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第五章:風前の灯火
第九十話:望月千代女の救出
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おふうを寺に託し、小太郎は孤独な旅を続けていた。
その心には、おふうの願いと信玄の使命が、まるで道標のように強く輝いていた。
甲斐への道は、しかし、さらなる過酷さを増していた。高坂昌信の奮戦で一時的に目を逸らされた織田軍は、再び武田領への侵攻を本格化させ、その斥候は、獲物を狙う鷹のように街道を監視していた。
小太郎は、疲労困憊の身体に鞭打ち、ひたすら山道や獣道を辿り、人目を避けて進んだ。
数日が過ぎた頃、小太郎は、甲斐の国境に近いとある山村に辿り着いた。
信玄からの密書に記された次の合流地点は、この村のはずれにある廃屋であった。
そこには、武田に忠実な隠密が潜んでいるはずだった。しかし、廃屋に近づくにつれ、小太郎の胸に不吉な予感が募った。
あたりに漂う焦げ臭い匂い。そして、妙な静けさ。
「まさか……」
小太郎は、警戒しながら廃屋へと足を踏み入れた。そこにあったのは、凄惨な光景だった。廃屋は半ば焼失し、そこかしこに血痕が散らばっている。複数の隠密が、無残な姿で倒れていた。
その傷口から判断するに、黒百合組の仕業であることは明らかだった。
信長の追撃は、信玄が各地に築いた密約の縁、絆の糸、人脈を、徹底的に断ち切ろうとしているのだ。
小太郎は、血の気が引くのを感じた。
ここまで来て、またしても信玄の人脈が寸断された。このままでは、信玄との連絡も途絶えてしまう。武田は、完全に孤立してしまうのか。
その時、倒れていた隠密の一人が、かすかに息をしていることに気づいた。小太郎は、急いで駆け寄ると、その隠密の口から、か細い声で聞き取った。
「く……黒百合組……奥の……祠(ほこら)に……」
隠密は、それだけを言い残し、絶命した。
祠に、何があるというのか。小太郎は、隠密が指し示した方向にある祠へと向かった。
深い森の奥、断崖絶壁に囲まれた場所にひっそりと佇む祠の入り口には、複数の黒百合組の刺客が警戒にあたっているのが見えた。
祠の中からは、複数の人影と、かすかな呻き声が聞こえてくる。武田の隠密たちが、そこに囚われているのだ。
小太郎は、歯を食いしばった。
武田の絆の糸が、次々と断ち切られていく。このままでは、信玄の「秘策」を伝えることも叶わない。彼は、抜刀し、単身で刺客たちへと向かっていこうとした。
しかし、数に圧倒的な差がある。無謀な突撃は、自らの命を絶つだけでなく、信玄の使命をも潰えさせることになりかねない。
小太郎は、冷静さを保とうと努めた。
しかし、焦りが彼の心を蝕む。その隙を突き、祠の影から、二体の黒百合組の刺客が音もなく飛び出した。彼らは、小太郎の死角を突き、一瞬にしてその背後へと迫る。
「くっ……!」
小太郎は、咄嗟に身を捻り、刺客の攻撃をかわす。しかし、二人の刺客は連携が取れており、小太郎の動きを封じにかかる。
一人の刺客が、鎖鎌を振り上げ、小太郎の刀を絡め取った。もう一人の刺客が、間髪入れずに短刀を抜き、小太郎の喉元へと突きつける。
「終わりだ、武田の小童め」
刺客の冷たい声が、小太郎の耳元に響いた。小太郎は、身動きが取れない。絶体絶命の危機。おふうの願いも、信玄の使命も、ここで潰えてしまうのか。
その刹那、どこからともなく、鋭い風切り音が響いた。同時に、数本の手裏剣が、刺客たちの首筋へと正確に突き刺さった。
「ぐっ……!?」
刺客たちは、呻き声を上げ、その場に倒れ伏した。小太郎は、驚きに目を見開いた。
木々の間から、しなやかな黒い影が舞い降りてきた。
それは、望月千代女であった。彼女は、手練れのくノ一数名を率いて、そこに立っていたのだ。月明かりに照らされたその顔には、冷静な判断力と、確かな覚悟が宿っている。
「小太郎様、お怪我はございませんか」
千代女の声は、静かだが、その言葉には、小太郎の身を案じる気持ちが滲んでいた。
彼女の周りには、千代女が率いる望月衆のくノ一たちが控えている。彼女たちは、かつて信玄に仕えた忍びの一派である。
「千代女!無事であったか!なぜここに……!」
小太郎は、安堵と驚きが入り混じった声で叫んだ。
「貴方を追うと申しましたでしょう。黒百合組の追撃をかわし、我ら望月衆と合流いたしました。そして、この村の異変を察知し、急ぎ駆けつけた次第にございます」
千代女は、そう言って、かすかに微笑んだ。彼女は、小太郎たちと別れた後、黒百合組の追撃を巧みにかわし、自身が率いる望月衆と合流していたのだ。
そして、信玄の密約の縁が寸断されていることを察し、小太郎たちの後を追う中で、この廃屋に辿り着いた。
そこで、黒百合組が武田の隠密たちを祠に閉じ込めていることを知ったのだ。
「小太郎様、彼らを救い出しましょう。彼らは、信玄公の絆の糸でございます」
千代女は、そう言って、祠の中へと視線を向けた。小太郎は、深く頷いた。千代女が率いる望月衆の援軍を得て、小太郎は、新たな希望を胸に、祠へと踏み込んでいく。
