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第四章:西国の風雲
第六十一話:瀬戸内海の使者
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丹波の地で「絆の園」の「楔」を見つけ、信玄の深い人間愛に触れた小太郎たちは、次なる指示を待つため、再び山中の隠れ家へと身を潜めていた。
光秀の追跡は依然として厳しく、丹波攻めでの「武田の残党」の陽動作戦が、光秀をさらに苛立たせていることは明らかだった。
そんな中、信玄からの新たな密書が、千代女の伝令によって小太郎のもとへと届けられた。
密書には、信玄が次の手を打つべく、遠く西国へ目を向けていることが記されていた。狙いは、瀬戸内海を支配する毛利輝元(もうり てるもと)だった。
「毛利家へ……。信玄公は、一体何を企んでおられるのだ?」
小太郎は、密書を読み終え、千代女に問いかけた。毛利家は、織田信長と激しく対立しており、その水軍は天下に名高い。
信玄が、この時期に毛利家に接触を図る意図が、小太郎には読み取れなかった。
千代女は、地図を広げ、瀬戸内海の広大な海域を指差した。
「信玄公は、表向きは友好の打診として使者を送られますが、真の目的は、対織田包囲網の再構築と、毛利水軍の協力を得ることでしょう」
千代女の言葉に、小太郎はハッとした。
信玄は、武力による直接的な衝突だけでなく、外交によって信長を孤立させ、その力を削ごうとしているのだ。
毛利水軍の力が加われば、信長が支配する畿内への海上からの圧力を強めることができる。
しかし、毛利家は、長きにわたり織田家と敵対してきた。その毛利家が、武田の「残党」に過ぎない信玄の誘いに乗るのか。
「毛利家は、信長様との戦で疲弊しております。信玄公は、その隙を突こうとされているのでしょう。毛利輝元様は、まだ若く、その采配は叔父である小早川隆景(こばやかわ たかかげ)殿や、吉川元春(きっかわ もとはる)殿に頼るところが大きい。特に隆景殿は、稀代の知将。信玄公の真意を見抜くことができるお方でしょう」
千代女は、そう言って、毛利家の現状と、主要な人物について説明した。毛利両川と呼ばれる隆景と元春の存在は、毛利家の外交方針を左右する重要な要素だ。
信玄の密書には、小太郎にも新たな密命が下されていた。それは、毛利家が支配する安芸の宮島(みやじま)へ赴き、そこに隠された次の「楔」を探すことだった。
「宮島……厳島神社か」
小太郎は、その名を聞いて、かつて武田家が毛利家と激戦を繰り広げた、厳島の戦い(いつくしまのたたかい)を思い出した。かつて敵味方として刃を交えた地で、信玄は、何を「楔」として残したのか。その意図は、小太郎には計り知れないものだった。
「厳島神社は、毛利家にとって聖地。そこに『楔』を置かれたということは、信玄公は、毛利家との間に、単なる軍事同盟以上の絆を築こうとされているのかもしれません」
千代女の言葉に、小太郎は深く頷いた。比叡山の「鎮魂と希望」、丹波の「癒しと共生」。信玄の「楔」には、常に深い意味が込められていた。
旅の準備が整えられ、小太郎たちは、遥か西国を目指し、再び歩き出した。しかし、西国への道は、信長の支配が及ぶ地域を通過せねばならず、これまで以上に危険が伴う。光秀の追手が迫り、真田昌幸の陽動作戦もいつまで効果が続くかわからない。
道中、彼らは、瀬戸内海へと続く街道を辿りながら、この国の広大さを改めて実感していた。東国の山国で育った小太郎にとって、海の広がりは、新鮮な驚きだった。
「海か……。こんなに広い海を渡って、信玄公は、何をしようとされているのだろう?」
