【完結】今日も推しに辿り着く前に嫉妬が激しい番に連れ戻されます

カニ蒲鉾

文字の大きさ
81 / 141

最優先事項(3)sideクオーツ


 
「ラズ……」
 
 
 いまだ意識の戻らないラズの傍らに膝をつき、そっと手を伸ばす。
 
 ピクリとも動かないラズの顔を見つめながら思い出すのは初めて出会ったあの瞬間───少し触れてすぐに運命の番だと直感したラズは当時1歳の赤子だった。そんなあの子が、子を身篭った…。私の子を。
 
 だらんと力の入っていないラズの片手を取りながら頭からつま先まで視線をめぐらし、祈るような形で顔面の前で握りしめる。
 
 
「ありがとう…ラズ……ありがとう…」
 
 
 重なり合った3つの手に、ぽつぽつと水滴がこぼれ落ちていく。
 勝手に溢れ出る涙が止まらなかった。
 
 
「これこれ、涙はまだ早いですぞ。ラズ様は初産ですからね、何かと大変でしょう。しっかり支えておやりなさい」
「……はい」
 
 
 ふっと笑う老先生にぽんぽんと肩を叩かれ励ましを受ける。私自身幼い頃から世話になっているこの人にしかこんな姿は見せられない。
 差し出されたハンカチで涙を拭い、ひとつ深呼吸を零すと気持ちを整え立ち上がった。
 

「先生。母子ともに、必ず無事な出産を」
「もちろんです。この老体の最後の大仕事だと思って全身全霊努めさせていただきます」
「何をおっしゃる…先生にはまだまだ頑張ってもらわないと」
「はぁ…相変わらず老体をもこき使う暴君ですなぁ」
「ふふ、ラズにもよく言われます」
 
 
 気心知れた師弟のような関係性。
 お互い穏やかに笑い合いながら共にしばらくラズを見つめていた。
 
 
 
 
 
「それでは私は一旦退出しますが、このまま人払いをさせますので、ラズ様が目を覚ましたらお呼びください」
「ありがとう」
 
 
 気を利かせた老先生までも出ていくと、とうとうラズと二人きり。
 ベッドの隣に椅子を持ち寄り、変わらず意識が戻らないラズの寝顔を見つめ続ける。心なしか先程よりは顔色が良くなっているかのように思えた。
 
 
「……妊娠したって知ったらキミは一体どんなリアクションをするんだろうね」
 
 
 正常な状態でのラズと直接子供の話は、未だかつてした事がなかった。発情期のあの時の言動はもちろん記憶にないだろう。
 
 正直、ラズの反応は図りかねる。
 
 もしかしたら共に喜んでくれるかもしれないし、もしかしたらショックを受けることだって十分に有り得る。
 
 
 ラズには過酷な話だが、まだ見ぬお腹の子とはいえもう既にれっきとした王の子であり王族の一員。もし万が一、産みたくないとラズが言ったとしても、その子を殺すことは王族殺しとみなされ、よっぽどの事がない限り許されない。
 
 そして、王族殺しは酌量の余地なく即極刑と決められている。
 
 
 ───だが、ラズが選ぶ選択肢を尊重したい。
 
 
 まだこの事実を知る者は極小数。
 混乱させてしまうだろうが目が覚めたその瞬間に、ラズには選んでもらわないといけない。
 
 産み育てるか、もしくは──秘密裏に堕ろすのか。
 
 
「どんな事があっても、ラズ、キミを守るよ」
 
 
 誓いを込めてもう一度、手を握りしめる。
 すると、いままで一切反応のなかったラズの方からピクっと反応が返ってきた。
 
 
「!」
「ん……ぅ…」
「ラズ!」
 
 
 ラズの意識が戻った喜びと同時に、頭の中では妊娠の事実をどう伝えるべきかと忙しなく練られる構想。複数の思考が激しく飛び回り、目覚めてからのラズと交した会話の内容も冷静に応答できていたかも、その時の記憶は曖昧だった。


 そんな中でも妊娠の件はしっかりと伝えた。

 黙りこくりお腹を見つめるラズに緊張感が高まる。


 そして───
 
 
 
「わかった。色々不安だけど、頑張る。頑張って元気な子を産んで、この国の民全員から愛されるような素晴らしい王の子に育てる!んでもってお前は誰よりもこの子を大切にしろ!」
 
 
 にっと笑ってみせるその表情は、ラズらしい、太陽みたいに眩しい満面の笑顔。
 つい先刻まで固く目を閉ざし意識を失っていた子とは思えない、なんて立派な態度なのだろうか……。


 我が番ながら、心底誇らしくて愛おしかった。
 
 
「……勿論、勿論大切にする、これから産まれてくるお腹の中の子も、ラズも、私が一番愛して幸せにすると約束する、必ず」
 
 
 正面から抱き締めれば、ギュッと抱き返してくれる力が心強い。いま一番不安を抱えているだろうラズに逆に励まされていた。
 
 こんな情けない姿は今日この瞬間限りと誓う。
 
 
 ラズも、生まれてくる子も守る頼もしい存在と成るべく気持ちを切り替え、腕の中の存在を確かめるよういま一度しっかりと抱き締めた───。
 
 
 
 
 
 最優先事項 -END-
 
 
感想 43

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました

こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」