【完結】魔力0の訳あり王女、最狂につき取り扱い注意

●やきいもほくほく●

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二章 値踏みされる悪女

①⑤

その空気をかき消すようにシャルレーヌは話題を変えた。


「それに今のお部屋は狭くて暗くて、とても落ち着きますわ。わたくしのために素敵なお部屋をありがとうございます」

「……っ!?」

「安心してお父様に手紙を書けそうですわ。とはいっても、わたくしにはライトもつけることができないのですけれど……!」

「「「「…………」」」」

「嫌ですわ。今は笑うところなのですけれど……」


静まり返った空間で、シャルレーヌは笑いをとれずに羞恥心から赤くなった頬を押さえた。

シャルレーヌがここまで言うとは思っていなかったのだろう。
アナベルの表情に焦りが滲む。


「……狭くて暗い? どういうことだ」

「そのままの意味ですけれど」

「魔法が使えなくても生活できるように予算を回したはずだが?」


(あら、皇帝陛下は意外とお優しいのですね)

彼の気遣いに驚いていた。ヴィクトールは明らかに苛立っている。
突然、ガチャンと大きな音と共に入り口にいたシェフや侍従たちが倒れてしまう。
妃たちもナタリーとシャルレーヌ以外は青ざめていた。

(皆さまは何かを感じ取っているのかしら……)

シャルレーヌには魔力がないため何もわからなかった。
ナタリーはヴィクトールの魔法を前に怯んでいないと考えるのが正解なのかもしれない。


「医師や執事を派遣したが、そのような部屋にいると報告は受けていない……今すぐに確認しろ」


その言葉に後ろに控えていたオノレが動き出す。
エマニュエルもピクリと眉が動いているが、彼女は知らないフリを突き通すようだ。
しかしアナベルはそうはいかなかったようだ。


「手違いなのです! 本来、四人しか妃候補がおりません。ですから……っ」


ギロリとヴィクトールがアナベルを鋭く睨みつけた。
彼女は黙るしかなかったようだ。俯き、ドレスの裾をギュッと握った。


「ま、まだお部屋の準備ができていないだけですわ。お話が急だったものですもの。本日中には準備ができますから……っ」

「……どういうことだ」


慌てふためくアナベルを見て、シャルレーヌを歪む口元を押さえた。
エマニュエルは隠しもせずにアナベルをクスクスと嘲笑っている。
ナタリーは魔法の話を待っているのか聞き耳を立てつつ、肉料理を食べながらパンを千切っては口に含んでいた。
ベアトリスは呆れた表情で静観を続けていた。

反撃とばかりにアナベルはエマニュエルの指示でヴィクトールの執事と医師を帰らせて、後宮の医師に伝言を伝えさせたと暴露している。
今度はエマニュエルが焦り出した。
二人で揚げ足を取り合って忙しそうだ。
ヴィクトールが今にも怒り出して面倒なことになりそうなため、言い争いを始めた二人を諌めるように口を開く。


「アナベル様、ありがたい申し出ですがわたくしはこのままで構いませんわ」

「…………は?」 


それにはヴィクトールも驚いている。
『父に手紙で報告する』
そう言ったことも含めて、サンドラクト王国との関係を警戒しているのかもしれない。
緊迫した空気に包まれていたがシャルレーヌは気にすることはなかった。


「わたくし、サンドラクト王国で暮らしていた時は地下牢で暮らしておりましたから」

「……っ!?」


その言葉に周囲は絶句していた。
さすがにベアトリスも驚きを隠せないようだ。
注目が集まっているが、にこやかな笑みを崩さなかった。
実際は咳き込むのを我慢するのに必死だ。
力を抜けば一瞬で崩れてしまう。
それに地下牢に比べてしまえば、物置きでも天国だと思うはずだ。


「どういう、こと?」

「……地下牢って」

「ゴホッ、もちろん罪を犯したわけではありませんのでご安心ください」
 

エマニュエルとアナベルもさすがに驚いていた。
罪人でもないシャルレーヌが地下牢に入れられる理由を模索しているのかもしれない。


「あら、大したことではありません。居心地は案外いいのですから。じめっとしていて暗くて……小さなお友だちはたくさんできましたわ」

「……友だち?」

「うふふ……お食事の場ですし、これ以上はやめておきますわ」


微笑むシャルレーヌとは違い、なんとも言えない表情だ。
地下牢にいる小さなお友だちとはネズミや虫のことを指しているとわかる。


「もしかして二度結婚したというのが関係あるのですか?」


ベアトリスが冷静に質問をしていた。
どうやらサンドラクト国王から罰を与えられていると思っているようだ。


「いいえ? 自分の意思ですわ」

「…………」


ますます意味がわからないといった様子だが、シャルレーヌは笑顔を崩さない。


「だからこのお部屋でも十分です。あ、地下牢でも構いませんけれど! なんて、うふふ……!」


楽しげなのはシャルレーヌだけだ。

(あら、冗談を言ったつもりなのだけれど誰も笑ってはくれないのね。わたくし、寂しいわ……)

地獄のような空気ではあるが、そろそろ日を浴びすぎて限界が近い。


「ゴホッ、ゴホッ……!」

「シャルレーヌ様、大丈夫ですか?」


ルイが咳き込むシャルレーヌの背を撫でた。


「申し訳、ありませんっ、もう体調が……っ」

「大丈夫か?」


ヴィクトールの言葉になんとか頷いて、シャルレーヌは咳を後にする。
しかし去り際に伝えることを忘れない。


「皇帝陛下、お約束を忘れないでくださいませ」

「……わかっている」


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