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三章

②⑧ オースティンside2

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エルネット公爵たちには手紙で知らせたらしい。
二人に直接言うのはうるさくてたまらないと、アシュリーに鬱憤を晴らすように暴言を吐き散らしたらしい。
長年溜め込んだ鬱憤を晴らせてスッキリしたと言っていた。

(……あの二人はキャンキャンと本当に目障りで煩わしい)

だが本音を言えばユイナだけの力だけでは不安だと思っていた。
宰相も「アシュリーは予備で取っておくべきだ」と進言したのにも関わらず、父と母はエルネット公爵と夫人を嫌ってか、アシュリーと関わることを断固拒否したのだ。

それには不安を感じたが、いざとなればアシュリーに命令すればいいと思っていた。
アシュリーは大人しく従うはずだ。
今まであれだけの扱いをしていたのにもかかわらず、王宮に通い続けたのだから。

(今はユイナの力があればいい。ユイナの気持ちさえ繋ぎ止めておけば、俺は安心して王位を継ぐことができる……!)

異世界から来たユイナは、この国の常識やルールをまったく知らない。
「ユイナは異世界からきた聖女なんだ。ユイナしか持っていない特別な力でこの国を救ってくれ」
元の場所に帰りたいと泣いていたユイナは「私にしかできないことならがんばります……!」と、覚悟を決めたようだった。 

素直で純粋なユイナはオースティンの言うことを鵜呑みにしてすべて信じてくれた。
そしてユイナに「俺と結婚して欲しい」と告げた。
驚いてはいたが、容姿や立場が役に立ったのかすぐに承諾したのだ。

もちろんユイナはこの国の王妃になるために必要な知識を身につけていない。
ルールやマナーは追々、覚えさせていけばいい。
今は手元に置いておくことが何よりも重要なのだ。

しかしユイナを婚約者にするにあたって、アシュリーとエルネット公爵家が邪魔だった。
だからユイナの力を理由に、今まで頼らなければならなかったアシュリーの力を偽物にしたのだ。
彼女の力が今まで役に立った事は確かだが、王家はその働き以上の報酬を渡していた。

(今まで強欲だったツケが回ったんだ……!卑しいエルネット公爵家め)

最近になって、令息たちがユイナに近づいてはあの手この手を使って誘惑するようになった。
令嬢たちもユイナを特別扱いして褒め称え、邸に招こうとする。
そしてついには王家やオースティンに隠れて、直接ユイナに交渉してくるようになった。

ユイナは訳もわからずに何でも話してしまうので、今のところ王宮から出ることを防げてはいるが、それには苛立ちを感じていた。
ユイナはオースティンの婚約者であり、王家の許可なしには力を使わせることはできないと言っているにもかかわらず、彼女の力を求める声はひどくなるばかりだ。

ユイナも皆に求められて頼られ、嬉しいのだろう。
最近では「私の力を皆様にもわけてあげたいんです……!」と言い出す始末だ。
なんとか誤魔化してはいるものの納得いかないようだった。
ユイナの力を求める者たちは令息令嬢たちにとどまらない。
「ユイナ様の力を貸してください」「今すぐユイナ様の力が必要なんです!」と焦った様子で皆が頼み込んでくるようになった。

(一体、どうなっているんだ……?)

何故そこまで必死になっているのか理由を聞いてみると今まではエルネット公爵家……つまりアシュリーから個別で治療を受けていたと言った。
それも莫大な金と引き換えに。
エルネット公爵は王家だけでなく様々な貴族たちや国民から金を搾取していたと、その時に初めて知ることとなったのだ。

それには両親も驚愕していた。
つまりはアシュリーから治療を受けられなくなり、怪我や病で困り果てている。
魔獣での被害はなくなったものの、縋るような思いで同じ力を持つユイナの元にやって来たのだ。
アシュリーが王家に黙って治療を行っていたせいで、ユイナの力を求めて、貴族たちがユイナの力を独り占めする王家に敵意を向けはじめたのだ。

しかしエルネット公爵に責任を取らせようとしても、アシュリーはもうペイスリーブ王国のギルバートの元へ嫁いでしまったために不可能だった。

サルバリー王国とペイスリーブ王国との仲はよくもなく、悪くもないが武力でペイスリーブ王国に敵うことはない。
なんせ武力で魔獣を倒しているのだ。
今は結界の効果もあって均衡を保っているが、理由さえあればサルバリー王国に攻め込んでくるのではないかと冷や冷やしていた。
結界は魔獣は弾いてくれるが、ペイスリーブ王国が攻め込んでくればサルバリー王国は抵抗する手立てはない。

(ユイナがいる限り、サルバリー王国は安泰なんだ)

ギルバートがアシュリーを見る視線に嫌なものを感じていた。
ギルバートが婚約しないことで誰かを一途に想っていたという噂が流れていたが、どうやら本当だったようだ。
オースティンとアシュリーの婚約はアシュリーの力がわかってすぐに結ばれた。
ギルバートはすぐにアシュリーを手に入れようと動いたのだろう。


「こんなに美しい人が、この世界にはいるんですね!」

「………」


どうやらユイナはアシュリーの容姿のことを言っているようだ。
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