【完結】今日も推しに辿り着く前に嫉妬が激しい番に連れ戻されます

カニ蒲鉾

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油断


 
 雲ひとつない青空。
 
 窓から差し込む光が眩しく、テラスに一歩また一歩と近づくにつれ、目が眩む。
 よろけてしまわないよう、強くクオーツに掴まりながらの歩行。
 
 
 まだ窓は開いていない。
 
 
 それでも、漏れ聞こえてくる歓声は僕の名前を強く呼んでいた───
 
 
 
 ◆◇◆◇◆
 
 
 
 それはもう体感、一瞬の出来事だった。
 
 
「お疲れ様、ラズ」
「……あれ…もう、終わった?」
「うん終わったよ」
 
 
 クオーツに声をかけられハッと気付いた時には式典は終わり、再び室内に戻っていた。ハッキリと記憶に残っていないが、無我夢中で四方八方に手を振り続けた事だけは確か。
 
 
 そんなんで大丈夫だっただろうか……
 
 
「僕、ちゃんとできてた……?」
「大丈夫、立派な王妃の姿だったよ」
「よかったぁ……うお」
「おっと…やっぱり疲れちゃったね。支えてるから、私に体重預けなさい」
 
 
 ほっと一息つくと途端足がガクガク震え出す。
 クオーツに支えられているおかげでなんとか立っていられたが、そろそろ限界だった。


「ラズ様、こちらを」
「ラルド…ありがとぉ」


 すかさずひとりがけ用ソファを移動して近くへ持ってきてくれたラルドに礼を言い腰を下ろした。
 
 
「マリン、なにか飲み物を持ってきてあげて」
「はい、すぐに」
「ごめんよマリンもありがと~」
 
 
 頭を下げ出ていくマリンに手を振ると、そのままパタパタ顔の前で扇ぎ風を起こす。太陽サンサン降り注ぐテラスに立っていたからか、顔が火照って暑かった。
 クスッと笑うクオーツも一緒になって扇いでくれていると、突如響いたノックの音と共に顔を出したのはトールだった。
 朝から忙しく働き回っているトールだが、どこからか見ててくれたかな、そう思い声をかけようと口を開きかけた僕より先にささっとクオーツに近寄ると、断りもそこそこに直接なにかを耳打ちする様子に大人しく口を噤んだ。
 

 そして、その知らせはあまり良くないものなのだったらしい。わかりやすい程クオーツの顔が嫌悪に歪み舌打ちまで飛び出す始末。
 
 
 うわ……珍しい、ガチなやつだ。
 
 
 それらが自分に向けられた訳では無いのに、その表情やフェロモンにブルっと背筋が震えた。
 そんな僕にハッと気が付いたのか、トールとの会話を一度打ち切り、そっと背中に手が回り労わるように撫でられる。
 
 
「ごめんラズ、驚かせてしまったね」
「僕は大丈夫……だけど、何かあった?」
「……ちょっとね。ラルドも連れて少し行ってくるけど、ここに一人にさせてしまって大丈夫?マリンにはすぐ戻るよう伝えるから」
「大丈夫大丈夫、ここで大人しくしてるから気にしないで行ってきてよ」
 
 
 こんな緊急時っぽい時でも気にかけてもらっては申し訳ない。
 部屋の前を警備する兵たちもまだ外に溢れる民衆達の整備で駆り出され忙しそうな状況、そもそもこの体では思うように動けないのだから大人しく待っている他なかった。
 
 警備は手薄とはいえ自分で動かない限り王城内で何事も起きるはずがない、最後まで心配そうにするクオーツやラルド、トールを半ば無理やり見送り、あっという間に部屋に一人になった。
 
 
 途端、はぁ、と大きなため息を漏らす。
 ほんの数分の事とはいえ、自分が思うよりだいぶ体力を消耗していたらしい。
 
 
 少し横になりたいな……
 
 
 そう思い辺りを見渡しても、現在いる広場に面したこの部屋は普段応接間のような使われ方をする部屋であり、いま座っているような個人用ソファはあっても横になれる程のサイズ感では無かった。
 
 これでも十分ふわふわだし、まぁいいか…と深く座り直し体を沈みこませながらふぃー…と天井を見上げ目を瞑る。やはり無意識のうちにお腹の上に手を持っていくのが定位置となっていた。
 
 マリンももう少しすればもどってくるだろうし、このまま休憩していよう、そう思って体の力を抜き、仮眠モードに突入しようとした、そんな時───
 
 
 コンコン、と控えめなノックが部屋に響いた。
 
 
「……はい?」
 
 
 マリンが戻ってきた──にしては、控えめすぎるノックの音。誰だろ…とは思いながら、とにかくここには僕しかいないため、反射的に返事をしていた。
 
 
「ラズ様、陛下より部屋の移動を申しつかりました。失礼してもよろしいでしょうか?」
「クオーツが……はい、どうぞ」
「失礼致します」
 
 
 入ってきたのは何の変哲もない王城内でよく見かけるメイド服に身を包んだ女性。

 彼女の顔をよく見ることもせず、その姿を一瞬目にとめただけですぐに目を離したのが良くなかった。
 もしこの時、入ってきたのが屈強な男であれば、ずっと視界に入れたまま少しは身構えたかもしれない。女性という事、そしてクオーツからの言伝だと言うことから完全に油断した。
 
 
 その気配をすぐ後ろに感じた頃には時すでに遅し。

 一瞬のうちに背後に立たれ、え、と思う間もなく何か布のようなものを鼻にあてられ───


 気付いた時には意識が遠のいていた。
 
 
 
 
 
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