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本編
第80話 マヨイは抱きつかれる。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
テコの南門に着くとパーティを募集するプレイヤーが大勢いた。その多くがイベントに挑戦するためのパーティを募集しているようだけど「探索が使える人いませんか!」とか「鑑定スキル持ってる人!」という声ばかりだ。
「タンクやヒーラーの募集じゃないんだ?」
「適当な難易度に行って戦闘でスコアを稼ぐより、高い難易度に行って調査でスコアを稼ごうって魂胆だと思うわよ」
「1週間もあるんだからレベリングすれば上の難易度に挑めてスコアも稼げるとは考えないのかな」
「テイムが弱体化したからという可能性もあるわね。当てにしていた戦力が使えなくなったパーティもあるんじゃないかしら」
テイムの弱体化というのは明け方のメンテナンス前には告知されてなかったものだ。これまでテイムモンスターは1人1匹までならパーティ枠を圧迫しなかった。しかし、今回の修正でパーティ枠を圧迫するようになったらしい。
「そういえばテイム流行ってたのにアカトキもクレアちゃんもテイムは覚えなかったんだね」
「お姉ちゃんが修正されるだろうから止めなさいって言ってたからね」
「私はお兄さんをモフモフするから大丈夫です」
そう言ってクレアちゃんは僕の頭を触るのだけど、今は狂狼化を使ってないのでケモミミは生えていない。というか、これってハラスメントなんじゃないの!?
「クレアちゃん、ストップ、ストップ!」
「お兄さんの髪の毛、すっごく柔らかいので無理です」
「へぇ……あ、ほんとだ。めっちゃフサフサしてる!」
「アカトキもやめろって!」
「2人だけズルいわよ」
暁に藍香まで加わって僕を弄り始めた。
もうログアウトしてやろうかとすら思い始めた頃、こちらにプレイヤーの一団が歩いてきた。先頭にいる男性は明らかに僕らを睨んでる。僕に心当たりはないし、藍香も首を横に振っている。
「(あれ、私たちのクラスメイトだよ)」
「(あー、それでか)」
クレアちゃんが僕にしがみ付いて髪に触れているのは彼らから顔を隠すためのようだ。見つかってしまった以上は意味ないことだけど、頼られているようで少し嬉しい。
「ったく、こんなところにいた。ほら、暁しかタンクいないんだから手伝ってくれよ。というか朱莉もいるじゃん。これで6人揃ったし、これで峯村誘わずに済むわ」
「(うっわぁ……)」
『真宵、録画してるから穏便にね』
『了解』
近づいてきた暁たちのクラスメイトは信じられないことに現実での名前で暁たちを呼んだ。しかし、彼らが僕らを見て勝ち誇ったような笑みを浮かべたことで何となく彼らの魂胆も透けて見える。
ようするに「俺はそいつらのリアルを知ってるんだぞ」という幼稚なアピールだ。もしかしたら「言うことを聞かなければ現実の情報を掲示板に晒す」という意味合いもあるのかもしれない。
僕からすれば「だから?」って話だけどね。
「この人たちは?」
「俺たちは同じ中学のクラスメイトだよ。そいつらは俺たちとパーティを組むって約束してたんだ」
「あぁ……君たちには聞いてないよ。でもそうか、現実での知り合いか。でも僕らの大切なギルドメンバーを常識も知らない卑劣漢と組ませるのは外聞が悪いね」
「なっ」
「そもそも近づいてきて"手伝ってよ"とか言ってた時点で君の"約束してた"ってのは嘘だよね」
「揚げ足取ってんじゃねぇ!クラスメイトなんだから、そいつらは俺らとパーティ組めばいいんだよ!」
あー、あー、顔を真っ赤にしちゃって可哀想に。
この表情を上手くVRで表現する技術についてはもう何も言うまい。彼のパーティメンバーも暁やクレアちゃんのクラスメイトだと思うが、さすがに分が悪いと察したのか先ほどから何も言わない。
「うちのギルドは(ギルドマスターが)ギルドメンバー以外とパーティと組む時は予め報告するようにしてるんだよね。で、僕らは以前からイベント期間中は固定パーティを組むって約束をしているんだ。この2人の性格からしてブッキングするようなヘマはしないから、君の発言が嘘だってことは揚げ足を取るまでもないんだけど?」
「はぁ!?たかがゲームで知り合っただけの関係だろ?俺らの方がそいつらのこと知ってんだよ」
「トリス、この人は……」
味方だと思っていたパーティメンバーからもドン引きされる彼のプレイヤー名はトリスという。位階は19で聖騎士と狩人の素質を持っている。装備は革鎧に長剣が2本、もしかして二刀流なのだろうか。
「家族より詳しいとか君、もしかしてストーカーなの?」
「は?」
「いや、クレアがクラスメイトからストーカー被害を受けてるのは知ってるんだよ。もしかして君がそうなの?だとすれば通報は運営じゃなくて警察にしなきゃいけなくなるね」
ストーカーが彼ではないことは知っているが、先ほどの発言の内容を聞いた第3者には彼がストーカーに見えることだろう。
「ち、違う!俺はストーカ……「先輩!」」
「ちょっ、え、誰?」
トリスの後ろにいた女性プレイヤーがトリスを押し退けて僕に抱きついてきた。そのプレイヤーの名前は織姫、位階は22、素質は格闘家と狩人、黒髪のポニーテールが特徴的で何処かで見た覚えのある顔立ちをしている。
それよりも押し退けられたトリスが地面に顔から突っ込んだけど大丈夫かな?街中だからダメージはないはずだけど、痛覚設定をオンにしてれば相当痛いだろう。
「天瀬川織姫です。や、やっぱり私のことなんて覚えてませんか?」
「織姫ストップ、落ち着いて!」
「嫌!」
さらっと本名を名乗っているけれど、そのおかげで思い出せた。
去年の今頃、僕に告白してきた暁のクラスメイトだったと思う。
僕に抱きついて離れようとしない織姫、織姫を僕から引き剥がそうとする暁とクレアちゃん、倒れ伏したトリス、唖然とするトリスと織姫のパーティメンバー。そして頼りの藍香は目のハイライトを消して薄寒い笑顔を浮かべて微笑んでいる。
状況は混沌としている。誰でもいいから何とかしてくれ。
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
去年のポッキーの日の番外編で登場した天瀬川織姫をようやく本編に登場させることができました。普段はクールビューティー、真宵が絡むと暴走気味なキャラクター(設定)です。
やっとフラグを回収できました。
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自筆です。
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