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第一章
22.甘いわね……そんな簡単に私達がやられるわけないじゃない
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紫色の空。
荒野を駆ける巨大な猛獣。
鋼鉄の要塞の内側には揃いの軍服を着た軍人たちが行き交っている。
……そんな現代日本ではありえない光景を、僕は窓越しに見ていた。
ここはそう、魔人シュルクが生まれた場所、魔界だ。
鋼鉄の要塞。と言っても、中世的な見た目ではなく、SF映画に出てくるような近未来的な造りをしている。
シュルクに着いて魔界へとやって来た僕はシュルクの私室と思われる部屋に軟禁されていた。
とは言え別に見張られているわけでも何でもないのだが、「この部屋で大人しくしていろ」と言われた僕には、その言葉に従うしかないのだ。
「はぁ……」
敵の本拠地にいるのに、何もできない。そんなジレンマが、ただただ僕を憂鬱にさせていく。
それに、依然として身を焦がすような破壊衝動は収まっていない。
……あぁ、サンとレインを倒した時の快感は凄かった。なんて。
「僕はなんて事を……」
だめだ、想像したら気分が昂って来た。けど何も壊せない現状だと、気が狂いかねない。
僕は自分の体を抱き締めるようにして衝動を抑え込む。
しばらくそうして身を抱きかかえていると、部屋のドアが開かれた。
「ブラックリリィ、ついてこい」
挨拶も何もなく、用件だけを告げるのはシュルクだ。
「はい……」
僕が返事をして立ち上がった時には、シュルクはすでに背を向けて歩き出していた。
のっぺりとした、灰色の通路を僕たちは進んだ。通路にはこれと言った照明がないが、ぼんやりと通路全体が光っていて、暗さを感じない。
科学の代わりに魔力の技術が進んでいるようで、下手をすると人間界より技術力は高いかもしれない。
コツコツとした足音を小さく鳴らしながら、僕たちはある部屋の前までやって来た。
「……ここは?」
「…………」
どうやら答えるつもりはないらしい。
シュルクはこちらに目を向けることもなく、ドアを開けて中に入って行った。
それに着いて部屋の中に入ると、複雑な回路? のようなものが部屋中に張り巡らされており、真ん中には歯医者の椅子のようなメカチックな椅子が一つ置かれていた。
椅子には美容室にあるパーマの機械のような、頭に被せるであろう機械が備え付けられており、どうにも嫌な予感がした。
「座れ」
「で、でも……」
「命令だ」
「はい」
相変わらず"命令"されると、僕の体は言うことを聞かなくなる。
僕はフラフラと一人部屋の中央まで進んで行き、ゆっくりと椅子に座った。
それを確認して、シュルクは口を開いた。
「……スウィッチ・オン・ザ・パワー・ライン・アンド・エクスキュート・プログラム」
次の瞬間、椅子の肘置きと脚の裏側の部分、それから腰部分から枷が飛び出し、僕の肢体を拘束した。
「えっ、ちょっ!?」
僕が驚いて身をよじるも枷はビクともせず、部屋中の回路に光が流れ始めた。
「……さぁ、これからお前は真の意味で我々の仲間になるのだ。黒茨はキッカケでしかないからな。ふとした拍子に解けかねない」
「な、何を言って……!」
「さぁ……生まれ変われ」
頭の上からモーター音が聞こえて来て、見上げればヘルメット型の機械の内側が光り、その光が高速で回転していた。
そしてその機械がゆっくりと降りてくる。
「や、やだっ! やめろ!!」
「暴れるな。動くな」
「……!」
その言葉で体がピタリと止まる。しかし降りてくる機械は止まらず、僕の頭に覆い被さった。
光の輪は、ちょうど僕の目の高さで、目も眩むほど眩しい。
しかし目を閉じても、何故かその光は全く弱まらず、終いには目を開けているのか閉じているのかも分からないほどの光が僕の目を焼いた。
