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1【妊娠】

1-6 妊娠生活

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 正午過ぎ、楓真くんの提案で楓珠さんに妊娠の事実を報告しに行こうと、病院から帰ったその足で御門邸へと出向いた。
 
 連絡では今から行くとしか告げなかったらしい楓真くん。丁度昼の準備をしていた家政婦のトヨさんが明るく出迎えてくれ、リビングへ通されるとソファで寛いでいた私服姿の楓珠さんがいらっしゃいと手を振って歓迎してくれた。
 壁掛けの大きな液晶テレビと面する形で置かれた真ん中が長いコの字型ソファの短辺へ楓真くんと並んで腰掛ける。
 その様子がどこか畏まって見えたのか、長辺の真ん中辺りに座る楓珠さんがそんな僕らを見て目をぱちぱちと瞬かせていた。
 
 
「どうしたの二人とも、そんな畏まって……え、離婚する、とか言わないよね……」
「そっんな、不吉なこと言わないでよ父さん!言葉にするのも禁止」
 
 
 シャーっと怒る楓真くんに、冗談冗談と笑う楓珠さん。これで少し場の雰囲気が和んだ気がした。
 
 
「すぐにお茶を入れてまいりますねぇ~」
「あ、トヨさんも一旦座って俺たちから報告があるんだ」
「まぁまぁ、なんでしょう」
「なんだろうねぇ、ドキドキしてしまう」
 
 
 僕たちとは反対側の短辺へ腰掛けるトヨさんを見届け、楓真くんと目を合わせ小さく頷き合う。
 
 
「最近のつかささんの体調の事で今日、病院に行ってきた」
 
 
 楓真くんの切り出しに、不穏な気配を感じたのか二人の表情に一瞬影がさす。それを払拭するべくすぐに次の言葉も続けた。

 
「つかささん、妊娠5週目って、言われました」
 
「つかさくん!!」
「まぁまぁまぁまぁ!!つかさちゃん!!」
 
「───大変長らくお待たせしました」
 
 
 盛大に喜びを顔に浮かべてくれる二人に照れが隠せずハニカミながらやっと言えたその言葉。
 本当に長く僕を見守ってくれていた楓珠さんとトヨさんに3年前にした楓真くんと番になった報告の次に、早くこの報告ができる日をずっと待っていた。
 
 
「つかさくん、本当におめでとう……」
「楓珠さん……」
 
 
 楓珠さんの温かい声と眼差しについ出会った頃の記憶が走馬灯のように蘇り自然と視界が潤んでしまう。そんな僕と同じくらい目に涙を浮かべたトヨさんがすぐ近くまで駆け寄ってくるとカーペットへ膝をつき僕の手をぎゅっと握ってくれる。
 
 
「ぼっちゃんとつかさちゃんの子、絶対トヨにも抱かせてくださいね」
「……っ、はい、ぜひ抱いてあげてください」
 
 
 涙ぐむ僕ら二人を優しく見守ってくれる御門親子。そちらでも、楓珠さんが楓真くんに優しく言葉がけをしていた。
 
 
 
 
「あ、それともう一つ報告があって、つかささんのお腹にいるの双子なんだ」
 
「!?私、一気に二人も孫ができちゃうの!?どうしよトヨさん…私、絶対甘々のおじいちゃんになるよ……」
「今こそその有り余ったお金を孫のため使うときでは無いですか?」
「そうだよね、そうだよねぇ」
 
 
 真剣に話す楓珠さんの真面目な表情が何かとてつもないものを購入しそうで恐ろしい。
 
 
「ふ、楓真くん、楓珠さん何を考えていらっしゃるんだろう…止めた方がいいんじゃ…」
「大丈夫大丈夫、うちに金余ってるのは本当の事だししばらくは存分に初孫に喜ぶおじいちゃんさせてあげましょ」
「でも……」
 
「楓真くん、つかさくん、ランドセルは絶対私に買わせてね!」
「いやいや父さんさすがに気が早い」
 
 
 御門親子のそんなやり取りでどっとひと笑いが起き、僕も一緒に笑いながらそっとお腹を撫でさする。こんな温かな人たちに囲まれた素敵な環境で無事この子達を産みたい、いや絶対に産む。そう一人で静かに誓っていると、ん?と目が合う楓真くん。なんでもない、と首を振るとにっこり微笑みを向けられる。
 
 
「つかささん、俺はもちろん父さんもトヨさんも全力でサポートしてくれるから、安心して」
「うん。些細な事でもすぐになんでも言うんだよ。仕事も無理しなくて大丈夫だから、そこら辺はおいおい話し合おう」
「トヨは妊婦さんの身体にいいものを沢山作りますね~」
 
 
 それぞれの角度から全力で支えてくれる人達。本当に心強い。
 
 
「……初めてで、不安な事ばかりですけど、それ以上にこの子達に会えるのが楽しみで、僕頑張るので……みなさん、お力添え、よろしくお願いします」
 
 
 ぺこりと頭を下げ、膝の上に置いていた自分の手が視界にうつる。そこに一本また一本と増えていく手たち。瞬きを繰り返し、顔を上げるとトヨさん、楓真くん、楓珠さん、三人の笑顔が温かな手と共に僕を包み込んでくれていた。
 
 
 ねぇ、双子たち――君たちは産まれる前から幸せ者だね。こんなにも君たちを待ち望んでくれている人達がいる。もちろん、僕も。
 だから安心して元気に産まれてきてね。早く会えるのを楽しみにしてるよ。
 
 
 
 
 
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