俺の可愛いお嬢様を、悪役令嬢にはさせません!

曼珠沙華

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俺が5歳の時、イザベラお嬢様はお生まれになった。

俺の父親ケイレブ伯爵とお嬢様のお父上ジョシュア公爵は、階級は違うが友人という関係であり、奥様の出産祝いでお屋敷に伺った時、初めて俺はお嬢様にお目にかかった。

その第一印象はといえば……。


まさに天使だった。


もう一度言おう。


まさに天使だった。


絹のような銀色の髪。
透き通るような白い肌。
ぷっくりもちもちのほっぺ。

そして、どんな宝石も見劣りしてしまうほど美しいエメラルドの瞳。


可愛い。
可愛いとしか言いようがない。


ただでさえ可愛いのに笑った顔なんかもう、たまらない。
とにかくたまらない。

一目見た時から俺はお嬢様に心を奪われていた。

それまでは渋々父上に連れられてテイラー家に来ていた俺だったが、この日から二日に一度のペースでお嬢様に会いにきていた。

俺の一つ上であり、イザベラお嬢様の唯一のご兄妹であられるアンドリュー様からは「気持ち悪い」とドン引きされる始末。

けれどお嬢様に会えるのなら、そんなことは些細なこと。

お嬢様の笑顔こそ、俺の生きる道。

お嬢様が泣くようなこと、不幸なことがあってはならない。


だから2階のバルコニーでお茶をされているイザベラお嬢様の大切な帽子が風で飛ばされてしまった時も俺に迷いはなかった。

お嬢様の横を走り抜け、柵に足をかけ、帽子に手を伸ばしながら飛び出した。

俺が十歳、イザベラお嬢様が五歳の時だった。

いや、ほんと……。

「本当に申し訳ありませんでした、ジョシュア様」

俺はわざわざ見舞い来て頂いたジョシュア様にベッドの上で土下座する勢いで謝罪した。

本当は床の上で謝罪すべきところなのだろうが、寛大なジョシュア様は「いやいや」と制された。

バルコニーから飛び出した俺は当然落下し、盛大に頭を打ち付けていた。

気を失った俺と号泣するお嬢様に慌てふためいた執事やメイドたちが、俺をベッドへと運び、医者を呼んで手当てしてくれたらしい。

本当に申し訳ない……。

「大事に至らなくて良かった」

「えぇ。お嬢様の記憶を失わなくて本当に良かったです。一大事ですから」

「いや、そうじゃなくて」

ジョシュア様も隣にいるアンドリュー様も顔を引き攣らせた。

そしてお嬢様はというと……。

俺は視線を下げた。

そこにはいまだ瞼が赤く染まり、俺の腰にしがみついて眠るお嬢様がいた。

土下座したくてもできなかったのは、お嬢様がしがみついたまま離れなかったからだ。

なによりお嬢様の眠りを妨げるなんて俺にできるはずがない。


マジ天使……。


可愛らしい寝顔。
感動で今度は俺が泣いてしまいそうだった。

俺が目を覚ました時お嬢様は号泣されたが、普段はあまり感情を表に出すことのないおしとやかなお方だ。

それだけ俺が驚かせてしまったのだろう。

「申し訳ありませんでした、お嬢様」

やわらかな銀色の髪を撫でてやれば、お嬢様の表情が少しだけやわらいだ気がした。
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