「あ、ああああああっ!!??」
そしてその光の流れが、僕の脳に何かを刻み付けていく。
痛みはない。痛みはないけど、まるで頭の中を万年筆で引っ掻き書き換えられているような強烈な違和感に、僕は悲鳴を上げていた。
目からはもの凄い量の涙が溢れ出して、とても人には見せられない表情をしているに違いない。
だけど、そんなことを気にしている余裕は全く無かった。
自我が崩壊するほどの衝撃。しかし意識を失うこともできず……。
僕はいつしか声も上げることもなくなり、ただただ光の輪に身を晒していることしかでできなくなっていた。
「魔人……シュルク!!!!」
「あなた、リリィをどうしたの!!」
サンとレインが声を荒げて、シュルクに問い詰める。
しかしシュルクはそれに応えることなく、愉悦に顔を歪め、大袈裟に両腕を広げた。
まるで、ショーの始まりだとでも言わんばかりに。
それを合図に、僕はゲートから一歩、人間界に足を踏み入れた。
二人の視線が僕の方へ向く……二人だけではない。校舎の窓から大量の視線が集中している。
僕の姿は、前回シュルクと消えた時と変らない。生気が抜けたような白い髪に、光を反射しない深い黒い魔法少女衣装。
僕を見た二人の顔は、安堵と、それから驚きに歪んでいた。
「り、リリィなの……?」
「何を言っているの? 当たり前じゃないか」
いつか聞いた質問だ。
しかし、二人とも僕に対して強い警戒心を抱いているようで、武器をこちらに向けて来ていた。
「……サン」
「わかってる……今のリリィは、ワタシ達の知ってるリリィじゃない」
そう、小声のやり取りが聞こえてきた。
どうやら、柔らかい笑顔を取り繕っていたのは無駄だったようだ。
「とりあえず、全力でやるしかないわね……」
「あはっ、あはははははっ! いいね! 話が早い!!」
二人の魔力が高まるのが見える。つまらない前戯はいらない。
あぁ、早く二人を壊したい!!
「リリィ……絶対助けるからね!!」
「魔女ブルーミングブラックリリィ……わたしが、あなた達を壊してあげる!!」
こうしてサンとリリィとの第二ラウンドが始まった。
僕の魔法は全部で3つある。
その一つ目、前回二人を倒した、花びらの刃を舞わせる魔法。
「ブルーム・リリィ!!」
僕足下から黒百合が辺り一面に先広がっていく。
しかしこの魔法は読まれていたのか、花びらを散らす前に二人が動いた。
「レッツ・イグニッシュ!」
「フレイミング・スラッシュ!!」
炎を纏った刀を中腰の体制で横一線。
炎の刃が円を描くように広がっていき、あっという間に僕の百合を焦がしていった。
「へえ! やるじゃん! じゃあこれはどう!」
次に発動するのは、魔界にいる間に習得した新しい魔法だ。
これは、本来魔法少女には絶対に使えない魔法。そう、魔人としての力。魔女となった今の僕だからこそ使える使役魔法。
僕はブルー・ムリリィと唱え、足下に、一輪の黒百合の花を咲かせた。それに囁くように語りかける。
――立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は、百合の花。
僕の呼びかけに答えるように、黒百合はどんどんとそのカタチを歪ませながら育っていき、最後には数メートルもある巨大な花となった。
そして、僕は最後に詠唱のワードを呟く。
「――ウォーキング・リリィ」
見上げるほど大きくなった僕の下僕は、地響きを鳴らしながら鬱蒼とした根を大地から引き抜いた。
そう、僕の新しい魔法とは、百合の魔獣を生み出すものなのだ。
「な、何これ!?」
「き、キモイぃぃぃ!?!?」
もじゃもじゃとしたひげ根を、まるでウニの触手の様に動かすその姿に生理的な嫌悪感を覚えたのか、二人は身を縮こまらせて後ずさりしている。
