【本編完結】今日も推しに辿り着く前に嫉妬が激しい番に連れ戻されます

カニ蒲鉾

文字の大きさ
78 / 140

妊娠の予兆(5)

しおりを挟む

 
 
「……ん、ぅ」
「ラズ気が付いた?」
 
 
 目が覚めるとそこは、見慣れたベッドの上。
 広いベッドに一人で横たわる僕をサイドに置いた椅子に腰かけたクオーツが覗き込んでいる。
 
 その表情には心配の色が色濃く浮かんでいた。
 
 
「……ここ…あれ…なんで───」
「お茶会で気持ち悪くなってそのまま気を失ったんだよ。大変だったね、今はどう?」
「……今は…だいじょぶ…」
「良かった」
 
 
 他に誰もいない二人きりの空間で、頭や頬を撫でられながらぼぉっと天井を見上げていると、「ラズ、聞いて」と神妙な面持ちで手を握られる。
 
 そのあまりにも真剣な表情に、ドキッと身構えた。
 
 
「主治医が言うには───」
 
 
 今思い返してみても、未だかつて体験したことの無いような激しい吐き気の原因が、何か重い病気とか言われたらどうしよう───そう思って必死に心の準備を整えようとする僕にクオーツは優しくこう告げた。
 
 
「ラズのお腹にはね、新しい命が宿っている」
「……へ?」
「私と、ラズの子だ」
「僕と…クオーツの……」
 
 
 突然のことすぎて頭が追いつかない。
 確かに、発情期をアルファと過ごしていればその可能性は大いにある。
 けれど、まさかあの吐き気が悪阻から来るものだったなんて……
 
 
 まだ何も変化のないぺったんこのお腹に視線を落とし、そっと撫でてみるが全くと言っていいほど実感がわかない。
 
 黙りこくる僕のリアクションを待つクオーツの顔からは、どことなく緊張が感じ取れる。
 とうとう痺れを切らしたのか「ラズ」と呼びかけてくるクオーツの言葉を遮るようにゆっくりと口を開いた。
 
 
「それ聞いた時さ、クオーツはどんなリアクションした?」
「え?」
「だから、クオーツが先生から聞いた時、一番最初にどんなリアクションしたのかって」
 
 
 じっと目を見て答えを待つ僕に、同じく僕を見つめるクオーツからポツリと呟かれた言葉は、求めていた返答以上の答えだった。
 
 
「……泣いた」
「うわ、マジか…見たかったんだけど」
「やめてよ、人前で泣くなんて赤子以来だったんだから」
「なにそれっ余計見たかったんだけど…!先生だけずるい~」
「ラズ今は真剣に」
「───いいよ、わかった」
「え」
 
 
 不意を突かれたような、いつものクオーツらしからぬ表情が見れただけで満足だ。
 
 
「色々不安だけど、頑張る。頑張って元気な子を産んで、この国の民全員から愛されるような素晴らしい王の子に育てる!んでもってお前は誰よりもこの子を大切にしろ!」
 
 
 ふんすっと息巻いて言い切れば、目を見開く表情から一変、くしゃっと微笑む泣き笑いのような笑みでクオーツが何度も頷いた。
 
 
「……勿論、勿論大切にする、これから産まれてくるお腹の中の子も、ラズも、私が一番愛して幸せにすると約束する、必ず」
「───ん」
 
 
 優しく包み込まれるような抱擁に頭を預け、ギュッと抱き返す。
 
 初め聞いた時は不意打ちすぎて正直びっくりしたが、いつかはそんな日が来ると心のどこかで覚悟は決めていた。
 だから案外すんなり受け入れることは出来た。
 が、初めての事すぎてこれからどんどんお腹が大きくなることやさっき感じた吐き気がまた来るんだろうか、など、全く不安がないと言ったら嘘になる。

 
 けれど、それ以上に番の───クオーツの子を産むのは嬉しい事だった。
 

 この突然舞い込んできた妊娠報告に、周りのみんなはどんな反応を見せるのか…
 家族は?
 マリンは?
 民たちは?
 そして───ラルド様は?
 みんなから祝福されながら生まれてきて欲しい、そう願いながらもう一度、そっとお腹に手を当てた。

 
 
 
 
 妊娠の予兆 -END-
 
 
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...