6 / 228
番外編
ホワイトデー 真崎宵はクッキーになった。
しおりを挟む本話にはBLならび性交渉表現が含まれています。
苦手な方は読み飛ばしてください。
────────────────
⚫︎真崎宵(中学2年生)
今日は3月14日、俗に言うホワイトデーだ。
クラスの男子の様子はというと、意中の女子にチョコを渡そうと張り切っている者、義理チョコでもチョコを貰った以上はお返ししようという義理堅い者、そんなリア充イベントとか関係ないと見栄を張る者など様々だ。
ちなみに今日の僕は義理チョコのお返しとクラスメイトへの友チョコ配布マシーンになっている。モルモットのおかげで僕のお菓子作りの腕もあがったので割と好評だ。
「先月はありがとう。これお返しね」
「うぅわぁ……なにこれ、手作り!?」
「うん」
「ありがとう!昼休に食べるね」
僕らの通う深森中は比較的校則が緩く、授業の妨げにならない限りは特に干渉されない傾向にある。だいたいクラスに1人か2人は授業中にチョコを食べて怒られてるけど、それは怒られる奴が悪い。
「真崎!友チョコやるからクッキーくれ」
「なにそれ、まぁいいけど」
「っしゃぁ!」
僕の用意した友チョコ(チョコチップ入りクッキー)はクラスメイトにはかなり好評だ。藍香や暁のために試行錯誤していたら少し作りすぎてしまったので今年は去年のように「俺は友達じゃないのか!」とか言い出す奴もいない。
「真宵はいるかしら」
「真崎ー!嫁さんが来たぞー」
「はいはーい」
3時間目が終わった後の休み時間、今年は別のクラスになってしまった藍香が教室に訪ねてきた。ちなみに藍香が嫁さんと呼ばれている理由は分からないけれど、気がついたら『夫婦別姓なだけで結婚している』みたいな噂が流れていた。ちょうど僕が噂の存在を知った頃、藍香が先輩から立て続けに告白され困っていたので今に至るまで噂に関しては否定も肯定もせず放置している。そのせいかクラスメイトの中では完全に夫婦扱いだ。
「どうしたの?」
「……クッキー、配ってるって本当?」
「ちょっと作りすぎちゃったんだよ」
「うちクラスに真宵の手作りクッキー貰ったって子がいたのよね」
「あー、加藤さん?バレンタインにチョコくれたしお返しにあげたんだよね」
「(チッ、彼氏持ちの癖に真宵に粉掛けるとか……彼氏煽って破局させてやろうかしら)」
藍香さーん、心の声が漏れてますよー?
そういえば藍香はバレンタインやホワイトデーの義理チョコや友チョコという存在が嫌いらしい。特に付き合っている人がそうでない相手にチョコをあげるのは不義だと前に言っていた。
実際、身内以外からは友チョコも義理チョコも受け取らないと以前から明言している。このことで藍香のことを悪く言うのは当日になって受取拒否された男子の一部と彼らに片想いしてる女子くらいだ。
「そうだ。藍香、今日は生徒会もないし一緒に帰らない?」
「いいわよ」
「それじゃ放課後、昇降口で待ってるから」
「分かったわ。あ、そろそろ授業始まるわね。また」
「またね」
藍香のクラスは次の時間たしか体育だったはずだ。
確かにそろそろ移動しないと間に合わないだろう。
「ったぁ~真崎、お前よく夏間と普通に話せるよな」
「普通じゃない?」
「なワケあるかっ!知ってるか?バレンタインに夏間に告った後藤先輩、寺に入るってよ」
「はい?……それマジ?」
「マジ。進学諦めるとかで親や学校と揉めてるってさ」
後藤先輩というのが誰かは知らないけどご愁傷様としか言えない。バスケ部の人だった気もするけど顔も思い出せないし、そんな人が寺に入ろうが僕には関係ない。どうせ藍香が何食わぬ顔して痛烈な言葉を浴びせて心を折ったのだろう。南無三。
「さすがに高校までは進学した方がいいよね。中卒で働くのは僕には無理」
「爺ちゃんたちの世代は高卒で働いたら負け組とか言われてたらしいけどな」
「何それ怖っ」
少子高齢化が進んだ影響なのか僕らの世代より少し上の世代からは高卒での就職を推奨している気風がある。目的もなく大学に行くくらいなら高卒で社会的に自立しろってことなんだろう。
「あ、そうだ。俺にもクッキーくれ。須美が旨いって言ってたんだ」
「はいはい」
「サンキュ、今度何かおごるわ」
「期待しないで待ってるよ」
ちなみに彼、六堂正樹の言う須美というは彼の彼女で、藍香のクラスメイトである加藤須美のことだ。春休み中に加藤須美が浮気したとかで破局することになる。
たぶん藍香の差金だろうと問い詰めたところ、どうやら以前から浮気はしていたらしく「遅かれ早かれ別れてたわよ」とのこと。
…………………………………
……………………………
………………………
「初めて見た時から君が好きだ!俺と結婚を前提に付き合ってくれ!」
「「「「「!?」」」」」
「はい?」
僕は今、一言では言い表せない複雑な心境にある。
放課後、昇降口で藍香を待っていると先輩──名前は覚えないけど元テニス部の部長さんだったはず──から声を掛けられ、壁ドンされた上に告られた。
たぶん、この先輩は僕を女だと誤認している。初対面だと割といるので慣れてはいるけれど、さすがに告白までされるのは初めてだ。まずは誤解から解こう。
「せ、先輩。僕は男です」
「そうか。だが俺は君が男だって構わない」
同性での恋愛とかあるのは知ってるけど、僕が男だと知っても逡巡することなく言い切る人は久しぶりだ。藍香に女装させられて貞操の危機を幾度となく乗り越えた僕の対応力を知るがいい!
「それに僕には好きな人がいるんです」
「なら俺の方が好きだって言わせて見せる!」
そこは諦めてくれないかな?
無駄にイケメンな先輩の顔が僕の顔に近づいてくる。
放課後の昇降口という一目も多い場所でキスするつもり!?
あんまり好きじゃないけれど、こうなったら実力行使するしかないだろう。
「ごめんなさい」
そう言って僕は先輩の股間を膝で蹴り上げる。
あまり想像したくない激痛によって踞くまろうとする先輩の脇腹を本気で殴った。脇腹にめり込んだ拳からメキメキと骨が軋む気持ち悪い感触が伝わってくる。感触的には折れてはないはずだ。
折れたら響くような音が伝わってく
──ゴキッ
「あ゛あ゛ぁぁぁああ゛」
「あ、折れた」
床に倒れた先輩が股間と脇腹を抑えながら踞ってしまったので腹を蹴り上げて仰向けにしてから隙だらけの鳩尾を踏みつける。既に抵抗できるような様子ではないけれど、現実にはダウン中はダメージを受けないなんて都合のいい仕様はないんだ。
「って、なに顔を赤くしてんだよ。この変態っ」
涎なのか鼻水なのか、それとも涙なのか判別できないくらいぐちゃぐちゃになった先輩を見下しながら鳩尾を爪先で躙る。足を掴んで爪を立てようとしてきたので、僕は一度足を持ち上げてなら手のひらごと踏み付けることにした。
僕の体重は50kgもないのでそこまで痛くはないだろう。
「ぐあ゛ぁあ!!」
抵抗らしい抵抗をしなくなった先輩を見た時、客観的にどちらが加害者という疑問が頭をよぎった。どう見ても僕が加害者だろう。
このままだと不都合なので誤魔化そうと思う。そして真っ先にやって来るのはおそらく生活指導の滝沢佳子先生だ。言動は荒っぽいが生徒に真摯に向き合ってくれるし、藍香ほとではないけど美人なので、校内には滝沢先生のガチ恋勢を自称する生徒(と先生)がいるくらい人望のある先生だ。
ただ残念なことに重度のショタコン(藍香調べ)らしいので、僕が涙腺を緩めて「襲われて暴れました」という体を作っておけば多少は甘く見てもらえるだろう。
「おい、何があった!」
「ぐずっ、ごわがっだぁぁぁぁぁ……ぐふっ」
不本意ながら滝沢先生に泣きつ……こうとしたところを藍香に横から体当たり……というか抱きしめられた。どうやら藍香に密告した伝書鳩がいたらしい。
「宵!宵!ごめんね、ごめんねっ」
「んー!んー!」
鼻と口を胸で押さえつけられて息が出来ないなんてアニメみたいなことはない。確かに息苦しさはあるけれど、胸の谷間の僅かな隙間のお陰でどうにか窒息はせずに済むはずだ。
それと藍香が僕に謝っているのは昇降口に来るのが遅くなったからだろうな。そんなの結果論でしかないんだから謝る必要なんてないのにね。
「おねショタてぇてぇ……」
おいショタコン、こっち見て悶えてんな。
この後、僕と先輩の両親が学校に呼び出され滝沢先生や担任の御手洗先生ら同席の元で3時間ほどOHANASIがあったようだ。
もちろん僕が先輩の肋骨を折ったことは問題になったが、先輩が僕にキスしようと迫っていたという目撃証言が複数あったこと、先輩が自分の非を認めていた上「抵抗されなければ犯してた」などと発言をしたせいで結果的に僕の行為は正当防衛として扱われることになった。