しかしこの黒百合は、歩く百合だ。例え逃げようとしてもそうはいかない。
「行け!!」
僕のその指示で、百合の巨兵は歩き出す。
百合は触手を鞭の様に振るうも、素早く動くサンとレインを捉えることが出来ない。
「それなら……これでどうだ!」
攻撃に参加していない方の根を伸ばし、サンが着地しそうな地点にトラップを仕掛けるのだ。
案の定、考えなしに跳ね回るサンはちょうど張り巡らされた根のすぐ横に着地した、その瞬間。
「ひゃあああああ!?」
まるで罠にかかった猪のようにサンは空高く吊り上げられた。
宙ぶらりんで力も上手く入らない体勢だ。放出系の魔法が苦手なサンはもうこのままで大丈夫だろう。
「先にレインを壊せ!!」
僕の命令で、百合はレインにその花を向けた。
「リリィ・ポレン・ボンバードメント!!!!」
このお化け百合の花粉は高濃度の魔力でできている。それを単純なエネルギーに変換するまでが僕にできること。
お辞儀するようにレインの方へ花を倒す百合。花弁の中央、雌しべと雄しべが集うその場所に、光の球が発生し、どんどんと膨らんでいく。
ものの数秒で巨大になったそれは、光の奔流となってレインに降り注いだ。
「あっははははははっ!! やったやった! レインを壊せた!」
「誰を、壊せたって……?」
「!?」
舞い上がる土煙。跡形もなく吹き飛んだと思っていたのに、そこからレインの声が聞こえてきたのだ。
しかも、その中から銃声。
サンを吊り上げていた百合の根が撃ち抜かれた。
「っと!」
「う、うそ……」
危なげも無く大地に降り立つサンと、土煙の中から出てきたレイン。
レインの左腕には、僕の盾が装着されていた。
「リリィ、甘いわね……そんな簡単に私達がやられるわけないじゃない」
「そういうことよ」
「いやサンは捕まってたじゃない」
「ちょっ、別に言わなくていいだろそれっ」
そのまま呑気に言い争いを始めるサンとレイン。
──あぁ、イラつく!
湧き上がる破壊衝動、それが解消されたと思っていたのに、実際は肩透かしで。欲求不満からか、かつてないほどの怒りを覚えた。
「くっ……絶対、壊す!!」
僕はギリッと歯を食いしばると、僕が使える三つの攻撃魔法の内、最後の一つを唱えた。
荒野を駆ける巨大な猛獣。
鋼鉄の要塞の内側には揃いの軍服を着た軍人たちが行き交っている。
……そんな現代日本ではありえない光景を、僕は窓越しに見ていた。
ここはそう、魔人シュルクが生まれた場所、魔界だ。
鋼鉄の要塞。と言っても、中世的な見た目ではなく、SF映画に出てくるような近未来的な造りをしている。
シュルクに着いて魔界へとやって来た僕はシュルクの私室と思われる部屋に軟禁されていた。
とは言え別に見張られているわけでも何でもないのだが、「この部屋で大人しくしていろ」と言われた僕には、その言葉に従うしかないのだ。
「はぁ……」
敵の本拠地にいるのに、何もできない。そんなジレンマが、ただただ僕を憂鬱にさせていく。
それに、依然として身を焦がすような破壊衝動は収まっていない。
……あぁ、サンとレインを倒した時の快感は凄かった。なんて。
「僕はなんて事を……」
だめだ、想像したら気分が昂って来た。けど何も壊せない現状だと、気が狂いかねない。
僕は自分の体を抱き締めるようにして衝動を抑え込む。
しばらくそうして身を抱きかかえていると、部屋のドアが開かれた。
「ブラックリリィ、ついてこい」
挨拶も何もなく、用件だけを告げるのはシュルクだ。
「はい……」
僕が返事をして立ち上がった時には、シュルクはすでに背を向けて歩き出していた。
のっぺりとした、灰色の通路を僕たちは進んだ。通路にはこれと言った照明がないが、ぼんやりと通路全体が光っていて、暗さを感じない。
科学の代わりに魔力の技術が進んでいるようで、下手をすると人間界より技術力は高いかもしれない。