武田の魂を繋ぐ者たちが、今、再び一つになったのだ。
その心には、おふうの願いと信玄の使命が、まるで道標のように強く輝いていた。
甲斐への道は、しかし、さらなる過酷さを増していた。高坂昌信の奮戦で一時的に目を逸らされた織田軍は、再び武田領への侵攻を本格化させ、その斥候は、獲物を狙う鷹のように街道を監視していた。
小太郎は、疲労困憊の身体に鞭打ち、ひたすら山道や獣道を辿り、人目を避けて進んだ。
数日が過ぎた頃、小太郎は、甲斐の国境に近いとある山村に辿り着いた。
信玄からの密書に記された次の合流地点は、この村のはずれにある廃屋であった。
そこには、武田に忠実な隠密が潜んでいるはずだった。しかし、廃屋に近づくにつれ、小太郎の胸に不吉な予感が募った。
あたりに漂う焦げ臭い匂い。そして、妙な静けさ。
「まさか……」
小太郎は、警戒しながら廃屋へと足を踏み入れた。そこにあったのは、凄惨な光景だった。廃屋は半ば焼失し、そこかしこに血痕が散らばっている。複数の隠密が、無残な姿で倒れていた。
その傷口から判断するに、黒百合組の仕業であることは明らかだった。
信長の追撃は、信玄が各地に築いた密約の縁、絆の糸、人脈を、徹底的に断ち切ろうとしているのだ。
小太郎は、血の気が引くのを感じた。
ここまで来て、またしても信玄の人脈が寸断された。このままでは、信玄との連絡も途絶えてしまう。武田は、完全に孤立してしまうのか。
その時、倒れていた隠密の一人が、かすかに息をしていることに気づいた。小太郎は、急いで駆け寄ると、その隠密の口から、か細い声で聞き取った。
「く……黒百合組……奥の……祠(ほこら)に……」
隠密は、それだけを言い残し、絶命した。
祠に、何があるというのか。小太郎は、隠密が指し示した方向にある祠へと向かった。
深い森の奥、断崖絶壁に囲まれた場所にひっそりと佇む祠の入り口には、複数の黒百合組の刺客が警戒にあたっているのが見えた。
祠の中からは、複数の人影と、かすかな呻き声が聞こえてくる。武田の隠密たちが、そこに囚われているのだ。
小太郎は、歯を食いしばった。
武田の絆の糸が、次々と断ち切られていく。このままでは、信玄の「秘策」を伝えることも叶わない。彼は、抜刀し、単身で刺客たちへと向かっていこうとした。
しかし、数に圧倒的な差がある。無謀な突撃は、自らの命を絶つだけでなく、信玄の使命をも潰えさせることになりかねない。
小太郎は、冷静さを保とうと努めた。
しかし、焦りが彼の心を蝕む。その隙を突き、祠の影から、二体の黒百合組の刺客が音もなく飛び出した。彼らは、小太郎の死角を突き、一瞬にしてその背後へと迫る。
「くっ……!」
小太郎は、咄嗟に身を捻り、刺客の攻撃をかわす。しかし、二人の刺客は連携が取れており、小太郎の動きを封じにかかる。
一人の刺客が、鎖鎌を振り上げ、小太郎の刀を絡め取った。もう一人の刺客が、間髪入れずに短刀を抜き、小太郎の喉元へと突きつける。
「終わりだ、武田の小童め」
刺客の冷たい声が、小太郎の耳元に響いた。小太郎は、身動きが取れない。絶体絶命の危機。おふうの願いも、信玄の使命も、ここで潰えてしまうのか。
その刹那、どこからともなく、鋭い風切り音が響いた。同時に、数本の手裏剣が、刺客たちの首筋へと正確に突き刺さった。
「ぐっ……!?」
刺客たちは、呻き声を上げ、その場に倒れ伏した。小太郎は、驚きに目を見開いた。
木々の間から、しなやかな黒い影が舞い降りてきた。
それは、望月千代女であった。彼女は、手練れのくノ一数名を率いて、そこに立っていたのだ。月明かりに照らされたその顔には、冷静な判断力と、確かな覚悟が宿っている。
「小太郎様、お怪我はございませんか」
千代女の声は、静かだが、その言葉には、小太郎の身を案じる気持ちが滲んでいた。
彼女の周りには、千代女が率いる望月衆のくノ一たちが控えている。彼女たちは、かつて信玄に仕えた忍びの一派である。
「千代女!無事であったか!なぜここに……!」
小太郎は、安堵と驚きが入り混じった声で叫んだ。
「貴方を追うと申しましたでしょう。黒百合組の追撃をかわし、我ら望月衆と合流いたしました。そして、この村の異変を察知し、急ぎ駆けつけた次第にございます」
千代女は、そう言って、かすかに微笑んだ。彼女は、小太郎たちと別れた後、黒百合組の追撃を巧みにかわし、自身が率いる望月衆と合流していたのだ。
そして、信玄の密約の縁が寸断されていることを察し、小太郎たちの後を追う中で、この廃屋に辿り着いた。
そこで、黒百合組が武田の隠密たちを祠に閉じ込めていることを知ったのだ。
「小太郎様、彼らを救い出しましょう。彼らは、信玄公の絆の糸でございます」
千代女は、そう言って、祠の中へと視線を向けた。小太郎は、深く頷いた。千代女が率いる望月衆の援軍を得て、小太郎は、新たな希望を胸に、祠へと踏み込んでいく。
武田の魂を繋ぐ者たちが、今、再び一つになったのだ。
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