132 / 140
SS・IF・パロディー
【SS】雪の日の思い出sideラルド(2)
しおりを挟むこちらを見るラズ様の視線を感じ、表情を引き締めると落とした速度を再び取り戻し近くまで駆け寄る。
自分の気持ちを切り替える意味も込め今度はしっかりラズ様の名を呼び直した。
「ラズ様」
「ラルド様!?へ、何で!?まだ訓練中ですよね!?僕お邪魔しちゃいましたか!?」
「いえ、我々は問題ありません。ただ、このような日に薄着では風邪を引いてしまいますよ」
「……あ、すみません、ご心配ありがとうございます。雪が嬉しくて飛び出してきちゃいました」
へへ、と照れくさそうに笑うラズ様の赤くなった鼻先を目に止め、考えるより先に体が動き出す。
着ていた自分の厚手のコートをラズ様の肩にふわりとかけた。
「え!?ラルド様!?」
「着ていてください。このような寒空の日です、雪も降って参りましたし、お早めにお戻りくださいね」
「……ありがとうございます、お言葉に甘えます」
ご自分の立場を理解し、ここは素直に受け入れコートで暖を取るラズ様を眺めている内に自然と笑みが浮かんでいた。
ふと、ラズ様の頭に薄らつもり始める雪に気付き払おうと伸ばした自分の手がそこへ到達する前に突如、その声は響いた。
「───ラズ」
ピタッと止めた手をラズ様に気付かれる前に素早く引き上げる。そうこうしている内に呼ばれた声に振り返ったラズ様とこちらへやって来る声の主──クオーツ様の距離が縮まっていた。
「……げ、クオーツ」
「はぁ、もっと嬉しそうな顔で出迎えておくれ」
ザッザッとこちらまでやってきたクオーツ様はチラッと一瞬私へ目をやるもすぐさまラズ様の隣に歩み寄りその頬へ手を伸ばす。
私は触れることが叶わないそこへ番であるクオーツ様はこうも簡単に到達してしまう。そんな到底口にはできない暗い思いをぐっと呑み込み二人のやり取りを空気になって見守る。
「すっかり冷えているね。誰にも言わず飛び出してきたでしょ、マリンが大騒ぎだよ」
「……だって、雪だもん」
「ふふ、幾つになっても雪で喜べるのは無邪気でいい事だね。……それは?ラルドのかい?」
「あ、そう!わざわざ僕に貸してくださったの、ご自分も寒くなってしまうのに…お優しぃ~…」
「……」
肩にはおるオーバーサイズのコートをギュッと首元まで引き上げ温まる姿をじっと眺めるクオーツ様。その目が冷ややかであることをラズ様はお気付きにならない。
「……ラルド、ありがとう私からも礼を言う」
「いえ」
「ラズそれはラルドに返しなさい。私のマントの中にお入り」
「えぇ…どうせ来るなら僕のコート持ってきてくれればよかったじゃん」
人ひとり懐に覆えるマントをはためかせ誘うクオーツ様に嫌そうな表情を隠さないラズ様。文句を言いながらもコートがない今の私の格好を見ると肩からコートをはずし丁寧にこちらへ渡してくる。
「ラルド様、寒い中貸してくださってありがとうございました、ラルド様もお風邪にはお気をつけください」
「…お心遣い感謝致します」
ほんの僅かの間にコートへ移ったラズ様の体温を受け取った腕で感じる。
「さ、部屋へ戻って冷えてしまった体を温めよう」
「その前に雪だるま作ろ」
「……元気だねぇ」
「元気元気~ここまで来たならとことん付き合え。それではラルド様、失礼します。訓練頑張ってください!」
「はい、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げ挨拶を終えたラズ様の姿はクオーツ様のマントの中へと消えていく。最後まで残ったクオーツ様の視線に会釈を送り、それすらもこちらを見なくなると遠ざかる二人の姿が視界から見えなくなるまでその場で見送った。
雪ではしゃぐあの方を見守る役目も、
一緒に雪だるまを作る役目も、
寒いぃ~と鼻を真っ赤に染めながらくっついて来る体を懐で受け止める役目も、
ラルドである私にはやってこない。
二度とないその思い出だけが私の中で残り続ける。
どうかラズ様が幸せでありますように───
そう願いながら今日もその姿を遠くから見守っていた。
【雪の日の思い出】END
439
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる