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捕らわれた籠の鳥
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「……」
深い深い眠りの中。
意識なんて、海の底深くに沈んでいて、最早消えそうになっている。
ふいに、何かが頬に触れた。
「…っ、」
無意識に、酷く心地よい眠りを妨げられたことで不機嫌に眉が寄った。
その感触が否応なしにまどろみの中から意識を浮上させる。
重い瞼を持ち上げた瞬間に、ぼやけた視界で、誰かが微笑んだような気がした。
「おはよう」
「……」
だれ…?
俺とその人の間を、白いカーテンが遮っているかと思うほど靄がかかっている視界。
半分その声さえも夢のような、耳の底で優しく囁かれているような、そんな声音だった。
そして、すぐに自分がどこかに寝かされていることに気づいた。
背中にあたるふわふわの感触は、きっと布団だろう。
そのことを感じながら、声にこたえようにも、その人の顔を見ようにも。
……声が出ないし、…何も、見えない。
そもそも、唇が動かない。
「…(どうして…?)」
霧がかかっているかのように、自分の目がもしかして一瞬見えなくなってしまったのかと怖くなってしまうほど、視界が真っ白で。
これが自分の身体なのかと思うくらい、指一本だって動かせなかった。
だから、今俺が動かせるのはわずかで、……瞼だけ。
それと同時に、分かるのは、ただ異常なほど何か甘い香りが漂ってくるということだ。
…身体を動かせることなら思わず顔を顰めてしまうだろうと思うくらい、甘ったるいお香のような匂い。
眠りを誘うようなその匂いに、うとうとと瞼を閉じてしまいそうになる。
そんな俺に、さっき声をかけてきた人が小さく笑う。
「ねむい?眠いなら、もう一度寝てもいいよ。俺が傍についてるから、安心して眠って」
「……」
「…嗚呼。でも、夢の中でも俺のことを考えていてくれたらいいな。夢の中でまで好きな人と一緒にいられたら、それってすごく幸せなことだと思わない?」
嬉しさの混じった問いかけるような声とともに、髪に何かが触れて、そこを撫でるように動いた。
子どもを寝かしつける親のような、そんな優しい動きだった。
問いに答えることもなく、眠気を我慢することができなかった俺は。
眠って、という声に誘われるように、ふ、と瞼を閉じる。
「…おやすみ、まーくん」
声は極めて穏やかで優しくて、目を瞑って聞いていると、とても心地良く身体に染みわたった。
――――――――――
何も、わからない。
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