【本編完結】今日も推しに辿り着く前に嫉妬が激しい番に連れ戻されます

カニ蒲鉾

文字の大きさ
81 / 140

最優先事項(3)sideクオーツ

しおりを挟む

 
「ラズ……」
 
 
 いまだ意識の戻らないラズの傍らに膝をつき、そっと手を伸ばす。
 
 ピクリとも動かないラズの顔を見つめながら思い出すのは初めて出会ったあの瞬間───少し触れてすぐに運命の番だと直感したラズは当時1歳の赤子だった。そんなあの子が、子を身篭った…。私の子を。
 
 だらんと力の入っていないラズの片手を取りながら頭からつま先まで視線をめぐらし、祈るような形で顔面の前で握りしめる。
 
 
「ありがとう…ラズ……ありがとう…」
 
 
 重なり合った3つの手に、ぽつぽつと水滴がこぼれ落ちていく。
 勝手に溢れ出る涙が止まらなかった。
 
 
「これこれ、涙はまだ早いですぞ。ラズ様は初産ですからね、何かと大変でしょう。しっかり支えておやりなさい」
「……はい」
 
 
 ふっと笑う老先生にぽんぽんと肩を叩かれ励ましを受ける。私自身幼い頃から世話になっているこの人にしかこんな姿は見せられない。
 差し出されたハンカチで涙を拭い、ひとつ深呼吸を零すと気持ちを整え立ち上がった。
 

「先生。母子ともに、必ず無事な出産を」
「もちろんです。この老体の最後の大仕事だと思って全身全霊努めさせていただきます」
「何をおっしゃる…先生にはまだまだ頑張ってもらわないと」
「はぁ…相変わらず老体をもこき使う暴君ですなぁ」
「ふふ、ラズにもよく言われます」
 
 
 気心知れた師弟のような関係性。
 お互い穏やかに笑い合いながら共にしばらくラズを見つめていた。
 
 
 
 
 
「それでは私は一旦退出しますが、このまま人払いをさせますので、ラズ様が目を覚ましたらお呼びください」
「ありがとう」
 
 
 気を利かせた老先生までも出ていくと、とうとうラズと二人きり。
 ベッドの隣に椅子を持ち寄り、変わらず意識が戻らないラズの寝顔を見つめ続ける。心なしか先程よりは顔色が良くなっているかのように思えた。
 
 
「……妊娠したって知ったらキミは一体どんなリアクションをするんだろうね」
 
 
 正常な状態でのラズと直接子供の話は、未だかつてした事がなかった。発情期のあの時の言動はもちろん記憶にないだろう。
 
 正直、ラズの反応は図りかねる。
 
 もしかしたら共に喜んでくれるかもしれないし、もしかしたらショックを受けることだって十分に有り得る。
 
 
 ラズには過酷な話だが、まだ見ぬお腹の子とはいえもう既にれっきとした王の子であり王族の一員。もし万が一、産みたくないとラズが言ったとしても、その子を殺すことは王族殺しとみなされ、よっぽどの事がない限り許されない。
 
 そして、王族殺しは酌量の余地なく即極刑と決められている。
 
 
 ───だが、ラズが選ぶ選択肢を尊重したい。
 
 
 まだこの事実を知る者は極小数。
 混乱させてしまうだろうが目が覚めたその瞬間に、ラズには選んでもらわないといけない。
 
 産み育てるか、もしくは──秘密裏に堕ろすのか。
 
 
「どんな事があっても、ラズ、キミを守るよ」
 
 
 誓いを込めてもう一度、手を握りしめる。
 すると、いままで一切反応のなかったラズの方からピクっと反応が返ってきた。
 
 
「!」
「ん……ぅ…」
「ラズ!」
 
 
 ラズの意識が戻った喜びと同時に、頭の中では妊娠の事実をどう伝えるべきかと忙しなく練られる構想。複数の思考が激しく飛び回り、目覚めてからのラズと交した会話の内容も冷静に応答できていたかも、その時の記憶は曖昧だった。


 そんな中でも妊娠の件はしっかりと伝えた。

 黙りこくりお腹を見つめるラズに緊張感が高まる。


 そして───
 
 
 
「わかった。色々不安だけど、頑張る。頑張って元気な子を産んで、この国の民全員から愛されるような素晴らしい王の子に育てる!んでもってお前は誰よりもこの子を大切にしろ!」
 
 
 にっと笑ってみせるその表情は、ラズらしい、太陽みたいに眩しい満面の笑顔。
 つい先刻まで固く目を閉ざし意識を失っていた子とは思えない、なんて立派な態度なのだろうか……。


 我が番ながら、心底誇らしくて愛おしかった。
 
 
「……勿論、勿論大切にする、これから産まれてくるお腹の中の子も、ラズも、私が一番愛して幸せにすると約束する、必ず」
 
 
 正面から抱き締めれば、ギュッと抱き返してくれる力が心強い。いま一番不安を抱えているだろうラズに逆に励まされていた。
 
 こんな情けない姿は今日この瞬間限りと誓う。
 
 
 ラズも、生まれてくる子も守る頼もしい存在と成るべく気持ちを切り替え、腕の中の存在を確かめるよういま一度しっかりと抱き締めた───。
 
 
 
 
 
 最優先事項 -END-
 
 
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

処理中です...