盗賊に誘拐されました。

曼珠沙華

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「アゲハ……」

「へぇ、声だけで俺のこと分かるようになったんだ。嬉しいねぇ」

笑っている気配がする。

けれど「こんな状況じゃなければ」と付け加えるその声は今まで聞いたこともないほど冷たかった。

闇夜の中からアゲハが数人の男たちを引き連れて姿を現した。


なんで、どうして?


「ハーツ……」


ハーツもグルだった?
一瞬そう思ってしまったが、ハーツにとっても予想外のことだったようで、目を見開いていた。


「悪い子だなぁリンちゃん」


怒りを含んだ目でこちらを見るアゲハに恐怖で震える。


「俺、リンちゃんのこと大事に大事にしてきたよね?それなのに俺のこと裏切るんだぁ?これはもう、帰ったらお仕置きだよねぇ」

「ひっ……いやっ……」


殺される。
「いやいや、何勘違いしてんだよ。最初からお前の行き過ぎた片思いだろ」


ハーツが私とアゲハの間に入ってくれた。

いや、それよりも……

ハーツ、話せたの?

いやいや、それよりも……

男の声?

「ははっ、やぁっと正体を現したかよ。変態女装野郎」


女装?


「ハーツ、男だったの?」

ハーツはこちらを振り向き、笑った。

「この姿の方が安心できるだろ?リン」

そう言ってかつらを外すと、鮮やかな赤髪が現れた。

「本当はこんな再会を果たすつもりじゃなかったのに。あーぁ、そこのバカ王子のせいで全部台無しだ」


王子?


「バカ王子?言ってくれるねぇ、お前だってそうだろうが。サーシャル国のハーツ王子よぉ」

サーシャル国の王子?

訳が分からない。
頭の中で疑問だけが増えていく。

どういうこと。
サーシャル国は確か東側の隣国……。
ハーツがサーシャル国の王子?

でも、アゲハのことも王子って……。

「リン」

アゲハが呼ぶ。

「俺を選べ」


どくりと心臓が震える。

その言葉を私は以前聞いたことがある。
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