おふうは、水平線に広がる海を見て、目を輝かせた。彼女の祖父、土岐十蔵の故郷は、この西国にも近いという。おふうの秘めたる秘密もまた、この西国の旅で、明らかになるのかもしれない。
瀬戸内海に近づくにつれて、彼らは、毛利水軍の活動を目にするようになった。巨大な船が、まるで海の上を滑るように進み、その威容は、信長の天下布武を阻むに足るものだった。
やがて、小太郎たちは、瀬戸内海の港町に到着した。町は、活気にあふれ、多くの人々が行き交っている。しかし、その活気の裏には、織田家との戦による緊張感が漂っていた。
小太郎たちは、毛利家が使者を送る予定の港を確認した。そこには、すでに毛利家の船が停泊しており、使者を待っているようだった。信玄の使者が、どのような人物なのか、小太郎には想像もつかなかった。
しかし、その港には、毛利家の兵士だけでなく、光秀の間者らしき者たちの姿もちらほらと見受けられた。光秀は、小太郎たちが丹波の地から西国へ向かっていることを、すでに察知しているのかもしれない。
「光秀殿は、我々の動きを読み解こうとしている。警戒を怠るな」
千代女は、そう言って、小太郎とおふうに注意を促した。
小太郎たちは、光秀の間者の目を欺き、宮島へと向かう船を探し始めた。宮島は、瀬戸内海に浮かぶ小さな島であり、厳島神社は、その島を代表する聖地だ。そこへ潜入するには、船での移動が不可欠だった。
その時、小太郎は、港の片隅で、見慣れない装束を身につけた一団を見かけた。彼らは、西方から来た者たちのようで、その中の一人が、毛利家の役人と言葉を交わしている。
「あれが、信玄公が送られた使者か……」
小太郎は、その一団に目を凝らした。
信玄が、天下の毛利家へと送る使者とは、一体どのような人物なのか。
そして、その使者が、毛利家とどのような駆け引きを行うのか。小太郎の胸には、新たな期待と、そして緊張感が入り混じっていた。
西国の地で、信玄の秘策は、新たな局面を迎えようとしていた。信長と光秀の目を欺き、毛利家との同盟を築き、宮島の「楔」を見つけることができるのか。
戦国の乱世で繰り広げられる、知略の戦いは、さらに深まっていく。
光秀の追跡は依然として厳しく、丹波攻めでの「武田の残党」の陽動作戦が、光秀をさらに苛立たせていることは明らかだった。
そんな中、信玄からの新たな密書が、千代女の伝令によって小太郎のもとへと届けられた。
密書には、信玄が次の手を打つべく、遠く西国へ目を向けていることが記されていた。狙いは、瀬戸内海を支配する毛利輝元(もうり てるもと)だった。
「毛利家へ……。信玄公は、一体何を企んでおられるのだ?」
小太郎は、密書を読み終え、千代女に問いかけた。毛利家は、織田信長と激しく対立しており、その水軍は天下に名高い。
信玄が、この時期に毛利家に接触を図る意図が、小太郎には読み取れなかった。
千代女は、地図を広げ、瀬戸内海の広大な海域を指差した。
「信玄公は、表向きは友好の打診として使者を送られますが、真の目的は、対織田包囲網の再構築と、毛利水軍の協力を得ることでしょう」
千代女の言葉に、小太郎はハッとした。
信玄は、武力による直接的な衝突だけでなく、外交によって信長を孤立させ、その力を削ごうとしているのだ。
毛利水軍の力が加われば、信長が支配する畿内への海上からの圧力を強めることができる。
しかし、毛利家は、長きにわたり織田家と敵対してきた。その毛利家が、武田の「残党」に過ぎない信玄の誘いに乗るのか。
「毛利家は、信長様との戦で疲弊しております。信玄公は、その隙を突こうとされているのでしょう。毛利輝元様は、まだ若く、その采配は叔父である小早川隆景(こばやかわ たかかげ)殿や、吉川元春(きっかわ もとはる)殿に頼るところが大きい。特に隆景殿は、稀代の知将。信玄公の真意を見抜くことができるお方でしょう」
