3 / 5
回避か戦争か
しおりを挟む
鷹華はその日も朝から自然環境学の講義を受けていた。
『近年誰しもが耳にしているであろう食料危機。それを打開するためには環境を整えなければなりません』
マイクを通し、低く皺がれた老人の声で進む講義。
『動植物が飼育できる環境が減り、食肉が足りない。ならば虫を食べれば解決すると言う学者もいます』
そこで学生から悲鳴にも似た声が上がる。きっと虫を食べる自分を想像したのだろう。
『そうならないためにも、皆さんはこの講義で1つでも多くの事を学んでください。食料以外にも、水、資源なども挙げられます』
『どれも限りがあるものです。故にコストのかからない食べ物は何か。飲料水にならない水をどうろ過するか。地下や海底に資源は眠っていないか。またそれを必要としない科学技術は開発できないか。人類はひたすら考えてきました』
『そして、いつも2つの選択肢が突き付けられます。回避できるか、各国で争奪戦が始まるか。その2択です』
自然環境学の講義を終え、次の教室に移動していると、後ろから肩を叩かれた。
「一緒に行こ」
そこには次の講義を一緒に取っている楓が眠そうに立っていた。
「寝不足?」
「まあね。サークルの飲み会が2次会まであって、それに付き合ったら朝だった」
何とも大学生生活を楽しんでいる楓を羨ましく思いながら、2人は教室に向かった。
そして、昼休みはいつもの様に食堂の一角を陣取る。
「そういえば、明後日のドイツ語って小テストだっけ?」
楓は突然思い出したようで、鷹華に助けを求める。
「鷹華様。範囲を教えて下さい」
懇願の眼差しを向けられた鷹華は、試験範囲が記された手帳を出すべく、バッグを漁った。バッグの奥の方にあった手帳を引っ張り出す時、一緒に小さなモノが飛び出してきた。
「何か落ちたよ」
「これは、おばあちゃんに貰ったお守り。可愛いでしょ?」
そのお守りはピンク色の健康守りで、花柄の刺繍も入っていた。
「お守りってマジマジ見たことなかったけど、確かに可愛いデザインかもね」
「小学生の時に貰って以来、病気も怪我も無いの」
「鷹華の健康はコイツに守られていたのか」
昼休みを終了させるチャイムが鳴り、午後の授業も真面目に受け、労働に精を出す時間がやって来た。
「ブレンドコーヒー1つ」
「はい、かしこまりました」
「フレンチトーストとナポリタン。あとブレンドコーヒー2つね」
「はい、少々お待ち下さい」
目の回るような忙しさが喫茶店を賑やかにしていた。
「はい、ブレンド3つね」
店長が淹れたコーヒーを各テーブルに運び、また別の注文を受ける。
淹れるのに時間のかかるコーヒーと、料理の同時進行は想像以上に重労働だ。それを知っている鷹華は、本来は自分の仕事ではない、ある提案をする。
「あの、私も何か手伝います。フレンチトーストくらいなら焼けると思います」
その言葉に、店長と常連客が凍り付いた。
「だ、だ、大丈夫よ? このくらいは忙しいうちに入らないから」
「そ、そうだよ。俺たちも急いでるわけじゃ無いから。料理も待てるから」
そう言いつくろい、苦笑いを浮かべる。
「そうですか」
鷹華は、少ししょんぼりとした表情を見せながら再び働き始めた。
彼女に聞こえないかを確認しながら、カウンターに座る常連の男性がヒソヒソと店長に聞いた。
「鷹華ちゃん。まだ料理上手くならないの?」
「ええ。何度か教えてるんですけど、いつの間にか調味料を足しちゃっていて」
たいていの事は卒なくこなす鷹華だが、ただ1つ料理に関してだけは問題を抱えていた。アルバイトを始めた当初は店長も鷹華に簡単な料理を任せようと思い、試しにフレンチトーストやサンドイッチを作らせてみたのだが、結果はすべて失敗。何故か赤いフレンチトーストと、苦い照り焼きサンドが出来上がっていた。
本人曰く、多少の辛みは食欲増進に繋がり、コーヒーは隠し味としては優秀なのだと胸を張っていた。
彼女の腕前は瞬く間に常連にも伝わり、店長も自分の店を守るために鷹華には料理をさせない事に決めていた。
鷹華に包丁を握らせることなく、無事に閉店時間を迎えた。
「お疲れ様でした」
「はい、お疲れ様。気をつけて帰るのよ」
店から家までは時間にして約30分。いくら慣れている道だからと油断はできない。何となく緊張を持って歩いていると、携帯端末が震えた。
着信元は楓。内容は明日暇なら一緒に課題をやらない? と言うものだった。
「明日、は土曜日か」
大学もアルバイトも無い日。用事が無ければ家でゴロゴロして、課題に取り掛かっていただろう。
その場ですぐ、大丈夫だと返信を打つ。すると楓からも返信があり、10時に大学の図書館に集合と決まった。
『近年誰しもが耳にしているであろう食料危機。それを打開するためには環境を整えなければなりません』
マイクを通し、低く皺がれた老人の声で進む講義。
『動植物が飼育できる環境が減り、食肉が足りない。ならば虫を食べれば解決すると言う学者もいます』
そこで学生から悲鳴にも似た声が上がる。きっと虫を食べる自分を想像したのだろう。
『そうならないためにも、皆さんはこの講義で1つでも多くの事を学んでください。食料以外にも、水、資源なども挙げられます』
『どれも限りがあるものです。故にコストのかからない食べ物は何か。飲料水にならない水をどうろ過するか。地下や海底に資源は眠っていないか。またそれを必要としない科学技術は開発できないか。人類はひたすら考えてきました』
『そして、いつも2つの選択肢が突き付けられます。回避できるか、各国で争奪戦が始まるか。その2択です』
自然環境学の講義を終え、次の教室に移動していると、後ろから肩を叩かれた。
「一緒に行こ」
そこには次の講義を一緒に取っている楓が眠そうに立っていた。
「寝不足?」
「まあね。サークルの飲み会が2次会まであって、それに付き合ったら朝だった」
何とも大学生生活を楽しんでいる楓を羨ましく思いながら、2人は教室に向かった。
そして、昼休みはいつもの様に食堂の一角を陣取る。
「そういえば、明後日のドイツ語って小テストだっけ?」
楓は突然思い出したようで、鷹華に助けを求める。
「鷹華様。範囲を教えて下さい」
懇願の眼差しを向けられた鷹華は、試験範囲が記された手帳を出すべく、バッグを漁った。バッグの奥の方にあった手帳を引っ張り出す時、一緒に小さなモノが飛び出してきた。
「何か落ちたよ」
「これは、おばあちゃんに貰ったお守り。可愛いでしょ?」
そのお守りはピンク色の健康守りで、花柄の刺繍も入っていた。
「お守りってマジマジ見たことなかったけど、確かに可愛いデザインかもね」
「小学生の時に貰って以来、病気も怪我も無いの」
「鷹華の健康はコイツに守られていたのか」
昼休みを終了させるチャイムが鳴り、午後の授業も真面目に受け、労働に精を出す時間がやって来た。
「ブレンドコーヒー1つ」
「はい、かしこまりました」
「フレンチトーストとナポリタン。あとブレンドコーヒー2つね」
「はい、少々お待ち下さい」
目の回るような忙しさが喫茶店を賑やかにしていた。
「はい、ブレンド3つね」
店長が淹れたコーヒーを各テーブルに運び、また別の注文を受ける。
淹れるのに時間のかかるコーヒーと、料理の同時進行は想像以上に重労働だ。それを知っている鷹華は、本来は自分の仕事ではない、ある提案をする。
「あの、私も何か手伝います。フレンチトーストくらいなら焼けると思います」
その言葉に、店長と常連客が凍り付いた。
「だ、だ、大丈夫よ? このくらいは忙しいうちに入らないから」
「そ、そうだよ。俺たちも急いでるわけじゃ無いから。料理も待てるから」
そう言いつくろい、苦笑いを浮かべる。
「そうですか」
鷹華は、少ししょんぼりとした表情を見せながら再び働き始めた。
彼女に聞こえないかを確認しながら、カウンターに座る常連の男性がヒソヒソと店長に聞いた。
「鷹華ちゃん。まだ料理上手くならないの?」
「ええ。何度か教えてるんですけど、いつの間にか調味料を足しちゃっていて」
たいていの事は卒なくこなす鷹華だが、ただ1つ料理に関してだけは問題を抱えていた。アルバイトを始めた当初は店長も鷹華に簡単な料理を任せようと思い、試しにフレンチトーストやサンドイッチを作らせてみたのだが、結果はすべて失敗。何故か赤いフレンチトーストと、苦い照り焼きサンドが出来上がっていた。
本人曰く、多少の辛みは食欲増進に繋がり、コーヒーは隠し味としては優秀なのだと胸を張っていた。
彼女の腕前は瞬く間に常連にも伝わり、店長も自分の店を守るために鷹華には料理をさせない事に決めていた。
鷹華に包丁を握らせることなく、無事に閉店時間を迎えた。
「お疲れ様でした」
「はい、お疲れ様。気をつけて帰るのよ」
店から家までは時間にして約30分。いくら慣れている道だからと油断はできない。何となく緊張を持って歩いていると、携帯端末が震えた。
着信元は楓。内容は明日暇なら一緒に課題をやらない? と言うものだった。
「明日、は土曜日か」
大学もアルバイトも無い日。用事が無ければ家でゴロゴロして、課題に取り掛かっていただろう。
その場ですぐ、大丈夫だと返信を打つ。すると楓からも返信があり、10時に大学の図書館に集合と決まった。
0
あなたにおすすめの小説
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる