木漏れ日の中で

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「うわ、」
部屋を開けた僕は思わず声を出してしまう。
貴族の子が住む部屋にしてはあまり手入れが行き届いておらず、少しだけホコリ臭い。本来は2人部屋のようだが、こんなに離れた廊下の奥隅にある部屋ならきっと5年間1人で過ごすことになるはず。

部屋は玄関から右側にトイレ・シャワーがありその向かいに簡易的なキッチンと冷蔵庫がある。
その間を通り抜ければ2人で過ごすには広いスペースがあり、ソファと机が置かれている。ここがリビングに当たるのだろうか。
リビングを挟むように左右に扉が付いており、そこが個室になるようだ。

僕の部屋はどこかな。一番近い左側の部屋を開けるとどうやらビンゴらしい。部屋の中には前もって送っていた本やテキストが乱雑に積まれている。
僕に対しての扱いならこんなもんか。と思いつつクローゼットを開けてみると中には綺麗な制服が。夏用・冬用でそれぞれ3着ずつかけられている。クローゼットの下には引き出しが付いておりそこを開けてみると靴下や下着、ワイシャツやカーディガンといった物が綺麗に畳まれている。
そして体裁を保つためなのか、普段は着ることを許されなかった服も私服として何着かセットで用意されていた。

ざっと部屋の中を確認した後、足元を見て呟く。
「まずはこの本たちどうにかしなきゃ」
僕は机の下やクローゼットの中に本を内容ごとに分けて置き、父や家庭教師から新たに課題として与えられた参考書や問題集を机の上に並べる。そこに、何とか無理言って手に入れたスケジュール帳と、1年前からどさくさに紛れてノートを多くもらい、つけ始めた日記を置いた。

「ふぅ」
あらかた片付いたとき、ベッドに座る。
固い。
貴族の子が寝る部屋のベッドだ。こんなに固くて良いのだろうか。いや、きっと僕だからだ。それに固いと言っても、これまで寝ていたあの離れよりはマシだ。
そう思い直し、枕元にある窓を開いてみる。
気持ちのいい風が入り込み、部屋の空気もきれいになった気がする。

明日から頑張ろう。

そう思いながら、汗とホコリまみれになった服を脱ぎながらパジャマを用意する。
制服も含めてきっと侯爵家が手配しているはずだ。寮生活で他の人と関わることを危惧してきっと綺麗なものを用意したのだろう。それに、僕がねだってこないようきれいに保存魔法がかけられたパジャマが後10着はある。さっきは気付かなかったが、ベッドの下にも引き出しが2つあり、そこには同じように保存魔法がかけられた靴下や下着、ワイシャツ・ハンカチといった消耗品になってしまう物が何十着も置かれていた。隣の引き出しには笑ってしまうほどの文房具やノートが置いてある。相当僕にお金をねだられるのが嫌なのか。

なんだか物がいっぱいある光景に困惑しつつお風呂場へ。久しぶりにゆっくりできると思っていた僕は1つ、失念していたことがあった。

キィと、蛇口の音が鳴る。
「わっ?!」
シャワーから出るお湯を待っている僕にかかったのは冷水だ。慌てて手元を見ると栓は1つしかない。

そうだった。ここでは魔法が使えるのが当たり前なのだ。ただし、平民の生活も取り入れるべきと貴族社会ではこのお風呂のように、『蛇口を捻って水を出す』が『温度調整』は魔法を使うのだ。電気は平民の生活通り、ボタンを押せば光るが、魔法で消灯も可能だ。

ポタポタと頭から冷水を滴らせながらどうしようか考えるが、魔法が使えないのなら仕方ない。
手・足から冷水に慣れ急いでお風呂を終わらす。
すっかり冷えてしまった僕はカーディガンを羽織り何とか暖を取る。

ふと簡易キッチンに目が入ったため、近づいてみる。これは、魔力がなくても使えるのだろうか。
恐る恐るスイッチを押してみると、見事に火がついた。いわゆる強火。
なるほど、これは火力を魔法で調整するのか。なら、大丈夫だろう。さっそくお湯を沸かし白湯を飲む。
ほっと、全身に温かさが染み渡る。

寒さが落ち着いたところで片付けをし個室へ戻る。
入学式は明後日だ。きっと僕は浮くのだと思う。でも5年間は少なくともこの個室で静かに過ごせるのだ。
固いベッドの上でそんな事を思いながら目を瞑った。


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