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三章

③② オースティンside6

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「ギルバートがそこまで言うなんてよっぽどだな」 

「ああ、今度是非紹介させてくれ」


今まで見たことがないほどに柔らかい笑みを浮かべているギルバートに皆が驚いていた。
本当に心からアシュリーと結婚できて幸せそうにしている。
明らかに当てつけではないか。

(俺も二週間後にユイナとの婚約披露パーティーを開く予定だ!その時に嫌と言うほど見せつけてやるっ)

ユイナとの婚約披露パーティーは盛大に開く予定だった。
それは聖女を召喚した成果とサルバリー王国の繁栄を見せつけるためだ。
もちろんギルバートも招待していた。
アシュリーにユイナとの仲睦まじい姿を見せつければまた以前のように泣くだろうか。

(ざまぁみろ……見栄っ張りめ!)

オースティンは胸元が締め付けられるような苦しさに膝を突きそうになるのをなんとか堪えていた。
ギルバートが心配そうに声をかける。


「オースティン、大丈夫かい?」

「余計な、お世話だっ」

「そうか。無理はしないようにね」


ギルバートのこういうところが大嫌いだった。
誰にでも平等で顔色一つ変えずになんでもこなしてしまう。

最悪な気分で外交を終えたオースティンだったが、馬車で息苦しさが襲う。
明らかに風邪などではない。
報告も後回しにして医師を呼んでもらい、診てもらう。
するとすぐにユイナの力を借りた方がいいと言われた。
すぐにユイナがいる場所を執事に問いかける。
この苦しみから逃れるためにユイナの力が必要だった。


「……ユイナッ!ユイナはいるか!?」

「オースティン殿下、どうされたんですか?」


ユイナがサルバリー王国の歴史を学んでいる部屋に飛び込むように入る。
オースティンを支えている医師が講師に下がるように指示を出す。
講師は頭を下げてから慌てて部屋の外に出て行ってしまった。

近くのソファーにもたれかかるようにして倒れ込んだオースティンは胸元を押さえて苦悶の表情を浮かべながら体を丸めていた。
オースティンの額に浮かぶ大粒の汗を見てユイナは慌てふためいている。


「……ユ、イナ!治療を頼む」

「オースティン様、どうしたんですか!?」

「た、のむ……早くしてくれっ!」

「ユイナ様、すぐに力を使ってください。お願いいたします」

「わっ、わかりました!」


横でオースティンの体を支える医師が必死に訴えかけている。
苦しそうに短く息を吐き出しているとユイナがいつもと同じように力を込めた。
オースティンを温かい光が包み込む。
次第に荒く吐き出されていた息はだんだんと整っていく。
医師がオースティンの背を心配そうに摩っていた。


「あの……終わりましたけど」

「嘘だろうっ!?」

「え……?」

「ユイナ、疲れているのに申し訳ないとは思っている。でも以前のようにやってくれないか?」

「でも私、以前と同じやり方でやっています!」

「……っ、怠さや痛みが消えていない」

「………!」

「ちゃんとやってくれないと困るんだよ!今だって公務からやっと帰ってきたんだぞ!?」


しかしユイナは信じられないとでも言いたげにオースティンを睨みつけている。
ユイナはいつも通り治療しているだけで、何かやり方を変えたつもりはないと説明している。
オースティンは怒りと不満が込み上げてきて眉根を寄せた。


「私はちゃんとやっています!他の方にも今のようにやってますが、皆さん良くなったって言ってくれますから」

「だがユイナ、俺は……!」

「オースティン様はちゃんとやれってそればっかり!私は言われた通りやっているのにっ!それに王妃になるための勉強なんて本当はやりたくない。つまらない!」

「……ユイナ?」

「毎日毎日、結界を張って治療に勉強、マナーを学んでばかりっ!自由もないし、休憩もない。こんな場所に閉じ込められて……もう、うんざりだわ」

「……っ!?」

「元の世界に帰りたいよぉ……お父さん、お母さん!」


ユイナの目からはとめどなく涙が溢れていく。
ついには座り込んで泣き噦ってしまった。

これ以上、ユイナと話を出来る状況ではなくなったため医師も口を噤んだ。
オースティンの頭にあることが過ぎる。
『異世界の聖女の効果は一時的』
オースティンの肌に鳥肌が立つ。
間違いなくオースティンの病は進行している。
それなのにユイナの力は消えていくのだろうか。

(このままだと俺はどうなる……?)

ユイナの治療の効果が徐々に薄くなってきている。
ループ伯爵や大臣の治療効果がしっかりと確認出来たために一度は流されてしまったが、自らの体でそれを体感していた。

(この二ヶ月でどんどんと胸の息苦しさが増している……それに結界も弱まっていくのではないのか?あの女の時はこんなこと一度もなかったのに!)

幼い頃、アシュリーが治療していた時は、今のような不安に襲われること一度もなかった。
病は完璧によくなったと思っていた。
ずっと変わることのなかった症状が再び自分の身に起こっている。

オースティンは焦燥感に駆られていた。
幼い頃にずっと苦しめられていた息苦しさが恐怖と共に襲い掛かる。

ユイナの治療は最初こそ効果は大きかったものの、回数を重ねる度に効果が薄れていた。
疑念は確信へと変わっていった。

(やはり気のせいではなかったんだ!)
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