ただ先輩のご両親は納得せず揉めに揉めたようだ。最終的に僕が先輩の肋骨の治療費と通院に必要な交通費を支払い、先輩のご両親が僕に150万円の慰謝料を支払うことで決着した。
「(でも少しやりすぎだったよね……先輩、卒業式来るかな?)」
学校という狭いコミュニティで醜聞が広まる速度は尋常じゃないし、これを収めるのには年単位になる。特に強姦未遂なんて外聞が悪すぎるし、起こった場所が人目の多い放課後の昇降口だ。少なくとも今の1年生が卒業するまでは毎年のように噂されるだろう。
「すぅ…………すぅ……」
それはそうと僕は現在、被害者ということで隔離され保健室のベットの上で藍香の抱き枕にされている。おかげで今は隣で寝ている藍香を襲わないよう理性を振り絞るので精一杯だ。
様子を見に来てくれた滝沢先生は「おねショタてぇてぇ」という言葉を残して即座に出て行ってしまったし、保健室の先生は先輩を病院に連れて行ったため不在。
無理に動くと藍香の柔らかな身体を妙に意識してしまい理性が削られる。じっとしてても藍香の寝息で理性が削られていく。誰でもいいから助けて欲しい。
「……ふぁぁ」
結局、僕は目を瞑って耐えている間に寝てしまった。
なので僕が藍香に食べられたなんて事実はありません。
そういうことにしてください。
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
バレンタイン回で予告していた(?)告白回です。
なお、この4ヶ月後に新入生からも似たような告白をされる模様。
宵たちが夫婦扱いされているのは2人の仲の良さを見た誰かが「お前ら付き合ってるの?」と宵に聞いた際に「藍香は特別だけど彼女ではないよ」と否定したことが原因。藍香は噂や恋人関係についてはニッコリ笑うだけで否定も肯定もにしていません。
この説明、本話に上手く挟みたかった……
お気に入り登録人数1000人突破ありがとうございます。
(2021/3/14)
10
あなたにおすすめの小説
癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。
branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位>
<カクヨム週間総合ランキング最高3位>
<小説家になろうVRゲーム日間・週間1位>
現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。
目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。
モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。
ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。
テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。
そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が――
「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!?
癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中!
本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ!
▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。
▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕!
カクヨムで先行配信してます!
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。
チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!?
“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。
───────
自筆です。
アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる