木漏れ日の中で

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⑩ セドリックside

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俺がこの学園に入って2年。
今日は入学式が行われる日だ。

入学式と言ってもスクールに通っていた後輩たちと場所を変えて過ごすだけ。ほぼ意味の中そうな日だと勝手に思っている。
ぼーっと席に座り次々と着席する1年生をみていると、ざわつきが広まった。
いったい何だ。と思いながらみんなの視線の先へ目をやる。

そこにいたのは、小柄なこれまでは見たことのない男子生徒だった。彼は俯き前の生徒よりも遅れて歩いている。一番最後を歩いてるのでそれが余計に目立つ。
大衆の視線を受けながらなんとか自分の席まで着いた彼はちょうど俺の座っている席の眼の前だ。
だから気づいた。椅子の上にある杖を取る手が一度止まったことを。それからは記憶をかき集めて彼が誰か悶々と考えていた。残念ながらスクールにいた記憶がない。そしてあるタイミングで気づく。彼が侯爵家の三男だと言うことに。

名前は、確か
「アベル」
ふいに出た声に自分でも驚くがどうやら誰も気づいていないようだ。少し安心する。

式の締めくくりには入学生によって魔法を打ち上げる時間がある。しかしアベルは慌てて立ち上がろうとして俯く。俺を含みアベルの席と近い他の生徒は驚き、俺以外の生徒たちによる非難の声が聞こえる。
アベルの身体は強張り、微かに震えている。
そんなアベルを置いて式は終了し、各自解散となる。
そんなアナウンスを聞いてもアベルは鞄を抱きしめて俯いている。

その姿にいてもたってもいられず、肩に触れた。
「っあ、ごめんなさい。い、今どきます」
俺が触れたことに驚いたのかアベルは大きな瞳に涙をためながらそう言った。
しまった、驚かせたと自分を叱りつつ声をかける。
「いや、そんなに急がなくて大丈夫だよ。君、体調悪いの?」
なるべく優しく聞こえるような声色と表情を心がけて聞く。すると、アベルの動きがまたピタッと止まる。
どうしたのだろうか。
そんな事を思いながらアベルをみていると、
「あ、あの僕、大丈夫ですから・・・その、」
まだ言い終わらないうちに遮りる。
「ちょっと、セドリック様!こんなやつに話しかけないほうがいいです」
またコイツらか。
俺に媚を売って繋がりを作りたいのであろう彼らは学園に入ってからすっかり俺の取り巻きのようになっている。
いい加減うんざりしていたが、人と話しているのに邪魔をするのは違うと思う。それに、アベルの目の前で真実か分からない噂話をするのも違うと思う。
つい、アベルを見ると彼の瞳は揺らいでいて目線は下がりまた俯いてしまった。
そして震える声でアベルは言った。
「ぼ、僕もう行きます。あの、失礼します」
ペコっとお辞儀をしたアベルの後ろ姿につい、
「待って」と声をかけてしまった。
しかし講堂は未だにざわついていてよく聞こえなかったらしい。追いかけたくても取り巻きに阻まれ伸ばした手を下ろして考える。

アベルについて。
俺だって噂は知っていた。でも、一度もそれを信じたことはない。なぜならアベルに魔力がないと判明してから一度会ったことがあるからだ。
それに、会ったことがなくても今日の様子をみていれば噂とは懸け離れていると気づく。

噂でのアベルは人に平気で暴力をふるい、人のものを欲しがり奪う。あげくの果てには家族にだって無理難題を押し付け困らせる。と。ほかにも色々言われているが興味がないので覚えていない。

でも、あの時出会ったアベルはとても優しくて思いやりがあった。

アベルが6歳、俺が7歳のとき、父に連れられ侯爵家へ訪問をした。父親同士の仕事話に飽きた俺は侯爵家1人でを探索していた。そこで見つけたのだ。アベルの暮らしているボロボロの小屋を。
俺は好奇心から木に登り部屋の中が見えないか画策していた。そして窓から見えたんだ。
少しだけ寂しそうな目で外を見つめてアベルを。
俺とアベルはそこから目が合い、慌てた俺は木から落ちてしまった。
幸いうまく受け身が取れたので腕の切り傷で済んだが、ボロボロの小屋からアベルがすごく慌てた様子で出てきた。
「あ、あの、大丈夫?ってうわぁ、腕ケガしてるよ?痛くない?痛いよね。ちょっとまってて」
「なぁ、その部屋に俺入れてよ。」
背を向け小屋に戻るアベルにそう声をかけると彼は戸惑った顔をしていた。
「え?」
「俺、そこが気になるの。見せてよ。」
「で、でも腕・・・」
「入れてくれたら腕もちゃんと手当てする。」
アベルは周囲を見渡し、「内緒だよ」
といいながら俺を小屋の中に入れた。
そこで生活していると言われても信じられないほどの有様だったが、アベルは俺を唯一座れる場所であるベットに座らせ、隠し持っていた包帯を巻き始める。
「あのね、これはね、少しだけ古いものなの。ちゃんとお家に帰って手当てしてね。バイキンが入っちゃうよ。」
小さな手で一生懸命包帯を巻く姿が可愛くてそれをじっと見ていた。
「終わったよ。」
満足気に呟きこちらを見あげてくるアベルに「ありがとう」といいながら頭を撫でる。
するとすごく嬉しそうに笑い目を閉じる。
まるで撫でられるのが気持ちいいみたいだ。
俺が手を離すとアベルは少し寂しそうにしながら言った。
「そういえば君はどこから来たの?お客さま?もしそうなら早く戻らないと。ここにきたことがバレたら怒られちゃうよ。腕、ちゃんと手当てしてね!」
アベルは俺をグイグイと出口に押すとバイバイ度小さな声で呟いて扉を閉めた。

「バイバイ」
俺は閉まった扉に向かって呟き父の元へ戻った。

そんな幼い時の出来事を思い出しながら先ほどまで目の前にいたアベルを思い出す。
もしかしたらその後から噂通りになった可能性もあるが、目に涙をため謝る姿や、目の前で言われる悪口に堪えるため俯く姿は噂とは懸け離れている。

一度、アベルと話がしてみたい。

そう思い機会を伺い続け、アベルと話せるまでに数ヶ月かかるとはこの日は思いもしなかった。
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