【完結】魔力0の訳あり王女、最狂につき取り扱い注意

●やきいもほくほく●

文字の大きさ
39 / 50
四章 悪女の罠

③⑨ アナベルside3


「さっそく皇帝陛下にお知らせしなくちゃ……このわたくしの善行を知れば、もっとわたくしのことを好きになってくれるはずだわ」


アナベルがシャルレーヌの病を治すとヴィクトールに言えばいい。
病弱な彼女のなんらかの症状、主に咳などがよくなれば挽回できるはずだ。

アナベルの魔法は万能ではない。
重い病や死ぬほどの怪我などは緩和する効果しかないが、軽いものであれば完治することもある。

(あのクソ女を逆に利用して、わたくしは再び成り上がるの! お詫びとでも言えばいいわよね。それにパーティーに出るなら体調を整えた方がいいもの)

その後にリラックスするお茶だと毒を仕込めば、彼女は体調不良でパーティーに出席できなくなってしまう。
そこで仕方なくアナベルが出席すればいい。
アナベルは一応、教皇に相談するとそれはいい考えだといった。


「いいか、アナベル。絶対にバレるようなヘマはするんじゃないぞ」

「お義父様、わかってますわ。今度こそ絶対に大丈夫ですから」

「お前を押し上げるために、どれだけの金を使ったと思っている。ワシを失望させるなよ!」


怖い顔でこちらを睨みつける教皇を見ながら、何をそんなに深刻な表情をしているのかアナベルにはわからなかった。

(絶対にうまくいくのに何をそんなに心配しているのかしら)

アナベルはさっそくヴィクトールにそのことを伝えに執務室に向かう。
彼は怪訝な顔をしていたが、シャルレーヌ自身が承諾すれば許可すると言った。

(あんな女に許可を求めるなんて腹立つけど、これで陛下はわたくしの慈愛に触れて感心しているはずだわ)

その昼間、そのことを伝えにシャルレーヌの元へ向かった。
嫌がらせのために物置き部屋に案内したものの、こんなところに本当に住めるのか疑問だった。

朝食の時に五人で顔を合わせた時、シャルレーヌはサンドラクト王国では牢屋で暮らしていたと言った。
きっと妃としての勤めも果たせずに、国王に道具として利用されてきたのだろう。

(……惨めよね。三度目の結婚だなんて)

結果的にはヴィクトールの前で物置部屋に案内されたことを暴露されてしまい、すぐにリカバリーするために新しい部屋を用意したのだ。
しかしシャルレーヌはここがいいと拒否したと侍女たちが言っていたことを思い出す。
それもアナベルへの当てつけかもしれないと、そのまま放置していたが、まだこんなところに住んでいるようだ。

(はぁ……わたくしがわざわざここまで足を運ぶことになるなんて)

顔合わせに参加した以来、シャルレーヌとともに食事をしていない。
ヴィクトールの気を引くための仮病かと思ったが、アナベルが想像しているよりも咳はひどく顔色も悪かった。
あれが仮病とは思えない。だからこそアナベルの出番ではないだろうか。

(病が治って嬉しくない人なんていないもの! きっとわたくしに感謝するはずだわ)

アナベルに従順な侍女たちを連れて、シャルレーヌの物置き部屋の前へ。
そこにはいつも甲冑のように微動だにしないという侍従の姿はなかった。
仕方なく、アナベルは物置き部屋の扉をノックする。
すると、誰が開けたのか自然と扉が開いた。
中は暗闇で何も見えない。


「シ、シャルレーヌ様……今よろしいかしら。わたくし、どうしてもあなたに話さないといけないことがあるのです」

「…………ふふっ、どうぞ」


不気味な笑い声と共にもう少しだけ扉が開く。
侍女たちとともに中に入った。


「申し訳ありません。扉を閉めていただけますか?」

「えっ、あ……わかりましたわ」


アナベルは侍女に目配せをして扉を閉めさせた。
シン……と、静まり返った部屋は不気味だ。

(よ、よくこんなところにいれるわねっ!)

狭苦しい部屋を見ると、アナベルの心の奥底がザワザワと揺れてくる。
外はあんなに明るいのにもかかわらず、ここはひんやりとしていて肌寒い。
ストロベリーピンクのガラス玉のようなものが二つ。
暗闇に浮かんでいたのを見た瞬間、昔の記憶が蘇る。

臭くて狭く真っ暗な部屋。
カサカサと嫌な音が耳元を這うように蠢いている。
まるで実際にその場にいるようだった。


「…………え?」


ボロボロの布切れを纏い、骨と皮だけの腕が伸びていた。
絡まり合っているゴミが絡まっている髪の毛。
空腹に腹を押さえているのは魔法を発現する前の〝自分〟だった。
今すぐに目を背けたいのに、まるで縫い付けられているように動けなかった。
消えていたはずの過去が目の前にある。

(忘れていたのに……どうしてっ)

