダイニングから出て行ってしまう。
残された妃たちは腹の探り合いとばかりに、すぐに口を開いた。
「ヴィクトール陛下はつれませんわねぇ。こんなにも美しいわたくしを置いて、すぐにどこかに行ってしまわれるのだから」
「本当ですわ。わたくしたちに興味もないようだし、もしかしたら……」
「表の場では謹んでください。余計なことを言うと身を滅ぼしますよ?」
「前皇帝は奔放な方だったけれど、今回は随分と隙がないんだもの。触れるのは最低限のエスコートだけ。わたくしは寂しいですわ……」
彼がいなくなったことで緊迫感のあった空気は解けていき、四人は料理に手をつけてフォークを口元に運んでいく。
「正妃に選ばれないと意味はありませんわ。きっとヴィクトール陛下に触れられるのはただ一人だけなのです。そう思うと一途で素敵ではありませんか」
「これからは正妃になるための蹴落としあいですもの。サンドラクト王国の第二王女はとんでもない悪女か、はたまた国王の人形か、私たちが見極めませんといけませんわねぇ?」
「心の底からどうでもいいです。自分のやるべきことをやるだけですよ」
「でも病弱なんでしょう? 魔法も使えない時点で勝負にもならないじゃない。また王国に逃げ帰るのがオチよ」
「ですが折角、ナリニーユ帝国にいらっしゃるんですもの。魔法の素晴らしさを自国で広げていただきたいですわね」
「魔法、使えない……興味ない」
これから始まるのは正妃になるための蹴落としあいだ。
巻き込まれた彼女には申し訳ないが、魔法大国において魔法が使えないこと自体で意味がない。
王妃になる資格はないのだ。それだけは共通認識だった。
恐らくヴィクトールもサンドラクト王国と波風立てずに共存していくための道具にすぎないと思っている。
そんななかで正妃争いに参加しなければならないのは可哀想だが、シャルレーヌにいい印象は抱いていない。
魔法に体術など無意味。病弱の王女となれば尚更だ。
それにナリニーユ帝国は今まで彼女が嫁いできた国とは格が違う。
妃に選ばれてここにいる時点で、帝国の女性たちの中でもっとも強い力を持っている四人と言っても過言ではないのだから。
だがこの時、彼女たちは知らなかったのだ。
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