【完結】今日も推しに辿り着く前に嫉妬が激しい番に連れ戻されます

カニ蒲鉾

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忘れ去られた薔薇(1)


 
 
 光の裏には決まって闇が存在する。
 
 
 僕の場合、前世の記憶というイレギュラーを持って生まれたものの、それに深く関わる人物がすぐ側に居た事でこの人生の意味を見出し、推し活という最大の生きる糧を得た。
 
 それだけで満足した人生であったのに、
 早々に運命の番と出会い──あの場合、見つかったという方が正しいのかもしれない──たまたまそれが国の頂点国王陛下になる人だった。
 
 有難いことに番ってからも変わらず番からは大切にされ、周りの人にも恵まれ、とうとう番との間に新しい命も宿った。
 
 
 まさに順風満帆。
 
 
 そんな人生を歩む過程で経験してきた過去の辛かった出来事を完全に忘れ去るまではしないものの、日常的に頭から抜けるくらいにはいまの日々に満たされ幸せだった。
 
 
 
 ───しかし、僕が幸せな日々を送る姿に比例して膨らむ負の感情。
 
 
 
 王族から消され忘れ去られたその存在が、じわじわと毒の棘を張り巡らせていた。
 
 
 
 
 ◆◇◆◇◆
 
 
 
 バシャ───ッ!
 
 
 なんの前触れもなしに襲う、一瞬の刺すような冷たい感覚で急激に意識が浮上しパッと目が覚める。
 
 
「───っ!?
 ……ここ…は?……へ、なんで僕…濡れ……え?」
 
 
 突然のことにいま自分に起きた状況が何も理解把握する事が出来なかった。
 
 わかった事は未だ式典時の服装のまま、髪の毛からポタポタ伝う水をはじめ全身ずぶ濡れの状態で薄暗い石畳の地面に転がされている、という事だけ。
 幸いな事に足も手もどこにも拘束等の枷は何も無く、自由の身。
 ただ、自分と周りの地面だけが濡れている状況から、おそらく水をかけられたのだと推測するも、自覚した途端ブルっと寒さに襲われた。
 
 
「寒っ……」
 
 
 濡れたことで体に張り付く薄い式典服が寒さを助長する。ガクガク小刻みに震えながら少しでも暖をとろうと自分を抱きしめながら情報を得るため辺りを見回す。
 
 
 誰がここまで僕を運び水をかけたのか───?
 
 
 その答えはすぐにわかることとなった。
 
 
 石畳の地面にカツンッと響く甲高いヒールの音。
 咄嗟に身構えながらそちらへじっと視線を凝らしていると、暗がりから現れた予想外の人物にハッと息を呑む。
 
 
「お目覚めですか?」
「なぜ…あなたが……ここに」
「ご無沙汰しております、ラズ様。無様に濡れ鼠になったご気分はいかが?」
 

 不敵な笑みを浮かべ僕の前に立つのは、ここ王城にいるはずの無い人物──数ヶ月前、クオーツの怒りを買い、一家丸ごと王族の系譜から消されたクオーツの元婚約者ローズ様だった。
 
 しかし、本気で一瞬、その人とは気付かなかった。

 常に自信に満ち溢れた高飛車なオーラを纏い、豪華で派手な出で立ちだったローズ様。そんな過去の彼女であれば袖を通すことすら嫌悪するであろう地味なメイド服に身を包む彼女の姿は、記憶にあるローズ様とは随分とかけ離れていた。
 化粧もそこそこに目の下にはくっきりと濃い隈ができ、肌や髪からすっかりハリが消え、どこか憔悴したように見える。
 おそらく控え室に入ってきたあのメイドもローズ様だったのだと今になって結びついた。
 
 
 クオーツに追放されたあの日から彼女が一体どんな日々を過ごしてきたのか僕は知らない。
 けれど、長年過ごしてきた王族としての恵まれた環境下での裕福な暮らしとは程遠い事は容易に察しが着いた。
 
 
 
 それでもやはりローズ様を目の前にするとフラッシュバックする過去の記憶は受けてきた数々の嫌がらせを思い起こさせる。
 
 手は小刻みに震え、心臓がバクバク暴れ出す。
 
 そんな僕をクスッと笑いながら昔から変わらない、人を蔑む憎悪の目で見下ろしてくる。


 何倍にも負の感情を膨らませて───
 
 
 
 
 
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