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第一章:いざ、王都!
13. ウサギ、肝が冷える
しおりを挟む「ネロちゃんこれ美味しいね!」
ということで早速次の日にマローネの家を訪れたネロは、家で作ったレーズンクッキーをマローネとマローネの妹のビアンと共に頬張っていた。
ビアンはとても可愛らしい白ネコで、しっかり者の16歳のお年頃だ。
以前ビアンのために買ったハンドクリームはとても気に入ったようで毎日使っているそう。
渡す際に「イケメンが香りを選んだから間違いないと思う」と伝えたところ、
「イケメンの香り!?」と大興奮していた。お年頃はイケメンに弱いらしい。
ネロはその勢いに負けて「イケメンが選んだだけで…」とは言い出せなかった。いい思い出である。
「そういえばネロちゃんが一緒に住んでる人ってあのアルジェント様なんでしょ!!」
「ア、アルジェント様…?」
ネロはここでアルジェントの人気を知ることとなる。
ちなみに巷でアルジェントは”氷の貴公子”と呼ばれていて、ファンクラブもあるのだとか。イケメンってすごい。
(あ、あのデートの日、さ、刺されなくてよかった………)
カフェで女性客が黄色い声を上げていたのも納得だな…と思うのであった。
***
「じゃあまた来るね、今日はありがとう!」
「気をつけて帰ってね!お兄ちゃんよろしくね!」
「はいよー!」
クッキーも食べ終わりいい時間帯になった頃、夕食の準備のためそろそろお暇することにした。まだ明るい時間ではあるがマローネが馬車乗り場まで送ってくれるそうだ。
「いつも来てくれてありがとな!ビアンもだけど俺も楽しい!」
「そんな、こちらこそだよ!」
満面の笑みでお礼を言うマローネにネロも同じような笑みを返す。
マローネやビアンとの時間はネロにとって癒しとなっていた。
勿論、アルジェントの家での生活は仕事ではあるがとても楽しいのは間違いない。アルジェントもティグレもとても優しく接してくれる。
けれども生まれ育った場所を離れこの王都で過ごす生活は、やはり時々寂しい時がある。
でもこうして気兼ねなく話せる友達ができて、遊んで。
そうしているとなんだか寂しさも小さくなるようで。
あの日、たまたま軍手と麦わら帽子を探しに王都に来て。
マローネと出会って。こうして友達になって。
とても良い縁に恵まれているな、とネロは普段から思うのである。
その後、マローネとたわいもない会話をしてそろそろ馬車乗り場に着くという時であった。
人通りも多く、様々な音がしているはずなのになぜかその声だけ鮮明に耳に届く。
「ネロ、こんなところで何してるんだ」
背後から聞こえる、まるで地を這うような低く冷たい声。
その一瞬でネロのいる周辺一帯の空気がスッと冷えるのを感じる。
普段聞いているはずの声であるのに、何だか別の人のもののようで。
ツーっと背中に冷たい汗がつたうのを感じる。
「ネロ、知り合いか~?」
先ほどの声を聞いていたはずのマローネが呑気に話しかけてくる。
怖い物知らずにも程がある。
しかしネロにはマローネの問いに答える余裕は一切なかった。
視線で穴が開くのでは…と思うほど背中に突き刺さるのを感じはするものの、この異様な雰囲気にネロ未だ振り向けずにいた。
(なんだ、何だというんだこの雰囲気…殺され…る?)
なぜこんな雰囲気なのか分からない。しかし怖い。
ネロは恐怖でガタガタと若干震え、まるで子鹿だ。
しかし彼がそんなネロの行動を許すはずもない。
「…ネロ、無視か?」
振り向いても振り向かずとも、どちらも死であることをネロは悟り、
ギギギと後ろを振り返る。内心は全力で逃げ出したい。
「ひっ…!」
振り向くと予想通りアルジェントが立っている。
そしてその表情はとてもにこやかである。
そう、とてもにこやかなのだ。にこやか、であるはずなのだが…。
何故だろう、笑っているのに怖い…目が全然にこやかではない。
「オオカミが怒るとやっぱり怖いんだ~」と現実逃避したくなるほどには怒りを露わにしている。一体なぜ。
ネロはにこやかなアルジェントを目にして更に震える。プラス顔面蒼白だ。
「ネロ、こちらは誰だ?私に紹介して欲しいな」
口調はとても穏やかで、その穏やかさが故に怖い。
「えっと、アルジェントさん、こちらマローネです。野菜売りしている友達で…。あ、畑の野菜の苗もくれて…」
「…ほう、君が」
アルジェントは腕を組み、マローネのことをじろじろ観察している。
観察というより値踏みに近い。そしてその目は鋭い。
紹介しろというので紹介したらこの態度である。
ネロは更に冷や汗が止まらない。滝汗である。
「あ、マローネ、こちら住み込みで働いている家の家主さん、アルジェントさん」
「どーも!はじめまして!」
ネロはおどおどしながらマローネにもアルジェントのことを紹介するのだが、マローネはいつも通りの人懐っこい笑みを浮かべている。
強い…。なぜこの状況で笑顔でいられるのか。
アルジェントとマローネの温度差にネロは風邪を引きそうになる。
そしてウサギは「あ、このネコ只者じゃないな」と思ったのであった。
その後何とかアルジェントと別れ、再び馬車乗り場に向かう。
ネロは先ほどの出来事で疲労困憊。HPはゼロである。
しかしその場が丸く収まったというより無理やりアルジェントを仕事に戻しただけで…。帰宅したアルジェントのことを考えると気が遠くなるの。
「さっきのオオカミ獣人かっこよかったな!俺もあのくらい威厳欲しいな~」
「ははは…」
もしこの世界が魔王と闘う冒険物であったならマローネは勇者になったほうがいい。勇敢に闘えそう。魔王を前にしても笑顔でいそうで…逆に怖いかもしれない。
そしてやっと馬車に乗っりネロはこんなに帰るのが憂鬱なのは初めてだ、と思うのであった。
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