吐き戻しそうになるのを口元を両手で無理やり添えて抑えた。
膝から崩れ落ちそうになるのをなんとか堪える。
一歩も動くことができないのはどうしてだろうか。


「ぁっ……あ……っ」


侍女たちは暗闇で何も見えないことに戸惑っているようだが、アナベルが立ち止まっていることのほうが気になるようだ。
彼女たちの声が耳に届くけれど返事ができない。


「あら、アナベル様」


シャルレーヌの明るい声が響く。


「……突然、どうなさったのですか?」

感想 35

あなたにおすすめの小説

「子守唄しか能がない女は要らぬ」と追い出された令嬢——3日後、王宮から眠りが消えた

歩人
ファンタジー
リディアは「眠りの歌い手」——声で人の精神を調律し、安らかな眠りに導く宮廷職。 王の安眠、騎士団の心的外傷ケア、外交使節の睡眠管理まで、宮廷の「夜」を支えてきた。 だが第二王子オスカーは嗤った。「子守唄しか能がない女は要らぬ」 リディアが王宮を去って3日後、王宮から眠りが消えた。 誰も眠れない。王も大臣も近衛騎士も。不眠は判断力を奪い、外交を狂わせ、王国を蝕む。 辺境で新たな居場所を見つけたリディアに、王宮から帰還要請が届く。 「おやすみなさい——はもう、言いません」

愛さないと言われた妻、侍女と出て行く

菜花
ファンタジー
お前を愛することはないと夫に言われたコレットは、その日のうちに侍女のイネスと屋敷を出て行った。カクヨム様でも投稿しています。

本の虫な転生赤ちゃんは血塗りの宰相の義愛娘~本の世界に入れる『ひみちゅのちから』でピンチの帝国を救ったら、冷酷パパに溺愛されてます

青空あかな
ファンタジー
ブラック企業に勤める本の虫でアラサーOLの星花は、突然水に突き落とされた衝撃を感じる。 藻掻くうちに、自分はなぜか赤ちゃんになっていることを理解する。 溺死寸前の彼女を助けたのは、冷徹な手腕により周囲から「血塗りの宰相」と恐れられるアイザック・リヴィエール公爵だった。 その後、熱に浮かされながら見た夢で前世を思い出し、星花は異世界の赤ちゃんに転生したことを自覚する。 目覚めた彼女は周囲の会話から、赤ちゃんの自分を川に落としたのは実の両親だと知って、強いショックを受けた。 前世の両親もいわゆる毒親であり、今世では「親」に愛されたかったと……。 リヴィエール公爵家の屋敷に連れて行かれると、星花にはとても貴重な聖属性の魔力があるとわかった。 アイザックに星花は「ステラ」と名付けられ彼の屋敷で暮らすようになる。 当のアイザックとはほとんど会わない塩対応だが、屋敷の善良な人たちに温かく育てられる。 そんなある日、精霊と冒険する絵本を読んだステラはその世界に入り込み、実際に精霊と冒険した。 ステラには「本の世界に入り込み、その本の知識や内容を実際に体験したように習得できる特別な力」があったのだ。 彼女はその力を使って、隣国との条約締結に関する通訳不在問題や皇帝陛下の病気を治す薬草探索など、様々な問題を解決する。 やがて、アイザックは最初は煩わしかったはずのステラの活躍と愛らしさを目の当たりにし、彼女を「娘として」大切に思うようになる。 これは赤ちゃんに転生した本好きアラサーの社畜OLが、前世の知識と本好きの力を活かして活躍した結果、冷徹な義父から溺愛される話である。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

「その薬草は毒かもしれぬ」と追放された令嬢薬師——領地に疫病が広がったとき、彼女の薬草園はもう枯れていた

歩人
ファンタジー
侯爵令嬢リリアーナは、母から受け継いだ薬草園「星霜の庭」を守り、領民の病を癒す薬師。 だがある日、新任侍医マティアスが讒言した。 「あの令嬢の薬草は怪しい。毒が混じっているかもしれない」 父も婚約者クラウスも、それを信じた。 追放されたリリアーナが辿り着いたのは、辺境の村ノルトハイム。 老薬草師ヘルダに導かれ、荒れ地に新たな薬草園を拓く。 飄々とした若き領主ルシアンの体には、母から受け継いだ「銀花毒」が二十三年間潜んでいた。 誰にも治せなかったその毒を、リリアーナは治すと決める。 一方、薬師を失った星霜の庭は枯れ果て、疫病が元の領地を襲う。 マティアスの教科書通りの処方は何一つ効かない。 「戻ってこい」——使者が届けた手紙に、リリアーナは静かに答えた。 「わたくしの薬草は、毒でしたか?」

【完結】不協和音を奏で続ける二人の関係

つくも茄子
ファンタジー
留学から戻られた王太子からの突然の婚約破棄宣言をされた公爵令嬢。王太子は婚約者の悪事を告発する始末。賄賂?不正?一体何のことなのか周囲も理解できずに途方にくれる。冤罪だと静かに諭す公爵令嬢と激昂する王太子。相反する二人の仲は実は出会った当初からのものだった。王弟を父に帝国皇女を母に持つ血統書付きの公爵令嬢と成り上がりの側妃を母に持つ王太子。貴族然とした計算高く浪費家の婚約者と嫌悪する王太子は公爵令嬢の価値を理解できなかった。それは八年前も今も同じ。二人は互いに理解できない。何故そうなってしまったのか。婚約が白紙となった時、どのような結末がまっているのかは誰にも分からない。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。