コツコツとした足音を小さく鳴らしながら、僕たちはある部屋の前までやって来た。
「……ここは?」
「…………」
どうやら答えるつもりはないらしい。
シュルクはこちらに目を向けることもなく、ドアを開けて中に入って行った。
それに着いて部屋の中に入ると、複雑な回路? のようなものが部屋中に張り巡らされており、真ん中には歯医者の椅子のようなメカチックな椅子が一つ置かれていた。
椅子には美容室にあるパーマの機械のような、頭に被せるであろう機械が備え付けられており、どうにも嫌な予感がした。
「座れ」
「で、でも……」
「命令だ」
「はい」
相変わらず"命令"されると、僕の体は言うことを聞かなくなる。
僕はフラフラと一人部屋の中央まで進んで行き、ゆっくりと椅子に座った。
それを確認して、シュルクは口を開いた。
「……スウィッチ・オン・ザ・パワー・ライン・アンド・エクスキュート・プログラム」
次の瞬間、椅子の肘置きと脚の裏側の部分、それから腰部分から枷が飛び出し、僕の肢体を拘束した。
「えっ、ちょっ!?」
僕が驚いて身をよじるも枷はビクともせず、部屋中の回路に光が流れ始めた。
「……さぁ、これからお前は真の意味で我々の仲間になるのだ。黒茨はキッカケでしかないからな。ふとした拍子に解けかねない」
「な、何を言って……!」
「さぁ……生まれ変われ」
頭の上からモーター音が聞こえて来て、見上げればヘルメット型の機械の内側が光り、その光が高速で回転していた。
そしてその機械がゆっくりと降りてくる。
「や、やだっ! やめろ!!」
「暴れるな。動くな」
「……!」
その言葉で体がピタリと止まる。しかし降りてくる機械は止まらず、僕の頭に覆い被さった。
光の輪は、ちょうど僕の目の高さで、目も眩むほど眩しい。
しかし目を閉じても、何故かその光は全く弱まらず、終いには目を開けているのか閉じているのかも分からないほどの光が僕の目を焼いた。
「あ、ああああああっ!!??」
そしてその光の流れが、僕の脳に何かを刻み付けていく。
痛みはない。痛みはないけど、まるで頭の中を万年筆で引っ掻き書き換えられているような強烈な違和感に、僕は悲鳴を上げていた。
目からはもの凄い量の涙が溢れ出して、とても人には見せられない表情をしているに違いない。
だけど、そんなことを気にしている余裕は全く無かった。
自我が崩壊するほどの衝撃。しかし意識を失うこともできず……。
僕はいつしか声も上げることもなくなり、ただただ光の輪に身を晒していることしかでできなくなっていた。
「魔人……シュルク!!!!」
「あなた、リリィをどうしたの!!」
サンとレインが声を荒げて、シュルクに問い詰める。
しかしシュルクはそれに応えることなく、愉悦に顔を歪め、大袈裟に両腕を広げた。
まるで、ショーの始まりだとでも言わんばかりに。
それを合図に、僕はゲートから一歩、人間界に足を踏み入れた。
二人の視線が僕の方へ向く……二人だけではない。校舎の窓から大量の視線が集中している。
僕の姿は、前回シュルクと消えた時と変らない。生気が抜けたような白い髪に、光を反射しない深い黒い魔法少女衣装。
僕を見た二人の顔は、安堵と、それから驚きに歪んでいた。
「り、リリィなの……?」
「何を言っているの? 当たり前じゃないか」
いつか聞いた質問だ。
しかし、二人とも僕に対して強い警戒心を抱いているようで、武器をこちらに向けて来ていた。
「……サン」
「わかってる……今のリリィは、ワタシ達の知ってるリリィじゃない」
そう、小声のやり取りが聞こえてきた。
どうやら、柔らかい笑顔を取り繕っていたのは無駄だったようだ。
「とりあえず、全力でやるしかないわね……」
「あはっ、あはははははっ! いいね! 話が早い!!」
二人の魔力が高まるのが見える。つまらない前戯はいらない。
あぁ、早く二人を壊したい!!
「リリィ……絶対助けるからね!!」
「魔女ブルーミングブラックリリィ……わたしが、あなた達を壊してあげる!!」
こうしてサンとリリィとの第二ラウンドが始まった。
僕の魔法は全部で3つある。
その一つ目、前回二人を倒した、花びらの刃を舞わせる魔法。
「ブルーム・リリィ!!」
僕足下から黒百合が辺り一面に先広がっていく。
しかしこの魔法は読まれていたのか、花びらを散らす前に二人が動いた。
「レッツ・イグニッシュ!」
「フレイミング・スラッシュ!!」
炎を纏った刀を中腰の体制で横一線。
炎の刃が円を描くように広がっていき、あっという間に僕の百合を焦がしていった。
「へえ! やるじゃん! じゃあこれはどう!」
次に発動するのは、魔界にいる間に習得した新しい魔法だ。
これは、本来魔法少女には絶対に使えない魔法。そう、魔人としての力。魔女となった今の僕だからこそ使える使役魔法。
僕はブルー・ムリリィと唱え、足下に、一輪の黒百合の花を咲かせた。それに囁くように語りかける。
――立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は、百合の花。
僕の呼びかけに答えるように、黒百合はどんどんとそのカタチを歪ませながら育っていき、最後には数メートルもある巨大な花となった。
そして、僕は最後に詠唱のワードを呟く。
「――ウォーキング・リリィ」
見上げるほど大きくなった僕の下僕は、地響きを鳴らしながら鬱蒼とした根を大地から引き抜いた。
そう、僕の新しい魔法とは、百合の魔獣を生み出すものなのだ。
「な、何これ!?」
「き、キモイぃぃぃ!?!?」
もじゃもじゃとしたひげ根を、まるでウニの触手の様に動かすその姿に生理的な嫌悪感を覚えたのか、二人は身を縮こまらせて後ずさりしている。
しかしこの黒百合は、歩く百合だ。例え逃げようとしてもそうはいかない。
「行け!!」
僕のその指示で、百合の巨兵は歩き出す。
百合は触手を鞭の様に振るうも、素早く動くサンとレインを捉えることが出来ない。
「それなら……これでどうだ!」
攻撃に参加していない方の根を伸ばし、サンが着地しそうな地点にトラップを仕掛けるのだ。
案の定、考えなしに跳ね回るサンはちょうど張り巡らされた根のすぐ横に着地した、その瞬間。
「ひゃあああああ!?」
まるで罠にかかった猪のようにサンは空高く吊り上げられた。
宙ぶらりんで力も上手く入らない体勢だ。放出系の魔法が苦手なサンはもうこのままで大丈夫だろう。
「先にレインを壊せ!!」
僕の命令で、百合はレインにその花を向けた。
「リリィ・ポレン・ボンバードメント!!!!」
このお化け百合の花粉は高濃度の魔力でできている。それを単純なエネルギーに変換するまでが僕にできること。
お辞儀するようにレインの方へ花を倒す百合。花弁の中央、雌しべと雄しべが集うその場所に、光の球が発生し、どんどんと膨らんでいく。
ものの数秒で巨大になったそれは、光の奔流となってレインに降り注いだ。
「あっははははははっ!! やったやった! レインを壊せた!」
「誰を、壊せたって……?」
「!?」
舞い上がる土煙。跡形もなく吹き飛んだと思っていたのに、そこからレインの声が聞こえてきたのだ。
しかも、その中から銃声。
サンを吊り上げていた百合の根が撃ち抜かれた。
「っと!」
「う、うそ……」
危なげも無く大地に降り立つサンと、土煙の中から出てきたレイン。
レインの左腕には、僕の盾が装着されていた。
「リリィ、甘いわね……そんな簡単に私達がやられるわけないじゃない」
「そういうことよ」
「いやサンは捕まってたじゃない」
「ちょっ、別に言わなくていいだろそれっ」
そのまま呑気に言い争いを始めるサンとレイン。
──あぁ、イラつく!
湧き上がる破壊衝動、それが解消されたと思っていたのに、実際は肩透かしで。欲求不満からか、かつてないほどの怒りを覚えた。
「くっ……絶対、壊す!!」
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