千代女は、そう言って、毛利家の現状と、主要な人物について説明した。毛利両川と呼ばれる隆景と元春の存在は、毛利家の外交方針を左右する重要な要素だ。
信玄の密書には、小太郎にも新たな密命が下されていた。それは、毛利家が支配する安芸の宮島(みやじま)へ赴き、そこに隠された次の「楔」を探すことだった。
「宮島……厳島神社か」
小太郎は、その名を聞いて、かつて武田家が毛利家と激戦を繰り広げた、厳島の戦い(いつくしまのたたかい)を思い出した。かつて敵味方として刃を交えた地で、信玄は、何を「楔」として残したのか。その意図は、小太郎には計り知れないものだった。
「厳島神社は、毛利家にとって聖地。そこに『楔』を置かれたということは、信玄公は、毛利家との間に、単なる軍事同盟以上の絆を築こうとされているのかもしれません」
千代女の言葉に、小太郎は深く頷いた。比叡山の「鎮魂と希望」、丹波の「癒しと共生」。信玄の「楔」には、常に深い意味が込められていた。
旅の準備が整えられ、小太郎たちは、遥か西国を目指し、再び歩き出した。しかし、西国への道は、信長の支配が及ぶ地域を通過せねばならず、これまで以上に危険が伴う。光秀の追手が迫り、真田昌幸の陽動作戦もいつまで効果が続くかわからない。
道中、彼らは、瀬戸内海へと続く街道を辿りながら、この国の広大さを改めて実感していた。東国の山国で育った小太郎にとって、海の広がりは、新鮮な驚きだった。
「海か……。こんなに広い海を渡って、信玄公は、何をしようとされているのだろう?」
おふうは、水平線に広がる海を見て、目を輝かせた。彼女の祖父、土岐十蔵の故郷は、この西国にも近いという。おふうの秘めたる秘密もまた、この西国の旅で、明らかになるのかもしれない。
瀬戸内海に近づくにつれて、彼らは、毛利水軍の活動を目にするようになった。巨大な船が、まるで海の上を滑るように進み、その威容は、信長の天下布武を阻むに足るものだった。
やがて、小太郎たちは、瀬戸内海の港町に到着した。町は、活気にあふれ、多くの人々が行き交っている。しかし、その活気の裏には、織田家との戦による緊張感が漂っていた。
小太郎たちは、毛利家が使者を送る予定の港を確認した。そこには、すでに毛利家の船が停泊しており、使者を待っているようだった。信玄の使者が、どのような人物なのか、小太郎には想像もつかなかった。
しかし、その港には、毛利家の兵士だけでなく、光秀の間者らしき者たちの姿もちらほらと見受けられた。光秀は、小太郎たちが丹波の地から西国へ向かっていることを、すでに察知しているのかもしれない。
「光秀殿は、我々の動きを読み解こうとしている。警戒を怠るな」
千代女は、そう言って、小太郎とおふうに注意を促した。
小太郎たちは、光秀の間者の目を欺き、宮島へと向かう船を探し始めた。宮島は、瀬戸内海に浮かぶ小さな島であり、厳島神社は、その島を代表する聖地だ。そこへ潜入するには、船での移動が不可欠だった。
その時、小太郎は、港の片隅で、見慣れない装束を身につけた一団を見かけた。彼らは、西方から来た者たちのようで、その中の一人が、毛利家の役人と言葉を交わしている。
「あれが、信玄公が送られた使者か……」
小太郎は、その一団に目を凝らした。
信玄が、天下の毛利家へと送る使者とは、一体どのような人物なのか。
そして、その使者が、毛利家とどのような駆け引きを行うのか。小太郎の胸には、新たな期待と、そして緊張感が入り混じっていた。
西国の地で、信玄の秘策は、新たな局面を迎えようとしていた。信長と光秀の目を欺き、毛利家との同盟を築き、宮島の「楔」を見つけることができるのか。
戦国の乱世で繰り広げられる、知略の戦いは、さらに深まっていく。
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