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ぼんくら達は当然退場。
ジュリも退場。
この人達も古参の古狸達も軟禁されすぐに全ての罪を晒され文字通り処分されるだろう。

精霊の森に手を出した罪はそれだけ重い。
たった一度だが、その一度でもう終わりなのである。
ギャレットに至っては直接精霊を傷付けているので一思いには終わらないだろう。
こればかりは如何ともし難い。

私も後で城に呼ばれるだろう。
一旦報告をしたとはいえ、再び細かく調書を取らなければならないはずだ。

(さて、この後はどうしようかしら)

他にも婚約破棄するだろう面々はいるが、実際にこの場で大っぴらに婚約破棄を宣言されたのは私ただ一人。
おまけにあの逆断罪劇だ。
周りが気を遣うに違いない。
ライがいるから尚更だ。

きちんとしたお別れは既に事前に済ませてある。
そもそもが自由参加のパーティーだ。
抜けたところで咎める人など誰もいない。
お料理を堪能したかったけれど諦めるしかなさそうだ。

(彼女達にだけご挨拶して行こうかしら)

ぼんくら達の元がつくであろう婚約者達にだけは最後の最後に挨拶をしておきたい。
肩の荷が降りてやっと不良債権から解放されたのだ。
喜びを分かち合いたい。
彼女達もこちらに視線を向け、笑みを浮かべていたのだが……

(あら?どうしたのかしら?固まって……)

こちらも笑みを浮かべて彼女達の元へと寄ろうとした所で表情が固まったのに気付く。

「!!!」

そして次の瞬間、私の身体は長い腕に絡め取られ彼女達の視界から消えた。









私をあの場から攫ったのはもちろんライだ。
空間移動なんてとんでもない方法を使われたのには今更驚かない。
もう何度も体験しているからね。
やってきたのは精霊の森にあるライのねぐらのひとつ。
人間である私が寛ぎやすいようにと特別に作ってくれた素朴な家具が配置されている森の隠れ家は私もお気に入りの場所だ。

彼女達が固まっていたのはライが私を包み込むのを目の当たりにしたからだろう。
あの驚き方にも納得だ。

それはそうと、馴染みの大きなソファではなく、たまにしか使った事のないこれまた大きな大きなベッドに押し倒されているこの状況はどうしよう。

「ずっと我慢していたんだ。この俺がだぞ?こんなに俺を待たせるのはシャーロットくらいのものだ」
「……申し訳ありません」

拗ねたように言うライに苦笑い。
確かにこの世の全ての何よりも尊い存在のライが我慢する事などほとんどないだろう。

「もう良いんだろう?婚約は破棄されたんだからシャーロットは自由だ」
「それはそうですが……」

婚約は破棄されたし自由にもなった。
しかし……

「どうした?何が心配なんだ?まだ潰し忘れていた奴がいるのか?」
「え!?いえ、そうではなくて」

潰してこようか?ととても爽やかに言われてしまい焦る。
そうじゃない。
そうじゃないんだ。

「ならどうしたんだ?何故頷いてくれないんだ?」
「……」

森の浄化に成功して暫く経った頃からライは私を口説くようになった。

孤高の存在で万物の長であるはずの彼が脇目も振らずに私だけを見て私だけに甘く私だけに愛を囁く。
そんな事をされ続けて絆されない人などいるだろうか。
いるはずがない。
いたたまれない程特別扱いされ蝶よ花よとナイフとフォークよりも重たい物など持たせない勢いで甘やかされ、私は割と早い段階でライを好きになっていた。

そう、好きになってしまったのだ。

けれど仮にも婚約者がいたからずっとずっと受け入れられずにつれない態度を取ってしまっていた。
ライに乞われれば婚約者がいようがいまいが彼のものになるのは決まっているのだが、待っていてくれたのはただの私の我儘だ。
それに応えて待っていてくれたライには感謝しかない。

面倒な婚約は破棄されたのだから両手をあげてこの胸に飛び込んでしまえば良い。

(わかってる、それはわかってるけど……)

彼は本当に『私』を愛してくれているのだろうか。
私の味方であるのはわかっている。
わかっているけれど、ゲームの中の彼は『精霊樹の瘴気を祓ってくれた人間』に恋をしたのだ。
例え私が祓ったから、それをきっかけに愛してくれたとして果たしてそれは本当に私自身を見てくれているのだろうか。
瘴気を祓えるのなら、祓ってくれたのなら誰でも良かったのでは。
特別扱いも、瘴気を祓えればこそ。
もし仮に何かのトラブルがあり永遠に浄化を出来なくなってしまったら用済みになってしまうのではないか。
そうなると今のこの優しさも温もりも何もかもがなくなってしまうのではないか。
ジュリに唯一向けた、あの冷たい視線が今度は自分に向けられる日が来るのではないか。
そんな風に考えてしまい、ライにすぐに頷けずにいる。

それでなくとも相手はこの国の、この世界の至宝である精霊王様なのだ。
ただの人間である私が尻込みするのはどう考えても仕方がない事だと思う。

「シャーロット」

指の背でするりとこめかみから頬を撫でられる。
ライの視線は相変わらずまっすぐにこちらを見つめ、その奥には紛れもなく私への愛おしさが溢れている。

(あ……)

それを見たら、不思議となんだか今さっきまで悩んでいた事が一瞬でどうでも良くなってしまった。

(別に、良いのかも)

例えライの愛がこの一時のものでも。
ずっと永遠に続くものでなくても。
いつか自分よりも格段に優れた人が、人以外の何かが彼の前に現れ、彼がこちらを見なくなっても。

今、この瞬間、この時だけは間違いなくライは私を求めている。
それだけで良い。

だってもう何のしがらみもない。
婚約者もいない。
自由の身だ。
自分が心から好きだと思える相手が自分を望んでくれている。
最初から悩む必要も躊躇う必要もどこにもなかったのだ。

「ライ」

同じように私も手を伸ばし指先で彼の流れ落ちる絹糸のような髪を耳にかけそのまま頬に手を当てると、ライは仔猫のように擦り寄ってきた。

(可愛い)

存在の偉大さからは考えられない程可愛らしい仕草に胸を鷲掴みにされる。
不安がどうでも良くなってしまえば後はもう堰を切ったようにライへの想いが溢れてくる。

「ライ、好き」
「!」
「好きよ、大好き」

溢れ出るままに伝えると、愛おしげに見つめていた瞳が更に細まる。
敬語も礼儀もすっとばした言葉遣いになってしまったがライは気にしていない様子。

とはいえ面と向かっての告白は照れるものがある。
告げた直後に今更ながら頬が熱くなり、赤くなっているだろう顔を隠す為に伏せようとしたが大きな手がそれを許さず。

「俺も好きだ、愛してる。シャーロットだけだ、俺がこんなに求めるのも、焦がれるのも」
「私だけ?」
「ああ、シャーロットだけだ」
「……っ」

視線がどんどん蕩けていく。
きっと私の視線も蕩けているだろう。

「嬉しい」

頬に当てられた手に自分のそれを重ね、やはり同じように擦り寄る。
さっきからライのやる事なす事を真似してしまっている。

ライは私の行動にやはり嬉しそうで、楽しそうにちゅっちゅっと顔中にキスをされる。
絶妙に唇だけを避けて降ってくるキスの雨がくすぐったいけれど心地良くて、幸せで、嬉しくて、自然と表情が綻んでしまう。

「やっとだ、やっと俺のモノに出来る」

そして吸い込まれそうな程に澄んだ瞳がこちらを見つめながらそう呟き、長い腕に腰を抱かれ、弧を描く唇がゆっくりと近付いてきた。








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