異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第12章:記憶の美術館と影の暗殺者

第67話:三つの影のチェックメイト

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「ルナ、ジン!」
俺は、二人に指示を飛ばす。

「大通りに出ろ!
あの、魔晶石でできた街灯を狙え!」

 二人は一瞬だけ戸惑ったが、すぐに俺の意図を理解したようだった。
彼らは、まだ重い体を引きずるようにして、大通りへと駆け出す。

「―――はぁっ!」

 ルナの爪が、街灯の金属製の支柱を切り裂く。
ジンもまた、懐から取り出した短剣で、別の街灯の根元を破壊した。

 ガシャンッ!という派手な音と共に、いくつかの街灯が地面に倒れ込む。
その衝撃で、内部に収められていた魔晶石がき出しになり、周囲に強烈な光をまき散らし始めた。

「――ケント!
次はどうする!」

「そのまま、ルナを囲むように配置しろ!」
俺は、叫んだ。

「三角形を作るように、三方向からな!」

 ジンは、俺の指示通りに三つの魔晶石をルナの周囲に配置する。
一つは、彼女の正面に。
一つは、左斜め前に。
そしてもう一つは、右斜め前に。

 その結果、何が起きたか。

 豪雨にけむる薄暗い広場に、三つの強烈な光源が出現した。
そして、その三つの光に照らされたルナの体からは、三本の全く違う方向へと伸びる、濃くはっきりとした影が生まれたのだ。

「……な……!?」
ノクスが、愕然がくぜんとした声を上げた。

 彼の仮面の下の瞳が、信じられないものを見るかのように大きく見開かれているのが分かった。

「さあ、どうする? 暗殺者さんよ」
俺は、不敵に笑って見せた。

「お前の《影踏み遊戯シャドウ・タグ》は、相手の『影』を踏むことで成立する。
だが、今ここにいるルナには、影が三つある。
どれが、お前の能力の対象になる『本物』の影なんだ?」

 ノクスは、混乱していた。
彼の天賦ギフトは、一つの光源によって生まれる一つの影しか想定していない。

 複数の光源によって生まれた複数の影。
そのどれを『本体』として認識すればいいのか、彼の能力のルールそのものがバグを起こしているのだ。

 彼は、苦し紛くるしまぎれに一番近くにあったルナの影の一つを踏みつけた。

「―――ッ!」

 ルナの左足が、一瞬だけ重くなる。
だが、それだけだ。
右足も、両腕も、胴体も、完全に自由。

「……残念だったな」
ルナが、獰猛どうもうな笑みを浮かべた。

「そっちは、ハズレだぜ!」

 銀色の閃光が、雨の中を走った。
ルナは、もはや何のかせもなく、本来の速度を取り戻していた。
ノクスは、慌てて後方の影へと飛び退く。

「逃がすかよ!」
ルナが、猛然もうぜんと追撃する。

 だが、ノクスもまた帝国の暗殺者。
弱体化したとはいえ、その動きは常人のそれを遥かに超えている。

 彼は、雨に濡れてぼやけた建物の影から影へと跳躍ちょうやくし、巧みにルナの追撃をかわしていく。

(くそっ……!
このままじゃ、取り逃がす……!)

 俺は、最後の仕上げにかかることにした。

「エルゴ殿!」

 俺は、未だに天候を維持し続けてくれている老賢者に叫んだ。

「雨は、もういい!
次は、『風』だ!」

「風……じゃと?」

「ああ!
あんたが体験した中で、最も強く、最も気まぐれな嵐を思い出してくれ!」

 エルゴは、一瞬だけ戸惑ったがすぐに俺の策を理解した。
彼は、再びその手に持つ傘を天に掲げる。

「―――見えたぞ。
あれは、帝国の東の海で遭遇した、全てをなぎ払う『海の竜巻』じゃ……!」

 ゴウウウウウウウウウウッッ!

 天候が、再び変わる。
ただ降り注ぐだけだった豪雨が、荒れ狂う暴風雨へと姿を変えたのだ。

 風が、街灯の光を不規則に揺らす。
その結果、ルナの三つの影もまた、まるで生き物のように伸びたり縮んだり、あるいは踊るようにその位置を変え始めた。

 ノクスは、もはやどの影が本物で、どの影が幻か、完全に見失っていた。
彼の唯一の武器は、今や彼自身を混乱させるだけのただのノイズと化したのだ。

「―――チェックメイトだ」
俺は、冷たく言い放った。

 ルナは、揺れ動く三つの影と共に、まるで分身したかのようにノクスへと襲いかかる。

 翻弄ほんろうされ、完全に体勢を崩したノクスの懐に、ルナの黒曜石の短剣が深々と突き刺さった。

「ぐ……ぁっ……!」

 ノクスは、短い悲鳴を上げてその場に崩れ落ちる。

 だが、彼はまだ死んではいなかった。
最後の力を振り絞り、近くの建物の最も暗い影の中へとその身を投じる。

 そして、まるで水に溶けるかのように、その姿は闇の中へと消えていった。

「待て!」
ルナが追おうとするのを、俺は手で制した。

「追うぞ!
だが、バラバラになるな!」

 俺は、ノクスが消えていった建物を鋭くにらみつけた。

 そこは、ひときわ大きく、そしてどこか物悲しい雰囲気を漂わせる、巨大な石造りの建物だった。

「……美術館……か」
エルゴが、その建物の名をつぶやいた。

「確か、この街の創設者が集めた、古い美術品が収められている場所じゃったはず……」

(……アジトは、あの中か)

 俺は、確信した。
この光と影のチェスは、まだ終わってはいない。
最終ラウンドの舞台は、あの記憶の美術館だ。

 俺たちは、雨に濡れた体をものともせず、ノクスが逃げ込んだ美術館へと、静かに、だが確かな足取りで向かい始めた。
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