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1【妊娠】
1-15 ストレス(2)
しおりを挟む「つかさくんはトラウマによるストレスが誰よりも強くあらわれてしまうかもしれないね」
「トラウマ……」
すぐに駆けつけてくれた医師の処置のもと、症状は落ち着いたが、突然の腹痛の原因を大崎さんはトラウマ性のストレスと判断した。
ベッドの上で再び点滴を受けながら上半身を枕で支え、すぐ隣に椅子を持ってきて座る楓真くんと二人で大崎さんの話を聞く。
「ご両親の事故、養護施設での件、そしてさっきの楓真くんの事故。その当時の記憶がフラッシュバックしてショック状態に陥ってしまうみたいだね…特に番の死に関連することは誰にとっても恐怖でしかない」
大崎さんの話を聞きながら、楓真くんに手を握られその時の事を思い出さないよう自分に言い聞かせるのに必死だった。
大丈夫……楓真くんは隣にいる。大丈夫。
「さっき楓真くんにも説明したけど妊娠中のストレスは母子ともに悪影響だから、なるべく番のフェロモンで心を落ち着かせて穏やかに過ごす事をオススメするよ」
「……はい」
点滴が終わったら帰っていいからね、と言い残し去っていく大崎さんに頭を下げ、パタンと扉が閉じれば楓真くんと二人きりになる。
シーンと静まり返る病室内。
自然と俯いてしまう僕に近づくよう、立ち上がる楓真くんの気配を感じる。
「つかささん……」
「大丈夫、大丈夫だよ…楓真くんは元気だもん大丈夫」
「うん……そうですよ、俺は元気。絶対につかささんを置いてどこにも行かないから、安心して」
そっと抱きしめてくれる楓真くんの腰にぎゅっと縋り付く。
「僕…いつの間にこんな弱くなっちゃったのかな」
つい数年前までは、一生一人で生きていくものだと思っていたくらいなのに……今では楓真くんがいない人生なんて考えられない。
「俺は嬉しいですけどね、こうやってつかささんが甘えてくれるもん」
「……」
「あはっ、照れ隠しかわいい~」
抗議の気持ちを込め、ぎゅぅぅぅっと全力で楓真くんの腰を抱き締めるが子供がジャれてるくらいにしか受け止められない。
悔しく思いながらそのまましばらく楓真くんの腕に抱かれながら点滴が終わるのを待った。
点滴が終わる頃やってきた看護師に針を抜いてもらい、精算を済ませ、楓真くんの運転で予定よりだいぶ遅く帰ってきた我が家。
数時間前階段から落ち怪我をした楓真くんにはゆっくり休んで欲しいのに、息付く暇もなく夕飯の準備に取り掛かるという楓真くんを止めることができず、逆に僕はソファに座らされていた。
「すぐ夕飯用意するので休んでてください。寝てても大丈夫ですよ、完成したら起こします」
「でも楓真くんは怪我人なのに……」
「こんなの怪我のうちに入りません。はい、ブランケット包まってて」
楓真くんの匂いとフェロモンがたくさん染み込んだブランケットに包まれポンポンと頭を撫でられていく。
「ちょっと待っててくださいね」
ソファから見える位置のキッチンへ向かっていく後ろ姿を眺め、次第にジュージュー聞こえてくる音に耳を傾けているうちに気づけばうつらうつらしてしまっていた。
『つかささん――っ』
じわじわと広がる赤。
床に倒れる楓真くんはピクリとも動かない。
『ふ、うま……く……』
それは両親を目の前で亡くしたあの時と同じ――
「ぁっ、」
肩を揺すられ、ハッと目を覚ました時、心臓は変に早鐘を打ち、額には冷や汗が浮かぶ。
「つかささん?ご飯出来ましたよ」
「ふ…まくん……」
「ん?」
にこっと笑う楓真くんが現実。
倒れる楓真くんは幻。
大丈夫、大丈夫――短く乱れる息を押し殺し、必死に自分を落ち着かせる。
だけど、これが眠れない日々の幕開けだとは、この時の僕はまだ知らなかった。
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