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現在と未来
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朝7時、いつもより遅い起床で布団から抜け出し、朝食を取って身なりを整える。
車内広告を眺めながら電車に揺られ、大学の最寄り駅に着く。
「楓はいないか」
辺りを見回しても楓の姿は無い。2人とも最寄駅が同じなので、もしかしたらいるかとも思ったがそれは無かった。
図書館には殆ど人はおらず閑散としていた。
窓際の席に座り、課題の資料を広げる。タイトルは『現在の状況で環境学は必要か』というものだった。
「不要だったら在籍してる意味ないじゃない」
鷹華は小さく愚痴り資料を捲る。教授の考え方は、学生の考え方を妨げないように必要論と不必要論の半々に纏められていた。
「おはよう」
資料を捲る手を止め顔を上げると楓がいた。
「おはよう。時間通りだね」
「それは、私が遅刻魔みたいな言い方じゃないか」
彼女も椅子に座って資料広げる。
「ちょこちょこ遅れて来たことない?」
鷹華の指摘を完全に無視する形で目を合わせない。
「さて、鷹華はどう考える?」
誤魔化すためか、強引に課題の話を振った。2人は、白熱の議論とまではいかないが真剣に話し合った末、レポートに纏められるほどの意見と考え方が集まった。
「少し休憩しようか」
「さんせーい」
図書館は飲食厳禁なので、休憩と言ってもだらけるしかない。
机に突っ伏した形で、楓が口を開く。
「結局さ。私たちがどんなに勉強しても、これから起こることは変えられないのかね。ここでどんなに話し合っても、優・良・可・不可でしか判断してもらえないし、優だったとしてもそれが反映されて地球が救われる訳でもない。100年後の色々な危機なんて考えても疲れるだけなのかな」
「楓の言うことも解るけど、誰かが考えないといけない事だし、もし楓の就職先が研究所とかなら、優を取った考えを実践できるじゃない」
「いくら何でも夢見過ぎじゃない? そりゃ将来は決まってないけど、危機問題は私の数十倍頭のいい人に任せたい」
休憩の後、残りの課題を済ませた鷹華と楓は、食堂で遅めの昼食を取り別れた。
「家に帰ってレポートにしないと」
交差点の信号待ちをしている鷹華は、これから書くレポートの量に頭を抱えていると、1人の少女が鷹華の隣を駆け抜けていった。
当然信号は赤。何かに急いでいるのか、慌てて歩道を走っている。
その光景に誰もが驚いた。何故なら少女の数メートル横に車が迫っていたからだ。何故見落としたのかわからない。車高が高く視界に入らなかったのか、彼女の背が低いせいか、そもそも見ていなかったのか。あまりに急な出来事にその場の大人たちは動けなかった。
しかし咄嗟に足が動いた者がいた、鷹華だ。
彼女は必死に走り、少女に追いつくと思いきり突き飛ばす。
ブレーキ音と悲鳴、それと車にぶつかる鈍い音が辺りに響いた。
「誰か救急車を呼べ!」
「止血に布が必要なの。ハンカチでも何でもいいから渡してちょうだい!」
口々に叫ぶ大人たちが鷹華の周りに集まる。
体中が痛いためか、彼女の意識ははっきりしていた。
(痛い)
仰向けで倒れているので空がよく見える。
(あの子はどうなっただろう)
ゆっくりと首を回すと、女性に付き添われている少女がいた。
(泣いてる。そうだよね。怖いもんね)
自分の周りで何かを言っている人たちがいるが、何を言っているのか理解できない。
(100年後には食料も水も資源も無いかもしれない。そのころには、あの子はおばあちゃんで、辛い思いをするかもしれない。でも、今死ぬべきじゃない)
意識が段々と曖昧になってくる。
そんな中、自分の頭の横に転がっている物に気付いた。
(あ、お守り)
散らばった荷物から飛び出したのだろう。鷹華は懸命に腕を伸ばし、お守りを握った。
胸の上で抱きしめる様に大事に抱えたまま、鷹華の意識は途切れた。
車内広告を眺めながら電車に揺られ、大学の最寄り駅に着く。
「楓はいないか」
辺りを見回しても楓の姿は無い。2人とも最寄駅が同じなので、もしかしたらいるかとも思ったがそれは無かった。
図書館には殆ど人はおらず閑散としていた。
窓際の席に座り、課題の資料を広げる。タイトルは『現在の状況で環境学は必要か』というものだった。
「不要だったら在籍してる意味ないじゃない」
鷹華は小さく愚痴り資料を捲る。教授の考え方は、学生の考え方を妨げないように必要論と不必要論の半々に纏められていた。
「おはよう」
資料を捲る手を止め顔を上げると楓がいた。
「おはよう。時間通りだね」
「それは、私が遅刻魔みたいな言い方じゃないか」
彼女も椅子に座って資料広げる。
「ちょこちょこ遅れて来たことない?」
鷹華の指摘を完全に無視する形で目を合わせない。
「さて、鷹華はどう考える?」
誤魔化すためか、強引に課題の話を振った。2人は、白熱の議論とまではいかないが真剣に話し合った末、レポートに纏められるほどの意見と考え方が集まった。
「少し休憩しようか」
「さんせーい」
図書館は飲食厳禁なので、休憩と言ってもだらけるしかない。
机に突っ伏した形で、楓が口を開く。
「結局さ。私たちがどんなに勉強しても、これから起こることは変えられないのかね。ここでどんなに話し合っても、優・良・可・不可でしか判断してもらえないし、優だったとしてもそれが反映されて地球が救われる訳でもない。100年後の色々な危機なんて考えても疲れるだけなのかな」
「楓の言うことも解るけど、誰かが考えないといけない事だし、もし楓の就職先が研究所とかなら、優を取った考えを実践できるじゃない」
「いくら何でも夢見過ぎじゃない? そりゃ将来は決まってないけど、危機問題は私の数十倍頭のいい人に任せたい」
休憩の後、残りの課題を済ませた鷹華と楓は、食堂で遅めの昼食を取り別れた。
「家に帰ってレポートにしないと」
交差点の信号待ちをしている鷹華は、これから書くレポートの量に頭を抱えていると、1人の少女が鷹華の隣を駆け抜けていった。
当然信号は赤。何かに急いでいるのか、慌てて歩道を走っている。
その光景に誰もが驚いた。何故なら少女の数メートル横に車が迫っていたからだ。何故見落としたのかわからない。車高が高く視界に入らなかったのか、彼女の背が低いせいか、そもそも見ていなかったのか。あまりに急な出来事にその場の大人たちは動けなかった。
しかし咄嗟に足が動いた者がいた、鷹華だ。
彼女は必死に走り、少女に追いつくと思いきり突き飛ばす。
ブレーキ音と悲鳴、それと車にぶつかる鈍い音が辺りに響いた。
「誰か救急車を呼べ!」
「止血に布が必要なの。ハンカチでも何でもいいから渡してちょうだい!」
口々に叫ぶ大人たちが鷹華の周りに集まる。
体中が痛いためか、彼女の意識ははっきりしていた。
(痛い)
仰向けで倒れているので空がよく見える。
(あの子はどうなっただろう)
ゆっくりと首を回すと、女性に付き添われている少女がいた。
(泣いてる。そうだよね。怖いもんね)
自分の周りで何かを言っている人たちがいるが、何を言っているのか理解できない。
(100年後には食料も水も資源も無いかもしれない。そのころには、あの子はおばあちゃんで、辛い思いをするかもしれない。でも、今死ぬべきじゃない)
意識が段々と曖昧になってくる。
そんな中、自分の頭の横に転がっている物に気付いた。
(あ、お守り)
散らばった荷物から飛び出したのだろう。鷹華は懸命に腕を伸ばし、お守りを握った。
胸の上で抱きしめる様に大事に抱えたまま、鷹華の意識は途切れた。
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