実の父に隣国へ死にに行けと言われた王女は、隣国の王に溺愛される。

曼珠沙華

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アリスが部屋に入ってきて、すぐに食事も運ばれてきた。

「さっ!早く一緒に食べましょう。わたくしったら早くオリビアに会いたくてご飯も食べずにここに来ちゃったの。もうお腹ぺこぺこよ。ロゼリアージュ様に感謝しなきゃね」

ロゼ様の名前をアリスの口から聞き、今まで感じたことのないざわざわとした不快感を覚えた。

なんなんだろう、この感じ。
気持ち悪い。

「久しぶりに姉妹水いらずのお食事といきましょ。あなた、オリビアの侍女よね?食事が終わったらまた呼ぶからしばらく席を外してちょうだい」

アリスの勝手な指示にラビンスはオリビアの方を見た。

「私はオリビア様にお使えしておりますので、オリビア様もそのようにおっしゃるならそれに従います」

アリスではなく、私を優先してくれるラビンスの言葉が身に染みるほど嬉しかった。

不愉快だったのか、アリスの眉間にかすかに皺が寄った。

「ラビンス。ごめんね、二人だけにして」

本当は二人きりになんてなりたくなかった。
けれどそうしないとアリスはきっとこの国に来た真意を話せない。

怖いけど。

「かしこまりました。何かありましたら、すぐにお呼びください」

ラビンスは頭を下げ、部屋を出て行った。

その姿が消え、足音が遠くなると突然お腹に激痛が走った。

訳も分からず、その場にうずくまる。

見上げればアリスが拳を握っていて、お腹を殴られたのだと気付いた。

「遅い。なにをもたもたしていたの。お前ごときが準備に時間をかけてわたくしを待たせるなんて身の程を知りなさい」

「うぅっ……」

「呻いてないでさっさと謝りなさい」

「も、申し訳……ございま、せんでした」

アリスはふんと鼻を鳴らし、温かな朝食が準備されているテーブルについた。

朝食は二人分用意されていたが、勝手な行動をとればまたアリスの逆鱗に触れるため、私はその場から動くことができなかった。

アリスは湯気が立ち上るスープをそっと口にし、「あら、美味しい」と意外そうな顔をした。

「これならこの国で暮らすことになっても問題なさそうね」

「え?」

今、なんて……。
アリスがこの国で、暮らす?

「さっそくだけど、わたくしロゼリアージュ様と結婚するわ」

頭を殴られたような衝撃が襲った。

アリスはサファイア国を魔の国だって忌み嫌っていたはずなのに。

「どうして……」

「どうして?そんなの決まっているじゃない。ロゼリアージュ様がわたくしにふさわしいからよ」

ロゼ様がふさわしい?
こんな性悪な女に?

よぎった言葉に自分でも驚いた。

なんてことを……。

性悪?
性悪なのは、私の方だ。

醜悪な体でありながら、心まで醜いなんて。

アリスより私の方がはるかに醜い。

これじゃ死んだ時、お母さんに顔向けできない。

スカートの裾をぎゅっと握り締めた。

その様子をアリスは違う認識をしたようだった。

「……お前もしかしてロゼリアージュ様に恋でもしたんじゃないでしょうね?」

全く関係ないことを考えていたのに、アリスの一言でロゼ様の優しい笑った顔が思い出された。

ロゼ様と一緒にいると心臓がどきどきして、胸が苦しくなってしまう。
でも、同時に心が安らぐ心地よさがあった。

これが、恋?

お母さんの隣ももちろん安らげる場所だったけど、胸が高鳴ることなんてなかった。

これが恋をするということ?

ロゼ様の花嫁になれたらどれだけ幸せだろうと思った。
この婚約が本当のものだったらどれだけ心から喜べただろうと。

アリスは吹き出して、高らかに笑った。

「あははっ!馬鹿じゃないのっ!お前みたいなブス、誰が相手をするっていうのよ!」

目に涙まで浮かべて、アリスは嘲笑った。

「いい?ロゼリアージュ様は最初わたくしを花嫁に欲しいと言ってきたのよ。醜いお前ではなく、わたくしにね。けれど来てしまったのがお前だったから仕方なくもてなしているだけ」

「そんな!ロゼ様は、私をっ……」

歓迎してくれた。

そう続けたかったのにアリス目が鋭くなり、次の言葉が出てこなくなった。

「ロゼ様?」

アリスは椅子から立ち上がるとこちらに近付き、

パンッ!!

私の頬を強い力で叩いた。

「なんて馴れ馴れしい!ロゼ様だなんて!勘違いしているようだから教えてあげるわ。そのロゼ様はね、わたくしと顔を合わせた時会えた嬉しさで挨拶よりも早くわたくしのことを抱き締めて愛を囁かれたのよ。とても情熱的な方だったわ。私が恋しくて仕方なかったのね」

当然私の時はそんな姿を見せてくださらなかった。

今までのロゼ様の優しさ、仕草や言葉が偽りとは思わない。
でも、やっぱりアリスには敵わない。

「分かったら、わたくしのロゼ様で変な妄想はやめなさい」

前髪を鷲掴みにされ、無理やり視線を合わせられる。

「それにしても、お母様の言う通りだわ。お前の苦しんでいる顔を見るとゾクゾクして、とても気分がいい」

加虐的な表情を見せるアリスと義母の顔が重なった。

「私ももっと早くお母様と一緒にお前を躾けてやるんだったわ。お前がもうすぐ死ぬなんてもったいない気もするわね。まぁ、サファイア国の王妃になったら隠れてお前を痛めつけるなんて難しいでしょうからいいんだけど」

こんな人が苦しむ姿を見て喜ぶような人がロゼ様の花嫁になるなんて。

ぎりぃっと歯を食いしばった。

「お前、ロゼ様に体を許してないでしょうね?お前のお古なんてまっぴらよ」

アリスは私の体に視線を向けて、ニタニタと嫌な笑いを見せた。

「まぁ、許したくても無理な話でしょうけど」

ロゼ様が選んだ人がアリスなら私に何かを言う資格はない。

でも、と思わずにはいられない。

ロゼ様にはもっと素敵な女性がお似合いになられるのに。



それは当然、私ではないけれど。
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