【完結】『謀反人の汚名を着た武田信玄 ~残された秘策と隠された忠義~』

月影 朔

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第二章:蠢く者たち

第二十七話:おふうの秘密

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 越後の山中、追っ手から逃れた小太郎は、千代女と合流し、直江景綱の屋敷からほど近い廃寺に身を潜めていた。

 肩の傷は深く、偽の絵図に踊らされた己の未熟さに、彼は深く沈んでいた。明智光秀の間者の巧妙な手口に、小太郎は翻弄されたのだ。

「小太郎殿、無理はなさいませんよう」

 千代女は、小太郎の傷口に薬草を当てながら、静かに言った。その声には、小太郎を案じる色が滲んでいる。

「千代女殿には、ご迷惑をおかけした。わしの未熟さゆえに……」

 小太郎は、悔しげに呟いた。信玄の秘策を託された身でありながら、敵の罠に容易くはまってしまう己の不甲斐なさに、歯噛みする思いだった。

 その時、廃寺の入り口から、かすかな物音が聞こえた。小太郎は、咄嗟に刀を握り、身構えた。しかし、そこに現れたのは、意外な人物だった。

「小太郎様!ご無事でしたか!」

 現れたのは、薬草売りの娘、おふうだった。彼女は、小さな薬草籠を背負い、顔には土埃をつけ、息を切らしていた。

「おふう!なぜ、このような場所に……」

 小太郎は、驚きに目を見開いた。まさか、おふうが越後まで自分を追ってくるとは、夢にも思わなかった。

 おふうは、小太郎の姿を見ると、安堵の表情を浮かべた。そして、千代女の隣に座り込むと、薬草籠から数種類の薬草を取り出した。

「小太郎様が、こんな奥地へ向かわれたと聞いて……あたし、心配で、つい」

 おふうは、照れたように笑った。
しかし、その顔には、長旅の疲労と、小太郎への心配が深く刻まれている。彼女は、千代女の手際をじっと見つめ、自らも小太郎の傷口に、慣れた手つきで薬草を当て始めた。

「その薬草……」

 千代女は、おふうの手つきを見て、微かに眉をひそめた。おふうが使っている薬草は、一般の薬草売りが扱うようなものではない。それは、忍びの家系に代々伝わる、秘伝の薬草に酷似していたのだ。

 おふうは、千代女の視線に気づき、一瞬だけ表情を曇らせた。しかし、すぐにいつもの明るい笑顔に戻った。

「これは、あたしの祖父が教えてくれた、とっておきの薬草なんだ。どんな傷にもよく効くんだよ」

 おふうは、そう言って、優しく小太郎の傷口に薬草を塗り込んだ。その手つきは、千代女に劣らぬほど、熟練したものだった。

 千代女は、おふうの言葉と、その薬草の知識に、ある疑念を抱いた。この娘は、ただの薬草売りではない。彼女の背後には、何か隠された秘密があるのではないか。

 その夜、小太郎は、おふうと千代女と共に、廃寺で一夜を明かした。小太郎は、おふうの存在に、心の安らぎを感じていた。彼女の明るさが、彼の沈んだ心に、一筋の光を灯してくれるようだった。

 しかし、千代女は、眠りについたおふうの横顔をじっと見つめていた。彼女の脳裏には、ある一つの仮説が浮かび上がっていた。そして、その仮説は、信玄の秘策にも深く関わってくる可能性があった。

 翌朝、小太郎が目覚めると、おふうは既に起きて、薬草を摘みに行っていた。

 小太郎は、千代女に、おふうがただの薬草売りではないのではないかという、千代女の疑問を口にした。

 千代女は、静かに頷いた。
「私も、そう感じておりました。彼女の薬草の知識、そしてその手際。それは、忍びの家系に伝わるものに酷似しております」

 小太郎は、驚きに目を見開いた。
「まさか……おふうが、忍びの家系に……」

「その可能性は、大いにあります。そして、彼女は、ただ薬草を摘んでいるだけではないのかもしれません。彼女もまた、何かを探しているように見受けられます」

 千代女の言葉に、小太郎は、おふうがなぜ自分を追って越後まで来たのか、その理由に、新たな疑問を抱いた。おふうは、なぜ自分にその秘密を隠しているのか。

 その時、おふうが薬草を摘んで廃寺に戻ってきた。彼女の顔は、朝日に照らされ、いつものように明るい。しかし、小太郎は、彼女の笑顔の奥に、何か深い悲しみが隠されているように感じた。

「小太郎様、千代女様。朝食にしましょう。あたしが摘んできた薬草で、美味しいお粥を作ってあげるね」

 おふうは、そう言って、にこやかに微笑んだ。小太郎は、おふうの言葉に、複雑な思いを抱いた。彼女の優しさに触れるたび、彼女の秘密が、彼の胸に重くのしかかる。

 廃寺での数日間の療養は、小太郎の傷を癒やし、彼の心に新たな決意をもたらした。しかし、同時に、おふうという娘が抱える秘密が、彼の旅路に、新たな影を落とし始めていた。

 おふうは、一体何を探しているのか。そして、彼女の秘密は、信玄の秘策にどう関わってくるのだろうか。

 小太郎は、その答えを探すため、再び、越後の深い雪の中へと足を踏み出すことを決意した。
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