実の父に隣国へ死にに行けと言われた王女は、隣国の王に溺愛される。

曼珠沙華

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一日があっという間に終わるという感覚は生まれて初めてだった。

可愛い雑貨屋や衣装屋など、ロゼ様に目が回るほどたくさんのお店に連れていってもらい、食べきれないほどの食事やお菓子も頂いてしまった。
どれも食べたことがなく、とろけそうなほど美味しいものばかりだった。

気付けばオレンジ色の夕日が街を染めていた。

「ロゼ様、申し訳ございません。たくさんお時間を取らせてしまって……」

「今日はオリビアのために一日空けておいたから大丈夫だよ」

安心させるようにロゼ様は微笑んでくれた。
その視線が私の手元へ移る。

街を散策している間、ずっと女の子からもらった花を握りしめていた。

それを時折見ては、ロゼ様は何か言いたそうな顔をしていたのだ。

「あの……なにか?」

「いや……」

聞いても言葉を濁すだけで答えてくれない。
もしかして城に持ち帰ってほしくないのかも……。

「このお花、持ち帰っちゃだめでしょうか?」

「えっ、あ、そんなことはないよ」

またロゼ様が笑ってくれる。

疑問が晴れず不思議に思ったが、花を持ち帰っていいと言われ、ほっとした。
花瓶を持っていないけど、ラビンスにお願いしたら用意してくれるかな。

部屋に飾ったらきっと素敵。

その時はそう思っていたのに……。

城へ帰るためにロゼ様に手を引かれ、馬車に乗ろうとした時、気付いた。

綺麗な花を咲かせていたはずのそれは、今は力なく、くたりと俯いていた。

なんで?と思うより先に原因が頭に浮かんだ。

初めてもらった花が嬉しくて嬉しくて、それでつい強く握りしめていたからだ。
それも街をまわっている間ずっと。

小さな花はそれに耐えられなかった。

胸が痛むほどの悲しさと切なさが波のように押し寄せ、それら全てが涙に変わった。
拭うことさえ忘れ、涙がぼたぼたと頬を濡らす。

ロゼ様がぎょっとした顔をした。

「オリビア!?」

汚くて醜いから泣くなと、エメラルド国では言われてきた。
泣くことを我慢することにも慣れていた。

でも、今は無理だった。

声を押し殺そうとするのに、嗚咽が漏れ、涙が止まらない。

「どうした!?」

ロゼ様の問いになんとか答えようとする。

「はな、がっ……花が……うぅっ……枯れてっ……」

途切れ途切れになりながらもロゼ様には花が枯れてしまったせいだと伝わったようで、そっと花を受け取った。

「ラビンス」

「はい」

私の世話をしてくれるために着いてきていたラビンスに花を渡す。
割れ物を扱うように花を両手で受け取り、ラビンスは一礼して下がった。

「泣かないで、オリビア」

まだ馬車にも乗っておらず、街中だというのにロゼ様は視線を気にすることもなく、優しく抱きしめてくれた。

「オリビアは優しすぎるね。花はいずれ枯れてしまうものだよ」

「でもっ……私の、せいでっ……」

ロゼ様は眉根を下げ、イライジャを呼んだ。

イライジャがロゼ様の傍へ来る。
その手にはリボンがついた小さな箱があった。

「優しすぎるオリビアには、枯れない花をあげようね」

イライジャから小さな箱を受け取り、ロゼ様はそれを私に渡した。

「これは……?」

「開けてみて」

言われるがままリボンをほどき、箱の蓋を開ける。

その中にはきらきらと輝くクリスタルの花があった。
光を反射して七色に輝くそれは、美しい髪飾りだった。

「きれい……」

「泣き止んでくれた?俺からオリビアにプレゼント」

髪飾りを手に取り、ロゼ様は私の髪につけてくださった。
「とても似合うよ」と頭を撫でてくださる。

悲しい気持ちが溶けていくようだった。
温かい気持ちがじわりと染み渡っていく。

「ありがとうございます、ロゼ様」

「どういたしまして」

にこりと微笑んでくれるロゼ様に私も笑い返す。

ラビンスはあの花を捨てちゃうのかな。
花は私なんかよりずっと弱い。
それなのに私が強く握り潰してしまった。

花を枯らしてしまった罪悪感とロゼ様の髪飾りのプレゼントの嬉しさが心の中でかき混ぜられていた。

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