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1【妊娠】

1-1 予兆

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 ※このお話は本編『欠陥Ωのシンデレラストーリー』の外伝にあたるお話になります。番になった後の主人公二人のお話です。ここだけでも楽しんで頂けるよう初めは説明調になってしまいますが、お付き合い頂けますと幸いです。
 

 
 *****
 
 
 
 予想外の発情期に、僕たちは晴れて番となった。

 そこに至るまでの数々の紆余曲折はいま思い返しても本当に色々あった。
 
 
 幼少期、両親を一気に亡くした交通事故の影響で、誰のフェロモンも感じることができなくなった欠陥オメガとして生きてきた僕を、一目見た瞬間『運命』と呼び、愛を伝え続けてくれた7つも歳下の御門みかど楓真ふうまくん。
 そのお父さんの御門みかど楓珠ふうじゅさんにも長年お世話になりながら、こんな自分でも誰かに愛され誰かを好きになれるんだ、と28歳にしてやっと人生の岐路にたった瞬間に発覚した過去のトラウマ。思春期を過ごした孤児院での性的虐待が起因となり、いままで感じることもなかったフェロモンが拒絶反応として襲い、常に吐き気が伴う生活。それは楓真くんのフェロモンも例外ではなく、僕を気遣う優しい楓真くんとの微妙な距離感は弱った僕をさらに弱らせた。そんな中、悲しいオメガの嫉妬に巻き込まれ誘発剤で強制的に発情状態にされアルファに襲われるという事件にあったりもしたが、常にそばで支え続けてくれた楓真くんは何度も僕を救ってくれた。
 
 
 こうして、事件のあと一週間意識を戻さなかった僕が目覚めて、次に部屋からでてきた時には番どうしになっていた僕たちを目にした楓珠さんと家政婦のトヨさんは、驚きながらも心から祝福してくれたあの温かな空間を今でもたまに思い出す。
 
 
 
 けれど、楓真くんとの関係性が大きく変わってからも僕の拒絶反応は続いていた。
 
 フェロモン自体に対する拒絶反応は、番関係を結んだ時点で楓真くん以外のフェロモンに反応しなくなり、番のフェロモンは拒絶の例外らしく、以前の込み上げる気持ち悪さは嘘みたいに消え去った。
 
 
 その代わり、楓真くんの精を受け入れる事は、まだダメだった。
 

 以前みたく受け入れたあと下から血を流すまではしなくなったとはいえ、何度行為を重ねても、僕の身体は防御に働き楓真くんの精を殺してしまう。
 陰性の結果を目にする度、沈む僕をそっとそばで慰めてくれる楓真くん。
 
『つかささんさえ居てくれればそれでいいです』
 
 その言葉に救われながらも、気持ちはやはり楓真くんとの家族が欲しいと願ってしまう。
 
 
 
 そんな優しい楓真くんとの日々は月日が経つのが早く、あっという間に3年が過ぎ去った。
 
 
 楓真くんは24歳、僕は31歳となり、今も変わらず楓珠さんの会社でそれぞれ次期後継者と、楓珠さん――社長の秘書として働いている。
 この3年間で変化があったことといえば、番ってすぐに二人で暮らしはじめ、朝も一緒に楓真くんの運転で出勤している事、そして社内の僕に対する扱いくらいだった。
 
 
 今朝も、スマートにスーツを着こなす楓真くんの隣を歩きながら会社の正面玄関を潜り、社員証を通して受付ロビーを通り抜ける。その間、以前までは好意的ではない視線をビシビシ受けていたこの気まずい時間が今では楓真くんと共に僕にまで挨拶が飛んでくる。
 
 おそらく楓真くん、そして楓珠さんまでも会社に何かしらの案内を出したのだろう。
 
 ただの社長秘書だった僕、たちばなつかさは、今では次期後継者の番としてその立ち位置を変えていた。
 

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