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本編

第129話 マヨイは狙い撃つ。

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⚫︎マヨイ

「よっと」

 下層から上がってくる蜂型モンスターの攻撃──尻尾の針を飛ばしてきたり、刺そうと突っ込んできたり──を躱しながら魔力弾で開けた穴を降りて行く。

「(形状変化・魔力弾×20)」

 僕らを襲っている蜂型モンスターの位階は30~40と低く、覚醒もしていないので魔力弾1~2発で簡単に倒せてしまう。おかげで魔力を節約しながら降りて行けているのだけど、それでも数が多いのは面倒くさい。面倒くさいだけで特に問題はないんだけどね。

「お、地面が見えてきた?」

「みえてきたー」

「目が回ってて分かりません!」

「せんー!」

 それから少ししてアンダラシルの群生地らしきダンジョンの最下層に到着した。アンダラシルは全体的に大きくなったヤブガラシのような姿をしている。ヤブガラシといえばビンボウカズラとも呼ばれる多年草だ。花蜜はとして知られている。
 ちなみに僕がヤブガラシについて知っているのは家の庭に生えていたからだ。父さんと一緒になって除草剤を撒いた。父さんの話では適当に刈り取っただけでは翌年には生えてくるくらい生命力が強い植物らしい。

「よし。クレアちゃん、立てる?」

「だ、大丈夫で……きゃっ」

 お姫様抱っこしていたクレアちゃんを地面に降ろしたが、どうやら僕が想像していた以上に目を回していたようで足元がふらついている。

「っと……あー、しばらく肩貸すよ。ごめんね」

「い、いえ、ありがとうございます」

 転び掛けたクレアちゃんを回り込んで抱きとめた僕の耳に再び耳障りな羽音が聞こえてきた。目を回しているクレアちゃんは戦闘に参加できそうにない。

「魔力弾×10」

 見たところ先ほど襲ってきた蜂型モンスターより少し強い──ほとんどの個体が位階50前後ある──のだが、それでも魔力弾を2発当てれば倒せてしまうので体感できる差異は皆無だ。
 クレアちゃんが立ち直るまではしばらく膠着状態を維持しておこう。それと組合の資料によればアンダラシルは攻撃を受けるか接近されない限りは大人しい植物型のモンスターということなので、蜂型モンスターに向けて放った魔力弾がアンダラシルに当たらないよう気をつけないとね。


…………………………………


……………………………


………………………


「お兄さん、もう大丈夫です」

 クレアちゃんが立ち直ったのはアンダラシルの群生地の奥から飛んでくる蜂型モンスターがまばらになり始めた頃だった。この頃になると奥からやってくる蜂型モンスターの中に覚醒を獲得したものが混ざるようになっていた。

「ふぅ…………やっ!」

「……当てられないとか言ってなかった?」

「思っていたより動きが激しくないので……」

「な、なるほど?」

 そういう問題なのだろうか。

「それより洞窟なのに暗くないんですね」

「天井や壁にある水晶のおかげみたいだね」

 天井や壁の至るところから露出している拳大の大きさの水晶の名前はライトクリスタル。魔力を蓄積することで発光する鉱石らしく、このダンジョンの中が明るい原因のようだ。

「蜂さんも少なくなりましたし、そろそろアンダラシルを攻撃しても大丈夫ですか?」

「アンダラシルは僕が何とかするからクレアちゃんは蜂を倒してくれるかな」

「任せてください!」

くださいみゃ!」

「ククルちゃん可愛い!」

 ちなみにククルはクレアちゃんが目を回している間に彼女の頭の上に移動している。そして気がついたらククルがクレアちゃんの言葉もオウム返しするようになっていた。

「それじゃあ、耳、塞いでね」

「っは、はい!」

「魔力弾×10000」

 アンダラシルは覚醒を持っているわけでもない位階60の植物型モンスターだ。魔力弾10000発で十分どころかオーバーキルだろう。先ほどよりは大人しいものの耳鳴りがするには十分の轟音が洞窟内に響き渡る。

