異世界の裏口

千代子レイ子

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閑話 悪役令嬢の独話1

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 私が前世を思い出したのは多分4歳ぐらいだと思う。はっきり思い出せないのはその頃から毎日前世の夢を見るようになったから。

 そして前世をちゃんと理解したのは皇太子に初めてお目にかかった時だった。

 (この場面知ってる……ここで私は皇太子の婚約者となり、将来カメリアに嫉妬して嫌がらせをする悪役令嬢)

 今迄は夢が曖昧で登場人物も映画を見ている感覚しかなかった。だが夢の人物が目の前に現れてゲームと同じ台詞を言う。その瞬間悪役令嬢の自分が死ぬ画面がリアルに感じられて恐怖のあまり泣き出してしまった。

 その後の事はよく覚えてない。ただ恐しくて自室にずっといたと思う。誰も信用出来なくて何も食べなかったしベッドでも寝なかった。暗いクローゼットの奥でただ1人怯えている毎日。

 だがある日、気付くと知らない部屋のベッドで寝ていた。私は移動した恐怖にパニックを起こし、叫ぼうとしたが声も体力も無くただ小さくあぅあぅ言うしかなかった。

 しかしそんな私の小さな反応に祖母が気が付いて慌てて医者を呼び介抱してくれる。

「ここは、私の領地よ。王都から凄く離れてるの。高級鳥車で急いでも1ヶ月はかかるほどよ。辺境に近いの」
「……お、ばあ……様……の?」
「そう。だから誰も来れないわ。来ても私が追い払ってあげるわね」
「……うん…」

 祖母は優しく私の頭を撫でてくれた。そして安心したのだろう。私は祖母の領地で元気を取り戻し、皇太子殿下とも会うこともなくのびのび過ごし15歳になった。

「貴女もデビュタントの年になったわね。そろそろ王都に行かないと」
「行きません! 私は貴族を捨て平民になり、ここで幸せに暮らします!」
「でも平民になっても幸せになるかは分からないわよ?」
「はい! だからここでいっぱい勉強しました。それをここの領地で還元させたいと思っております」
「それは頼もしいわね。でもそれをするのにも王都で許可を貰わないといけないのよ」
「…………分かりました」

 こうして渋々王都の屋敷に戻って来た私は早速熱を出してしまった。そうしてまた乙女ゲームの夢を見る。まるでお前の役目を忘れるなと言わんばかりに……。

「オリヴィア……」
「……お母様?」
「デビュタントなんてしなくていいわ。一生領地にいても構わない。だからどうか死なないで……」

 涙を流しながら抱きしめる母親に唖然としていると、母親とは違う嗚咽が聞こえた。目線でその人物を探すとそれは父親だった。宰相の父親は娘を道具にしか思っていない非道な人物のはず。何で泣いているんだろう?

「……何故お父様まで泣いてるのですか? 皇太子殿下の婚約者にならなかった悔しさですか? 駄目な道具で申し訳ありません……」

 純粋な疑問と謝罪だった。しかし父親はそんな質問と謝罪内容に黯然銷魂あぜんしょうこんし、今迄の原因全てが自分の行いだったと落胆した。

「私の軽はずみな行動が娘をここまで追いやってしまったのだな……すまなかった……」
「貴女は道具じゃないわ! 大切な私たちの娘よ!」
「? お父様とお母様は政略結婚ですよね? あっ、大切な道具という意味ですか?」
「!! 誰に何を言われたの! そんなわけないじゃない! 私は貴女を愛してるわ! お父様だってそうよ!」
「……オリヴィア。私は1度だって君を道具などと思っていないよ。お母様とは確かに政略結婚だ。だけど君もお母様も愛しているよ。」

 父親の目は悲しみくれていたが真実を語っているようにも思えた。

「では、皇太子殿下と婚約しなくてもいいの?」
「勿論だ」
「よ、良かった……」

 長年の悩みが消えて私はその日安心して寝ることが出来た。なのでデビュタントもついでにやっておこうと城へ赴く。

「オリヴィアのエスコートが出来て私は幸せだよ」
「お母様はよろしいの?」
「あぁ、オリヴィアにはまだ言ってなかったね。お母様は今、お腹のなかに赤ちゃんがいるんだ。君の弟か妹がね」
「!!」

 原作にはそんな描写はなかった。私は一人っ子だったはずなのに何か変だ……。

「さぁ、デビュタントが始まるよ。初めのダンスは是非とも私と踊っておくれ、可愛い私のお姫様」
「……はい」

 原作の宰相ちちおやとは全く違う。こんな愛娘を溺愛するような発言なんてなかった。信じていいの? 

 そんな不安を残してデビュタントは始まり私は父親と踊りそして王弟・・と踊った。そう、皇太子じゃない王族と踊ったのだ。

 王弟は攻略対象だけど直接私の死に関係ないので安心して踊れた。だがここでも何かおかしい。王弟はダンスをしながら終始妻の惚気と生まれて来る子供の話ばかりしている。

 原作でも確かに仲睦まじいが王城内ではピリピリしていたはずだ。しかも子供がお腹にいる時は安全の為に誰にもその存在を口にしなかったはずなのに……。

「私は王弟妃様の子供は息子だと思いますわ」
「おっ、そうかね? 娘でも可愛いと思うんだけどねぇ」
「王弟妃様に似た可愛らしい男の子ですよ」
「あぁ、それはそれで可愛いね!」

 それからのデビュタントは皇太子とも第2王子とも踊らず最後まで王弟と赤ちゃんの話で盛り上がり私は役目を終えた。
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