なんでもできるスキル〈ゲームマスター〉を手に入れたけど速攻飽きたので、ヒロインを「俺の考えた最強の主人公」に仕立て上げます

八白 嘘

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069 / 巣

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 かつて大コウモリの巣があった脇道を覗き込む。
 何もいない。

「ここから出てきたかは定かではないが、襲われたのはこの辺りだよ。それは間違いない」

 グラナダが、パーティメンバーに視線で同意を求める。
 皆が一斉に頷いた。

「いちおう、確認してみよう」

 そう告げて、俺は、脇道の中へと無遠慮に立ち入った。
 同時に、異臭が鼻を突く。
 以前に嗅いだものと同じ、生乾きの糞の臭いだ。
 足元を目をやれば、やはり、形状を保ったままの湿った糞が幾つか見て取れた。

「間違いないよ。巣はここ、なんだけど……」

 フェリテが眉間に皺を寄せる。

「へんだね」

「ああ。明らかにおかしい」

 ルクレツィアが尋ねる。

「何か、妙な点でもございましたか?」

「以前に取り逃した大コウモリを、仮に一匹とするだろ。それが数百匹に戻るまで、どのくらいの期間が必要だと思う?」

「いや、知らないけど」

 首を横に振るナナセに同意する。

「俺も知らない」

「知らんのかい」

「でも、ゆっくり増えていくと考えるのが自然だろ。あるとき急に、一匹が数百匹になったりはしない」

「……まあ、そうね。それがどうかした?」

「えっとね」

 フェリテが、巣の奥を指差す。

「あたしたち、ほんの数日前まで、この奥にあった宝箱からミスリル鉱石を運び出してるの。グラナダ探窟隊が竜とパイプ亭を訪れた翌日に、ようやく一箱なくなったんだ」

「……ふむ、たしかに妙だね。この数日で一気に数を増やしたとしか思えない」

「そういうものだって言われたら納得するしかないけど、専門家がいない以上、別の可能性も考慮すべきだと思う」

「別の可能性って?」

「それを今から考えるんだよ。ナナセも頭使ってくれよ」

「うーん……」

 存外素直にナナセが思案を始める。

「そもそもだけど、どこ行ってるのよ、あいつら。別の魔物を狩ってるとか?」

「魔物は魔物同士では相争《あいあらそ》わない。そう聞き及んでおりますわね」

「んじゃ、何食って生きてんの。糞をするからには食事はしてるはずでしょ」

「恐らく、五層に生息する虫などではないかと……」

 ルクレツィアの推測は、妥当だ。

「でも、虫なら一斉に狩りに行く必要はないよな。そこらじゅうにいるんだから」

 第五層では、フナムシのような扁平の虫が壁や床を這っているのを何度も見掛けている。
 非常に臆病な性質らしく、休息の際にも実害を被ることはなかったが。

「あたしたちは見掛けなかったのに、探窟隊の前には姿を現した……」

 そこまで言って、フェリテが声を上げた。

「あ!」

 グラナダが尋ねる。

「何か思いついたかい?」

「大コウモリたちって、リュータから隠れてるんじゃないかな」

「……そういうことか」

 極大火炎呪でやつらのほとんどを焼き払ったのは、他ならぬ俺自身だ。
 生き残った大コウモリにその恐怖が焼き付いていたとすれば、俺を警戒して距離を取るのも当然と言える。
 説得力のある仮説だった。

「リュータが頻繁に出入りしてたから、やつらは巣に戻れなかった。リュータが立ち寄らなくなったから、やつらは巣に帰ることができた。リュータがいなかったから、アタシたちはやつらに襲われた。理には適ってるわね」

「と言うことは、あのドグサレコウモリどもは、かなり遠方からリュータさんの存在に気付いていたことになりますわね」

 相変わらず口が悪い。

「もしかして、足音でわかったりすんのかな……」

 目は退化しているから、耳で判別しているはずだ。

「──さて、どうする? 無警戒に襲い掛かってくれれば楽だったのだが、どうやらそうも行かないらしい」

 グラナダの言葉に、腕を組み思案する。
 実を言えば、おぼろげながら解決の糸口は見えている。
 俺は、フェリテをじっと見つめた。

「?」

 俺の視線に気付いてか、フェリテがこちらに微笑みを返す。
 違う、そうじゃない。

「フェリテは、何かアイディアはないか?」

「あたし?」

「ああ。大コウモリが俺を避けていることに気付いたのはフェリテだろ。フェリテなら、いいアイディアを思いつけるかもしれない」

「えっと……」

「たとえば、そうだな。コウモリたちが俺から逃げていくことを利用するとか──」

 そこまで口にしたとき、

「あっ」

 何かを思いついたのか、フェリテが目を見開いた。

「リュータ、地図見せて!」

「わかった」

 誰かに任せきりにするのではなく、自分自身で解決策を探すことが重要だ。
 フェリテには、自分で考える癖をつけてほしかった。
 第五層の地図を展開し、フェリテに渡す。

「大コウモリは、あたしたちには襲い掛かってきて、リュータからは逃げる」

「フェリテの推理が正しければ、そのはずだ」

「なら、あたしたちが先導して引きつけて──」

 しばしぶつぶつと呟いたあと、フェリテが晴れ晴れと顔を上げる。

「うん、これなら行けるかも!」

 その表情からは、勝利への確信が見て取れた。
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