「にゃぅぅぅ……」

「あ、ククルちゃん!?」

「っと、外で放つ分には問題なかったんだけどなぁ……」

 クレアちゃんの頭の上で耳をペタンと伏せていたククルだったが、さすがに今の音を防ぐことはできなかったらしくクレアちゃんの頭から僕の肩に飛び乗って僕の頭をよじ登り帽子の中に隠れてしまった。

「よし、とりあえずアンダラシルはね。あとはクレアちゃんの目的の宝石蜂を探して倒そうか」

「は、はひっ……はい!」

 ダンジョンを踏破した証明となるアンダラシルの素材は確保できたので僕としては帰還しても問題ない。しかし、クレアちゃんの目的は宝石の入手だ。そのためには女王蜂やその候補となっている蜂を探さなければならない。

「っと、言ってるそばから蜂だ。もしかして巣を刺激しちゃったかな?」

「あれだけ大きな音をたてたら蜂さんもビックリすると思いますよ?」

「それもそうか……あれ蜂って羽や毒針以外に毒袋を落とすのか。倒した数にしてはドロップ数が少ないな……」

 そう言って毒袋の鑑定結果をクレアちゃんに伝える。


 名前:ストーンビーの毒袋
 分類:素材 毒
 説明:ストーンビーの毒袋。
    竜にすら効く強力な毒だが熱に弱い。
 効果:猛毒
    窒息(60秒)
    気絶(60秒)
    毒耐性貫通
    熱耐性弱化


 猛毒で徐々に体力を奪い、回復魔術やアイテムの使用を窒息や気絶で封じる中々に面倒な効果だ。それと毒耐性貫通の効果が僕の持つ状態異常無効化通用するのか確認しておく必要がありそうだ。

「レアドロップですか!?」

「どうだろう。倒し方かも」

 試しに魔力弾の形状を米粒大にまで圧縮して蜂型モンスターの頭を撃ち抜く。すると案の定、蜂型モンスターの毒袋がドロップした。欲しい部位を破壊してしまうとドロップしなくなるのかも知れない。

「倒し方ですか?」

「ちょうど今、頭だけ狙い撃って倒したら毒袋がドロップしたし、たぶん欲しい部位はなるべく傷つけちゃいけないんだと思う」

「弓矢だとなんですけど、さすがに部位を狙い撃つのは難しいです……」

 さらっととんでもない事を言っているけどツッコミ役暁&藍香が不在なのでスルーだ。

「穴から蜂さんが出てきてきました!」

 僕らがアンダラシルの群生地だった場所から少し進むと地面に直径5~6mはある大きな穴を発見した。先ほどから僕らに襲い掛かってくる蜂型モンスターはこの穴から出てきているようだ。

「あの下、というか中に巣があるのかな?」

「なら私にいい考えがあります!」

「えっと、どんな考えかな?」

 正直、嫌な予感しかしない。

「実はダンジョンに出掛ける前にこんなのを作ったんです!」

「鑑定していいかな?」

「はい!」


 名前:呪炎瓶
 分類:補助武器 危険物 素材
 説明:呪詛を溜め込んだ可燃性の薬液が入った瓶。
 効果:高濃度の魔素に反応して発火する。
    ※発火した火には下記の効果が付与される。
    ・魔術吸収
    ・延焼発生率上昇
    ・状態異常付与(恐怖・錯乱)


「ありがとう。これってどう使うの?」

 嫌な予感を感じつつも僕はクレアちゃんに質問した。

───────────────
お読みいただきありがとうございます。

マヨイが蜂型モンスターとしか呼んでいないのはストーンビー以外にも蜂型モンスターが出現しています。共生関係にあるアンダラシルの持つ毒を獲得しているという設定なので毒袋の効果は共通です。

これまで5~8話前後で掲示板回を挟んできましたが、次の掲示板回はダンジョンの話がひと段落してからにしようと思います。
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