身に覚えがないのに断罪されるつもりはありません

おこめ

文字の大きさ
10 / 11

10



ぼんくら達は当然退場。
ジュリも退場。
この人達も古参の古狸達も軟禁されすぐに全ての罪を晒され文字通り処分されるだろう。

精霊の森に手を出した罪はそれだけ重い。
たった一度だが、その一度でもう終わりなのである。
ギャレットに至っては直接精霊を傷付けているので一思いには終わらないだろう。
こればかりは如何ともし難い。

私も後で城に呼ばれるだろう。
一旦報告をしたとはいえ、再び細かく調書を取らなければならないはずだ。

(さて、この後はどうしようかしら)

他にも婚約破棄するだろう面々はいるが、実際にこの場で大っぴらに婚約破棄を宣言されたのは私ただ一人。
おまけにあの逆断罪劇だ。
周りが気を遣うに違いない。
ライがいるから尚更だ。

きちんとしたお別れは既に事前に済ませてある。
そもそもが自由参加のパーティーだ。
抜けたところで咎める人など誰もいない。
お料理を堪能したかったけれど諦めるしかなさそうだ。

(彼女達にだけご挨拶して行こうかしら)

ぼんくら達の元がつくであろう婚約者達にだけは最後の最後に挨拶をしておきたい。
肩の荷が降りてやっと不良債権から解放されたのだ。
喜びを分かち合いたい。
彼女達もこちらに視線を向け、笑みを浮かべていたのだが……

(あら?どうしたのかしら?固まって……)

こちらも笑みを浮かべて彼女達の元へと寄ろうとした所で表情が固まったのに気付く。

「!!!」

そして次の瞬間、私の身体は長い腕に絡め取られ彼女達の視界から消えた。









私をあの場から攫ったのはもちろんライだ。
空間移動なんてとんでもない方法を使われたのには今更驚かない。
もう何度も体験しているからね。
やってきたのは精霊の森にあるライのねぐらのひとつ。
人間である私が寛ぎやすいようにと特別に作ってくれた素朴な家具が配置されている森の隠れ家は私もお気に入りの場所だ。

彼女達が固まっていたのはライが私を包み込むのを目の当たりにしたからだろう。
あの驚き方にも納得だ。

それはそうと、馴染みの大きなソファではなく、たまにしか使った事のないこれまた大きな大きなベッドに押し倒されているこの状況はどうしよう。

「ずっと我慢していたんだ。この俺がだぞ?こんなに俺を待たせるのはシャーロットくらいのものだ」
「……申し訳ありません」

拗ねたように言うライに苦笑い。
確かにこの世の全ての何よりも尊い存在のライが我慢する事などほとんどないだろう。

「もう良いんだろう?婚約は破棄されたんだからシャーロットは自由だ」
「それはそうですが……」

婚約は破棄されたし自由にもなった。
しかし……

「どうした?何が心配なんだ?まだ潰し忘れていた奴がいるのか?」
「え!?いえ、そうではなくて」

潰してこようか?ととても爽やかに言われてしまい焦る。
そうじゃない。
そうじゃないんだ。

「ならどうしたんだ?何故頷いてくれないんだ?」
「……」

森の浄化に成功して暫く経った頃からライは私を口説くようになった。

孤高の存在で万物の長であるはずの彼が脇目も振らずに私だけを見て私だけに甘く私だけに愛を囁く。
そんな事をされ続けて絆されない人などいるだろうか。
いるはずがない。
いたたまれない程特別扱いされ蝶よ花よとナイフとフォークよりも重たい物など持たせない勢いで甘やかされ、私は割と早い段階でライを好きになっていた。

そう、好きになってしまったのだ。

けれど仮にも婚約者がいたからずっとずっと受け入れられずにつれない態度を取ってしまっていた。
ライに乞われれば婚約者がいようがいまいが彼のものになるのは決まっているのだが、待っていてくれたのはただの私の我儘だ。
それに応えて待っていてくれたライには感謝しかない。

面倒な婚約は破棄されたのだから両手をあげてこの胸に飛び込んでしまえば良い。

(わかってる、それはわかってるけど……)

彼は本当に『私』を愛してくれているのだろうか。
私の味方であるのはわかっている。
わかっているけれど、ゲームの中の彼は『精霊樹の瘴気を祓ってくれた人間』に恋をしたのだ。
例え私が祓ったから、それをきっかけに愛してくれたとして果たしてそれは本当に私自身を見てくれているのだろうか。
瘴気を祓えるのなら、祓ってくれたのなら誰でも良かったのでは。
特別扱いも、瘴気を祓えればこそ。
もし仮に何かのトラブルがあり永遠に浄化を出来なくなってしまったら用済みになってしまうのではないか。
そうなると今のこの優しさも温もりも何もかもがなくなってしまうのではないか。
ジュリに唯一向けた、あの冷たい視線が今度は自分に向けられる日が来るのではないか。
そんな風に考えてしまい、ライにすぐに頷けずにいる。

それでなくとも相手はこの国の、この世界の至宝である精霊王様なのだ。
ただの人間である私が尻込みするのはどう考えても仕方がない事だと思う。

「シャーロット」

指の背でするりとこめかみから頬を撫でられる。
ライの視線は相変わらずまっすぐにこちらを見つめ、その奥には紛れもなく私への愛おしさが溢れている。

(あ……)

それを見たら、不思議となんだか今さっきまで悩んでいた事が一瞬でどうでも良くなってしまった。

(別に、良いのかも)

