木漏れ日の中で

no

文字の大きさ
23 / 46

㉒ セドリックside

しおりを挟む
3度目のノックでゆっくりと扉が開いた。
久しぶりに見たアベルはとても元気とは言えない状態だ。
熱が出ているのか、顔が赤く息が荒い。汗もかいているようで髪が顔に張り付いている。
寒いのだろう。カーディガンが羽織っている。
「せ、せどりっくさま?」
あまり呂律の回らない問いかけに我に返る。
「アベル、ごめんね。どうしても君に会いたくて。熱があるんだね。おいで。」
アベルのすぐ前へ行き腕を広げる。
アベルはボーっとしながら腕の中に入ってきた。
俺は部屋の鍵を閉めて上がり込む。

本来ならもう1人いるはずだがどうやらアベルは1人で使っているようだ。それにしても酷く冷えた部屋だ。日が当たらないにしても酷すぎる。一体なぜ・・・?
アベルを抱きかかえてアベルの個室に案内してもらう。
「ここ」
「うん。ありがとう。入るね。」
そして扉を開けて本日何度目かの驚きを目にした。
床一面に本や教科書、プリントが散乱している。
机の上には広げられたノートと筆記用具、ボロボロの教科書がある。
一目でアベルの努力がわかる。
アベルをベッドに下ろそうとしたとき、小さな声で言った。
「ゆ、か。お水・・・濡れてます。気をつけてください」
見ると確かにベッドと机の間が濡れている。
飲もうとして零したのか。それはいつからなのか。
「うん。大丈夫だよ。ありがとう」
ベッドに降ろし頭を撫でながら言うとアベルは気持ちよさそうに目を瞑る。
「少し、待っていてね」
俺は冷蔵庫から水を取るために一度離れ背を向ける。
冷蔵庫を開けるとまたまたびっくり。
水と保存食しか入っていない。しかもおいしくないやつ。これでも熱も下がらないはずだ。
一度食べ物を持ってこなければ。
そう考えながら水を手にアベルの元へ戻る。
「アベル。一度お水を飲もう。起き上がれるかな?」
俺がそう聞くとアベルはゆっくりと起き上がる。
相当きついのか起き上がると壁にもたれて一息つく。
「飲める?」
水を渡すとコクコクと頷くので手元を支えながら見守る。
半分ほど飲み満足したのか口から離す。
・・・いつから飲めていなかったから一気に半分も飲むのか。
「よく飲めたね。偉い。」
水を机に置きながらアベルの頬をなでるとまた気持ちよさそうに目をつむる。
「アベル?」
「はい」
「一度寝たら身体を拭こうね。きっとスッキリするよ。」
「はい。」
「それまでは少し休もうか。起きたらご飯を食べよう。」
「・・・はい」
アベルをベッドに横たわらせて布団を被せる。
「俺がそばにいるからね。安心して眠ってね。」
布団の上から寝かしつけるようにぽんぽんし、アベルが完全に眠ったころ、公爵家専属の影を呼ぶ。

影というのは情報収集・護衛と、何でもできるスーパー組織で公爵家は1人に対して2人が配属される。そして普段は表に姿を現さないが、主人に呼ばれればどこにでも姿を現す。

俺が呼ぶ影は主人である俺でもどこから出てきたのか分からないほどすぐ後ろに姿を現した。
「・・・頼みがある。」
「なんなりと。」
「この子の為に消化に良いものと1週間分の食料を持ってきてくれ。俺の部屋からで構わない。後、公爵家の医者も呼んでくれ。母に手紙を出すから一緒に届けてくれると助かる。」
「かしこまりました。」

俺は母に簡単にアベルの事を綴り医者を借りると書く。
医者が来るまではなるとか頑張ってほしいが。

熱もいつから出ているか分からないしご飯もいつから食べていないのか分からない。
つい焦ってしまうけど、寝息を立てるアベルを見て冷静さを保つ。もう一度部屋の中を見渡しアベルの努力に関心と尊敬と心配な気持ちを持つ。
ふと机を見ると一冊立てかけてある分厚いノートがある。
なんだか気になり手にしてみる。
どうやらアベルの日記らしい。
申し訳ないと思いつつ、この数日何があったのか知るためにも読むことにした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ/Ⅱ

MITARASI_
BL
I 彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。 揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。 不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。 すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。 切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。 Ⅱ 高校を卒業し、同じ大学へ進学した陸と颯馬。  別々の学部に進みながらも支え合い、やがて同棲を始めた二人は、通学の疲れや家事の分担といった小さな現実に向き合いながら、少しずつ【これから】を形にしていく。  未来の旅行を計画し、バイトを始め、日常を重ねていく日々。  恋人として選び合った関係は、穏やかに、けれど確かに深まっていく。  そんな中、陸の前に思いがけない再会をする。  過去と現在が交差するその瞬間が、二人の日常に小さな影を落としていく。  不安も、すれ違いも、言葉にできない想いも抱えながら。  それでも陸と颯馬は、互いの手を離さずに進もうとする。  高校編のその先を描く大学生活編。  選び続けることの意味を問いかける、二人の新たな物語。 続編執筆中

帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。

志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。 美形×平凡。 乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。 崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。 転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。 そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。 え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。

処理中です...