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SS・IF・パロディー
【SS】慣れない王城での暮らし(2)
しおりを挟む名前を呼ばれようが、頑として振り向かないぞ、の姿勢を貫こうと膝を抱えるお山座りにぎゅっと力を込めていると、突如背後から伸びてくる腕に抱き締められる。
それでも頑なに膝に埋めた顔を上げなかった。
「ラズ、怒ってる?」
「……別に。なんでこんな時間に戻ってきてんの」
自分から出てくる声とは思えないくらい不貞腐れた冷たい声になってしまった。
それをクオーツも察しているのか抱く腕に力を込め、殊更神妙に語りかけてくる。
「ラズの顔が見たくて抜けてきた。折角一緒に暮らせるようになったのに寂しい想いをさせてごめんね、何か欲しいものとかあったら遠慮なく言って」
「……お家帰りたい」
「それはダメ」
気遣う様子を見せながら、求めた要求にはキッパリ突きつけられるNOにムスッとしてしまう。
「はぁ……忙しいんでしょ、もういいから早く戻りなよ」
「うん、ごめんね。それと今夜の晩餐会だけど私の番になる人はラズしかいないということをいい加減周りにわからせたいんだ、だからちょっとだけ付き合ってもらえると嬉しい」
「……僕は求めてないし」
何度も何度もクオーツに「ラズが私の運命の番だ」と言われて来たが、いまだ第二の性が発現していない僕には全くピンとこない事だった。
それなのに自由が奪われるこの状況に納得がいくはずがない。
ふんっとそっぽを向くツンケンとした態度を取るたびに微笑みを携えたクオーツの表情に影が陰るのを感じてはいた。
例えちょっとやそっとじゃへこたれないクオーツでも、同じ人間であるのだから僕の言葉と態度に傷つかないはずがないのに──慣れない環境と自由のない状況に相手を気遣う余裕なんて今の僕にはなかった。
「……」
どちらも口を閉ざし続く無言の末、後ろからの抱擁がそっと解かれた瞬間、ちょっとやりすぎたかもしれない…とバツが悪く思いながらも今更どんな顔をしてクオーツと顔を合わせばいいのか分からずそのままの体勢から動けないでいると、コツコツという足音と共にソファを回って目の前までやって来たクオーツの脚が視界に入った。
どうやら出て行くのではなかったらしい。
それを見て小さくほっと息を吐きながら、視線はそのままジッと脚を見つめ、一体何をするつもりなのかと待っていると、次の瞬間──クオーツが取った行動に思わず目を見張ってしまった。
スっと脚を折りカーペットが敷かれた床に片膝をつく格好はこの国の頂点に近しい王太子がする行動とは到底思えない、相手に最上級の敬意を示すポーズをとるクオーツに驚きが隠せなかった。
「っ、クオーツ……何、して……」
「お願いだラズ、私の話を聞いておくれ」
咄嗟に顔を上げれば、真剣な表情のクオーツが僕を覗き込むように一心に見つめる視線と重なり合う。
「っ、」
「ラズを王城に連れてきたのも王城から出してあげられないのも完全に私のエゴだ…ごめん……けれど、前よりも自由に動けない私の目の届かないところでラズが他のやつに掻っ攫われてしまうんじゃないかと思うと──正気ではいられない……そんなもしもの時、自分でもそいつに何をしてしまうかわからないし、ラズを手に入れるためにキミ自身を傷付けたくない」
美少年期間を通り過ぎすっかり美青年に成長した7つ歳上の男からの縋るような目に灯る狂気と執着に背筋がゾクッと震えた。
まるで金縛りにあったかのように固まる身体は、そっと頬に伸びてくる手を避けられない。
「ラズ、私の大切なオメガ……美しいその目が私以外を映すことすら本当は我慢ならない。私だけの世界に閉じ込めてしまいたい……」
「な…んだそれ……おっそろしいこと言わないでよね……」
「こんな余裕のない私が運命の相手でごめんね…早くキミも発現したらいいのに……そしたらきっとわかってくれるはず、この狂おしい程の愛情が」
動けないでいる僕を正面からぎゅっと抱き締めてくるクオーツにされるがまま。
小さな赤子の頃からもうかれこれ10年以上クオーツから与えられる一方的な愛情表現。それらはまだ僕の第二の性が発現していない今だから言葉とちょっと行き過ぎた監禁まがいの行動だけで抑えられているが、これがもし発現してしまったら───その時僕はどうなっているのだろう。
目が合えばふわりと嬉しそうに微笑むこの究極のアルファの理性のタガが外れるその瞬間を僕の乏しい知識では想像することすら困難だった。
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