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1【妊娠】
1-7 妊娠生活(2)
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週明け、月曜の朝。
妊娠がわかったからといって急に普段の生活が変わるわけでもなく――多少楓真くんの過保護っぷりは上がったかもしれないが、それ以外はいつも通り楓真くんと共に会社へと出勤した。
共通フロアの13階にたどり着く。
「それじゃあつかささん、くれぐれも無理はせず、自分の身を第一に過ごしてください」
「わかったよ、もう何回目?楓珠さん待ってるから早く行きなさい」
「はぁ…俺が付きっきりで隣でサポートできればいいのに」
「次期後継者がそんな暇あるわけないでしょ。またすぐスケジュール伝達に行くから、じゃあね」
「つかささんがクール…寂しい…」
何度も渋る楓真くんの背中を無理やり押し、数分かけてやっとわかれることに成功した。
さらに奥に進んでいく楓真くんを見送ったあと、秘書室の扉を開けると、すでに僕以外の三人は出勤し各々週明け特有の気だるさを伴い自分のデスクで作業をしている所だった。
挨拶を交わしながら自分のデスクへ向かう僕に待ってましたと言わんばかりにそそくさ近寄ってくる花野井くん。なにか聞きたそうにぴとっとくっついて離れなかった。
「?花野井くん?おはよう」
「おはようございます先輩。あの~えと~…お身体…異常無かったですか」
「あ、」
事の発端の会議の日、その場に居合わせた花野井くんには特に心配をかけてしまった。
どうしようもない気持ち悪い現象――いま思えばあれがつわりだったのだと後になって気付いたのだが、それはあの会議の日以来特に起きず、次の日も普通に出勤し仕事する僕に花野井くんはなにかと気を使ってくれていた。念の為週末に病院へ行く事を言ってあったため、気になって仕方がなかったのだろう。
優しい後輩に心配をかけて申し訳ない気持ちと有難い気持ちで、きちんと報告をすべく荷物を下ろした。
「その事で報告がありまして…みなさん少しよろしいですか」
すぐ隣にいる花野井くんはもちろん、水嶋さんや瀧川くんもすぐに手を止め僕に注目してくれる。
「先輩が改まって何か言うの怖い……」
「とうとう仕事辞めて専業主婦するか?」
「有り得ますね…」
「えぇ~っ先輩辞めちゃうのは寂しい…」
「それかあれだな、楓真が楓珠に謀反を起こすからその協力を仰ごうとしている、とか」
「えぇ~っ僕はどっちも大好きなので選べない…」
「外野に徹します」
「あの、いいですか?」
おもしろがった水嶋さんの適当な発言に勝手に盛り上がっていく三人。いつもなら笑って見守っているが、話がどんどん突拍子もない方向へ向かっていたため早々に口を挟んだ。
「ああいう奴が一番怒らすと怖いぞ気をつけろよ花」
「ボスこそ気をつけてくださいよぉ僕巻き込まれるの嫌です~」
「二人とも、先輩キレますよ」
はい、すみません。と、歳も社歴も身長も離れた二人が揃って謝るコントみたいなやり取り。つられてクスっと笑いながら、その勢いで伝えるべき事を言ってしまう。
「週末に病院へ行ってきまして、そこで妊娠5週目と言われました」
「「「………」」」
「しばらくは変わらず仕事をしていくつもりですが色々と迷惑をかけてしまう部分もあるかと―――」
「えぇーーーーっ妊娠!?先輩とっ!?楓真くんの!?赤ちゃん!?んわぁーーーっめでたい!!めでたすぎます!!!」
「いや、さすがにびっくりして反応遅れたわ、おめでとう橘」
「俺も…素直にびっくりしてます…おめでとうございます先輩」
理解するのにタイムラグがあったのか、反応もなく静かだった三人が、突如僕の言葉を遮り花野井くんを筆頭に次々と贈ってくれる嬉しい言葉。
「仕事っ!なんでも言ってください!僕全力でサポートします絶対に無理しないで!え~男の子かなぁ女の子かなぁ、絶対先輩と楓真くんの子なんて美男美女間違いないですよねぇ」
「さすがにまだ性別は早いだろ、でもまた顔そっくりな御門ジュニアが増えるのか…」
盛り上がりながらも、僕に椅子へ座るよう気にかけてくれたり、室内の温度を聞いてくれたりと、この秘書室の優しさが本当に身に染みる。
家族だけではなく、職場まで恵まれている環境。
「元気な双子を産めるよう、精一杯頑張ります」
このさり気ない僕の言葉にもう一度、ええーーっと大きな叫び声が楓珠さん楓真くんのいる社長室の廊下まで響き渡ったというのは、後から楓真くんに聞いた話だった。
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