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一章 役立たず王女、島流しにされる
①⑤
しおりを挟むメイジーは何個も何個も口に運んでいく。
それから丸ごと置かれたフルーツも齧るようにして食べた。
甘酸っぱい果汁がじんわりと広がって、幸せな気持ちにさせる。
久しぶりの満腹感にメイジーは手を合わせながら感謝していた。
(…………お腹いっぱいになるまで食べられるって、なんて幸せなんだろう)
メイジーは腕で乱暴に涙を拭う。
そして夢中になりすぎて気が付かなかったが、ガブリエーレはじっとメイジーを見ていたようだ。
『うまいのか?』
「とっても美味しいわ!」
『………そうか』
ガブリエーレはそう言いつつも、食べ物に手をつけようとしない。
「ガブリエーレ……様は食べないの?」
『……』
「とても美味しいのに……」
メイジーがそう言うとガブリエーレも真っ白な塊を手を取る。
そして一口、手に取って口に運ぶ。
咀嚼しているガブリエーレを見つめながらメイジーが不思議に思っていると……。
『……うまいのか?』
「食べたことないの?」
『…………』
ガブリエーレは何も答えない。
そのまま二人で無言で食べ物を口にする。
メイジーもまたいつ食べられなくなると思うと、もう少しだけと手が伸びてしまう。
夢中になっていると、ふとガブリエーレの視線を感じた。
メイジーは食べていたものを一気に詰め込んでいたせいで頬が膨らんでいる。
なんの意味があるのかわからずに首を傾げていると、ガブリエーレがグッと近づいてきて体を逸らす。
唇が触れそうな距離に顔が近づいたことでメイジーは動きを止める。
『お前、供え物としてここにきたのか?』
「え……あの、はい」
『そうか。なら、お前は俺のものだな』
信じられないような言葉にメイジーは目を見開いた。
暫く戸惑っていたのだが、普通のテンションでこんなことを言うのはおかしいという考えに辿り着く。
もしかして勘違いしているのかもしれないと、メイジーはある選択を思いつく。
「あの……」
『なんだ?』
「そういうこと言うと嫌われますよ?」
『………………』
何故かガブリエーレからじっとりとした視線を向けられているではないか。
食事をさせてもらっといて言い過ぎかとも思ったが、今まで神として崇められていたのなら、こう勘違いしてしまう理由も理解できる。
『俺に……こんなことを言ってくる奴は初めてだ』
「いやだって、よくないかなぁ……って」
『普段ならば、お前などすぐに殺してやるのに……』
「なっ……!?」
その言葉を聞いてメイジーは怯えることなくガブリエーレに掴み掛かるようにして顔を寄せた。
こうして生きるありがたさを強く感じたからこそ『殺す』と口にすることが許せなかったのかもしれない。
『お、おい……!』
「みんな必死に生きてるのよ? そんなこと言わないで……!」
『わかった! わかったから離れろ』
先ほどは自分から近づいてきたくせに、こちらが近づくのは嫌なのだろうか。
メイジーはゆっくりと体を離す。
しかし食べ物をわけてもらったり、助けてもらったことも思い出してメイジーは素直に頭を下げる。
「申し訳ありません。言いすぎました。それに助けてくれてありがとうございます。食べ物もわけてもらって感謝してますから」
『……!』
メイジーの言葉に頭を掻きながらガブリエーレはため息を吐いた。
『……………変な奴』
「え……?」
『何でもない。お前は……』
「お前じゃなくて、わたしはメイジーですから」
『…………』
不機嫌そうなガブリエーレはこちらに腕を伸ばす。
そして大きな手のひらでメイジーの目元を覆った。
「ちょっと、何……!?」
ガブリエーレの手首を掴んで抵抗しようとした時だった。
メイジーは激しい頭痛に襲わるのと同時に視界が真っ暗になる。
『俺が国に帰るまでの暇つぶしになれ。役に立てよ、メイジー』
頭にガブリエーレの言葉が響く。
(俺が国に帰るまでって……どういうこと?)
メイジーはそのまま意識を失ったのだった。
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