例えライの愛がこの一時のものでも。
ずっと永遠に続くものでなくても。
いつか自分よりも格段に優れた人が、人以外の何かが彼の前に現れ、彼がこちらを見なくなっても。

今、この瞬間、この時だけは間違いなくライは私を求めている。
それだけで良い。

だってもう何のしがらみもない。
婚約者もいない。
自由の身だ。
自分が心から好きだと思える相手が自分を望んでくれている。
最初から悩む必要も躊躇う必要もどこにもなかったのだ。

「ライ」

同じように私も手を伸ばし指先で彼の流れ落ちる絹糸のような髪を耳にかけそのまま頬に手を当てると、ライは仔猫のように擦り寄ってきた。

(可愛い)

存在の偉大さからは考えられない程可愛らしい仕草に胸を鷲掴みにされる。
不安がどうでも良くなってしまえば後はもう堰を切ったようにライへの想いが溢れてくる。

「ライ、好き」
「!」
「好きよ、大好き」

溢れ出るままに伝えると、愛おしげに見つめていた瞳が更に細まる。
敬語も礼儀もすっとばした言葉遣いになってしまったがライは気にしていない様子。

とはいえ面と向かっての告白は照れるものがある。
告げた直後に今更ながら頬が熱くなり、赤くなっているだろう顔を隠す為に伏せようとしたが大きな手がそれを許さず。

「俺も好きだ、愛してる。シャーロットだけだ、俺がこんなに求めるのも、焦がれるのも」
「私だけ?」
「ああ、シャーロットだけだ」
「……っ」

視線がどんどん蕩けていく。
きっと私の視線も蕩けているだろう。

「嬉しい」

頬に当てられた手に自分のそれを重ね、やはり同じように擦り寄る。
さっきからライのやる事なす事を真似してしまっている。

ライは私の行動にやはり嬉しそうで、楽しそうにちゅっちゅっと顔中にキスをされる。
絶妙に唇だけを避けて降ってくるキスの雨がくすぐったいけれど心地良くて、幸せで、嬉しくて、自然と表情が綻んでしまう。

「やっとだ、やっと俺のモノに出来る」

そして吸い込まれそうな程に澄んだ瞳がこちらを見つめながらそう呟き、長い腕に腰を抱かれ、弧を描く唇がゆっくりと近付いてきた。








感想 6

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された聖女様たちは、それぞれ自由と幸せを掴む

青の雀
ファンタジー
捨て子だったキャサリンは、孤児院に育てられたが、5歳の頃洗礼を受けた際に聖女認定されてしまう。 12歳の時、公爵家に養女に出され、王太子殿下の婚約者に治まるが、平民で孤児であったため毛嫌いされ、王太子は禁忌の聖女召喚を行ってしまう。 邪魔になったキャサリンは、偽聖女の汚名を着せられ、処刑される寸前、転移魔法と浮遊魔法を使い、逃げ出してしまう。 、

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

【完結】金で買われた婚約者と壊れた魔力の器

miniko
恋愛
子爵家の令嬢であるメリッサは、公爵家嫡男のサミュエルと婚約している。 2人はお互いに一目惚れし、その仲を公爵家が認めて婚約が成立。 本当にあったシンデレラストーリーと噂されていた。 ところが、結婚を目前に控えたある日、サミュエルが隣国の聖女と恋に落ち、メリッサは捨てられてしまう。 社交界で嘲笑の対象となるメリッサだが、実はこの婚約には裏があって・・・ ※全体的に設定に緩い部分が有りますが「仕方ないな」と広い心で許して頂けると有り難いです。 ※恋が動き始めるまで、少々時間がかかります。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。

悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです

朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。 この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。 そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。 せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。 どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。 悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。 ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。 なろうにも同時投稿

虐げられた聖女が魔力を引き揚げて隣国へ渡った結果、祖国が完全に詰んだ件について~冷徹皇帝陛下は私を甘やかすのに忙しいそうです~

日々埋没。
恋愛
「お前は無能な欠陥品」と婚約破棄された聖女エルゼ。  彼女が国中の魔力を手繰り寄せて出国した瞬間、祖国の繁栄は終わった。  一方、隣国の皇帝に保護されたエルゼは、至れり尽くせりの溺愛生活の中で真の力を開花させていく。

まず、後宮に入れませんっ! ~悪役令嬢として他の国に嫁がされましたが、何故か荷物から勇者の剣が出てきたので、魔王を倒しに行くことになりました

菱沼あゆ
ファンタジー
 妹の婚約者を狙う悪女だと罵られ、国を追い出された王女フェリシア。  残忍で好色だと評判のトレラント王のもとに嫁ぐことになるが。  何故か、輿入れの荷物の中には、勇者の剣が入っていた。  後宮にも入れず、魔王を倒しに行くことになったフェリシアは――。 (小説家になろうでも掲載しています)

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気だと疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う幸せな未来を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

【完結】お前が悪役令嬢だと王子が叫ぶ

咲楽えび@改名しました(旧 佐倉えび)
恋愛
ガリブルラ王立学園の卒業式。 男爵令嬢のリアは突然、第二王子のオーブリーに断罪されてしまう。 「貴様への嫌がらせなど存在しない。全ては自作自演。自ら本を破り、池に落ち、階段を転がった。さながら喜劇役者のよう。残飯をかぶる様は見事であったが、それも今日まで」 リアを助けてくれた優しいオーブリーの姿はそこにはなく、身に覚えのない罪をリアに着せていく。 理解できないまま国外追放を言い渡され、倒れそうになっていたリアに手を差し伸べたのは――? *小説家になろう様にも掲載します。