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本編
第109話 マヨイは八つ当たりされる。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
昼飯を済ませた僕が再びログインして組合に向かうと不思議なことに僕を見たプレイヤーの多くが何やら騒めき始めた。一昨日はギルドの結成挨拶ということで生配信したわけだし、もしかしたら僕のことを見知ってくれているプレイヤーなのかもしれない。
「ふぅ……」
ただ承認欲求が満たされるのは悪い気分ではないだけに自意識過剰にならないよう気をつけないといけない。他人に認められたところで満足してたら上手くなれないと父さんが言っていた。父さんは身近に圧倒的強者がいたからか「俺は増長しようがなかったけどな!」なんて笑っていたけれど、世界一になっても全く増長しないで更に上を目指せるというのは1つの才能だと思う。
「おい、お前」
「なんですか?」
気を取り直して受付へ向かおうとした僕の行手を阻んだのはスキンヘッドと頰の十字傷が特徴的な男性プレイヤーだった。十字傷はアバターを作成する際にオプションで付けれるので実際に斬られたとは限らない。
プレイヤー名はマルコ。位階や素質は非公開だけど背中に大剣を背負っているので近接系のアタッカーだろう。
「迷い家のマヨイだな?」
「そうですけど」
「なんでイベントに参加しねぇんだ」
「してますよ?」
それどころかパーティランキングで現在1位独走中だ。
彼が何を言いたいのか理解できないし、あまりにも不躾な彼の態度に僕の機嫌が急降下していくのを感じる。
「そっちじゃねぇ。ギルドランキングの方だ」
「それを初対面で挨拶どころか名乗りもしない君に教える必要ある?」
「はぁ!?お前は俺の質問に素直に答えりゃいいんだよ!」
僕らがギルドランキングに参加していないから何だと言うんだ。いつ挑戦するかなんて僕らの自由なのだし、彼らにとやかく言われる筋合いはない。
これ以上の問答は時間の無駄なので目の前で激昂する彼の横を通って受付に向かおうとすると更に別のプレイヤーから声を掛けられた。柔やかな笑みを浮かべる優男風の男プレイヤーだ。
「こんにちは、僕は朱桜會に所属しているキツネといいます」
「どうも。マヨイと言います」
このキツネというプレイヤーを何処か信用出来ないと感じた僕はマナー違反は承知の上で彼に高位鑑定を使用することにした。この高位鑑定という技能、相手が非公開にしているプロフィールを詳らかにできるのだ。もちろん、ステータスや技能まで覗けるわけじゃないが素質や覚醒、位階は見ることが出来る。
名前:クズノハ
素質:盗賊/神官
覚醒:殺人鬼
種族:狐人[獣人/ベース]
性別:女
位階:37
簡易鑑定ではクズノハと表示された名前がクズハに変化した。しかも名前が赤いことから間違いなく犯罪者プレイヤーだ。そんなプレイヤーが平然と組合に出入りしているということは、僕が知らないだけでプレイヤー名や性別などを偽装する技能があるようだ。
クズノハというプレイヤー名で狐人ということは元ネタは信太妻伝説に登場する白狐の葛の葉かな。クズノハは金髪だけど、そこまで拘ってはないんだろう。
「それでマルコが声を荒げていたけど何があったんだ?」
「……こいつが俺の質問を無視しやがっただけだ」
「挨拶どころか自己紹介もなく不躾な質問を浴びせられ、その回答を拒否したら怒鳴り散らされました」
「てめぇ!!」
本当のことを言っただけなのにマルコは僕に掴み掛かってきた。
もちろん、こんなノロマに捕まってやる義理はない。
「避けんな!」
「嫌だ」
「マルコ、落ち着いてください!」
こうして何度かマルコの攻撃(?)を回避すると顔を真っ赤にしたマルコが背中の大剣を抜こうと手を背中に回した。もし大剣で攻撃すれば間違いなく犯罪者プレイヤーの仲間入りだ。
「ちっ……テメェら何見てんだ!」
しかし、マルコは大剣に手を掛けたところで我に返ったのか攻撃の手を止めた。思ったより自制心があったらしい。そのまま舌打ちして組合から周りを恫喝して組合から出ていった。
「……何がしたかったんですかね?」
「さてね。彼、ちょっと嫌なことがあって不機嫌なんだよ」
顔見知りということはマルコも朱桜會のメンバーなのだろうか。ちなみに朱桜會は現時点で2番目か3番目に大きなギルドだ。掲示板によれば所属しているプレイヤーのほとんどが戦闘系に特化しているらしい。
「詳しく聞いても大丈夫?」
「まー、隠すことでもないかな。今やってるイベントでね、僕ら朱桜會はギルド内で強いプレイヤーを選抜して10パーティくらい作ってパーティランキングに挑戦してるんだ。それで──」
クズノハの話によるとマルコは朱桜會の中でも上位のプレイヤーらしく、初日から昨日の午前中まで最も強いメンバーが集められたチームでパーティランキングに挑戦していたらしい。しかし、マルコがパーティメンバーの1人と喧嘩したことが原因で外されたのだとか。その件に関して言えばマルコに非は──コミュニケーション能力不足していたこと以外は──ないらしい。
「だからって見ず知らずの相手に絡んでいい理由にはならないよね」
「そうだね。でも大目に見てやってくれないかな」
「なら代わり僕から不躾な質問をしてもいいかな?」
「なんだい?」
「そのプレイヤー名や性別を偽装する技能、教えてくれない?」
「!?」
僕の習得可能リストにそれらしい技能はないのは確認済みだ。それでもマルコのように絡んでくるプレイヤーをいちいち相手にするのは面倒だ。習得できるならしておきたい。
「…………」
「……ちょっと受付に用事があるからさ。人目の多いところで話せないものならプライベートルームを借りてくるよ?」
プライベートルームは組合で借りることの出来る施設の1つだ。
主にパーティ単位での交渉に使われているらしいけど、本来は貴族NPCとの交渉用の部屋らしい。僕はまだ利用したことはない。
「プライベートルームはダメだ。待ってるから用事を済ませてきてくれ」
「逃げない?」
「……その代わり秘密にしてくれ」
「いいよ」
「ありがとう」
そう言ってクズノハはエントランスの隅の方に移動して行った。
どう見ても男性にしか見えないアバターだけど、その歩き方はどこか女らしさを感じさせる。やっぱり中身は女性っぽいね。
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
作中で蘆屋道満大内鑑(信太妻伝説を元にした浄瑠璃)についても書きたかったけど、マヨイが浄瑠璃について把握してることに違和感を覚えて信太妻伝説に書き直しました。
マルコはチャラ王と同じく草原でマヨイから魔力弾を浴びせられた可哀想なプレイヤーの1人ですが、チャラ王と違って防御する間もなく殺されてます。あの頃から名前だけ考えて放置されてたキャラですが、今回クズノハ出すための前座として役目を得ました(拍手)
なお、再登場の予定は今のところありません(無常)
クズノハの位階を修正しました(2021/5/12)
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自筆です。
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