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捕らわれた籠の鳥
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しおりを挟む「……………」
甘い香りが消えている。
目が覚めたとき、最初に気づいたのはそんなことだった。
あの日から、何度も目が覚めて、何度も目を開いたはずなのに。
何故か何も話すこともできずに、泥のような眠気に襲われてすぐに眠りにおちてしまっていた。
「……」
俺、今までずっと寝てたのか…?
どうしてこんなに眠いんだろう。
どのくらい寝たんだろう。
…何度も起きたことは覚えているから、眠っていた時間は少なくない気がするんだけど。
今、自分の身に何が起こってるのかまるでわからない。
寝すぎたせいか、ずきずきと痛む頭に顔を顰める。
何も考えられない。
ぼーっとしながら、とりあえず目を凝らしてみると、次第に天井が見えてきた。
…。
見たこともない、天井。
「…(ここ、どこだろう…)」
目に入ってきたのは、茶色の木でできたもので。
一瞬、いつの間にか自分の家にひとりでに帰ってきて寝てしまったのかと思ったけど、俺の家の天井は白色で、こんな色じゃない。
「起きた?おはよう、まーくん」
声が聞こえて、そっちに目を向けると。
傍に誰かが正座しているのが見えた。
紺色の浴衣を着ていて、どこか上品な雰囲気を漂わせている。
そこにいる人物の正体がわかって、驚いた。
(…なんで、)
「…、」
声を出そうとしても、相変わらず口が開かない。
だから、ただ蒼をじっと見上げることしかできない。
(そうだ…傷、蒼の腕は、…)
ざっくりとナイフが刺さって、血まみれだったはず。
大丈夫だったのかと、一番最初に思い浮かんだのはそんなことで。
その場所を見ても、浴衣で隠れていてそれがどうなっているのか、わからない。
「どうしたの?」
腕のことを聞こうにも、口が少しも動かないので、じっとその場所を見つめていると。
蒼がその視線の先をみて、ああ、と頷いて笑った。
「もうちゃんと治ったよ。心配してくれてありがとう」
蒼は人のことは色々と心配するくせに、自分のことに関しては何故か雑に扱おうとするので、余計にその言葉が本当か嘘か分からなくて心配になった。
けど、自分で確かめられない限り信用するしかない。
それを聞いて安心したわけではないが、とりあえず蒼が今無事にここにいて、生きてることに安堵した。
良かった。
不意に、記憶の端に”あるもの”がよぎる。
「………」
「ん?何?」
「…ねっ…く…れ…す…は…、」
「…っ」
辛うじて唇を動かしてそう途切れ途切れに、言葉を零せば。
蒼は一瞬不意を突かれたような表情をして、彼の双眸が潤んだ。
何故か酷く泣きそうな顔をして、その表情を不思議に思っていると、泣きそうな顔のまま優しく微笑んだ彼はうん、と頷いた。
「…うん。ちゃんと、拾ってあるから大丈夫だよ」
ありがとう、まーくん。と小さく何度もお礼を言って泣きそうで、でもとても嬉しそうな顔をする蒼に、そこまで感謝することかと内心驚いた。
…そうすると、次に気になってくるのは自分の今の状況なわけで。
俺の困惑の視線を受けて、蒼は笑みを浮かべる。
「気になる?ここがどこか、まーくんが今どうなってるのか」
気になるに決まってる。
こんなに、手も足も全く動かないなんておかしい。
そして、どうしてこんなに眠いのか。
どうして知らない部屋に寝かされているのか。
気になって仕方がない。
「教えてあげてもいいけど、今はまだだめ」
なんで。
そう問いたいけど、口からでない疑問は相手に伝わることなく、自分の中に消化されることなくとどまるだけだ。
「ちょっと待ってて」と微笑んだ蒼が立ち上がって、視界から消えた。
顔を動かせないから、蒼が今どこにいるかもわからない。
シュッと何かを燃やすような音が聞こえた。
何だろうと思っていると、その直後またあの甘ったるい香りが一気に漂ってくる。
戻ってきた蒼に、手で目を覆われた。
視界が真っ暗になって、それと同時に眠気が襲ってきて、すぐにそれに抵抗できなくなってしまう。
暗闇の中、声が聞こえる。
「……今はまだまーくんが知るには早いから」
「…ぁ…」
「…おやすみ」
おだやかで、囁くような声。
それと同時に、額に何かやわらかい感触が触れた。
眠ってはいけない。
もう、これ以上眠りたくない。
そう思ったのは一瞬で、次の瞬間には意識も深い眠りのなかに消えていた。
―――――――――――
眠くて。
眠くて。
ただ、眠りたい。
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