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空席の護衛騎士(1)
その知らせは突然だった。
「ラズ、今日からきみの護衛騎士ラルドだよ。マリンと共に常にラズの傍に控えているから何かあったら頼りなさい」
「ラズ様、再びおそばでその御身をお守りさせていただける栄誉を授かりました。なんなりとお申し付け下さい」
「~~~っ聞いてない!!!」
そんな僕の叫びが朝から王城内にこだました。
◆◇◆◇◆
天気のいい日は庭園を眺めながら、クオーツと二人外でお茶をするのんびり優雅なティータイム。
マリンがお茶の世話をしてくれながらトールがクオーツの後ろに控え、更に離れた見えない場所には衛兵やメイド達が待機する。
いつもだったらそんなメンバーで行うティータイムに、今日からもう一人新顔が追加された。
何度もチラッチラッと後ろを確認してしまう。
そんな僕を面白そうに眺めるクオーツは優雅にティーカップを傾けながらくすっと笑った。
「落ち着かない?」
「……だって、本当に、ずっと一緒に居る」
「そうだよ、ラズ付きの護衛騎士だからね」
周囲を警戒しながら一歩後ろに控えるラルド様。
そんな光景がすでに半日が過ぎた今も、いまだ信じられずにいた。
「ねぇ何で?どうして突然こうなった!?なにかの罠?僕が調子乗ったところでやっぱ嘘でぇすってするやつ?」
「なぁにそれ、そんな事しないよ。まぁ…こっちの方が色々と効率いいかなって思っただけ。あ、浮気はダメだからね?」
「しっ、しないわ!!」
冗談でもラルド様に対して失礼なことを口にするクオーツに威嚇し、ぷいっと顔を背け紅茶に口付ける。
そうして視線を誤魔化しながら盗み見るクオーツの表情はパッと見、普段と何も変わらない穏やかなように見える……が、あの時見せた闇堕ち寸前の様子はなんだったのか―――
あの瞬間、アキレス腱をどうにかされると本気で覚悟した。
今も、僕の視線に気付くと「ん?」と微笑んでくるが―――その腹の中で何を思っているのか、僕はクオーツの番なのに全然番が考えていることがわからなかった。
「ラズ様おかわりいりますか~?」
「いる~」
考えてもわからないことはわからない。
パッと気持ちを切り替え、マリンが入れてくれる美味しい紅茶とケーキに舌づつみを打った。
「そういえばラズ、時期的にもうそろそろかな」
「ん?……あー、そうだ、そうかも」
初めはなんの事を言われているのやらピンと来ないでいると、クオーツがやる項をトントンと指し示すジェスチャーでやっとその意味がわかった。
そっと自分のそこに手を伸ばせば、オメガの命とも言える項を守るため、肌身離さず付けているベロア生地のチョーカー。小ぶりなラピスラズリの宝石が一つついたそれはクオーツから贈られた物でクオーツにしか外せない特注品。
その下に隠れた、もう何年も前に刻まれた消えない痕を爪がザリっと引っ掻いた。
数ヶ月に一回やってくるオメガの宿命――発情期。
幸か不幸か、僕は二次性が発現してすぐクオーツと番ったため、今まで一度も一人で迎える発情期を経験したことは無かった。
あのどうしようもない欲情を一人で耐える想像をしただけで気が狂いそうになる。
「安心して、公務の調整はしてあるから。誰にも邪魔されずいっぱい愛し合おうね」
「ぐえぇ…勘弁してくれぇ…」
舌を出し、げろぉと躱しながら、こんな会話をラルド様に聞かれるのが気恥しくて仕方なかった。
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