実の父に隣国へ死にに行けと言われた王女は、隣国の王に溺愛される。

曼珠沙華

文字の大きさ
18 / 41

17

しおりを挟む
アリスが部屋に入ってきて、すぐに食事も運ばれてきた。

「さっ!早く一緒に食べましょう。わたくしったら早くオリビアに会いたくてご飯も食べずにここに来ちゃったの。もうお腹ぺこぺこよ。ロゼリアージュ様に感謝しなきゃね」

ロゼ様の名前をアリスの口から聞き、今まで感じたことのないざわざわとした不快感を覚えた。

なんなんだろう、この感じ。
気持ち悪い。

「久しぶりに姉妹水いらずのお食事といきましょ。あなた、オリビアの侍女よね?食事が終わったらまた呼ぶからしばらく席を外してちょうだい」

アリスの勝手な指示にラビンスはオリビアの方を見た。

「私はオリビア様にお使えしておりますので、オリビア様もそのようにおっしゃるならそれに従います」

アリスではなく、私を優先してくれるラビンスの言葉が身に染みるほど嬉しかった。

不愉快だったのか、アリスの眉間にかすかに皺が寄った。

「ラビンス。ごめんね、二人だけにして」

本当は二人きりになんてなりたくなかった。
けれどそうしないとアリスはきっとこの国に来た真意を話せない。

怖いけど。

「かしこまりました。何かありましたら、すぐにお呼びください」

ラビンスは頭を下げ、部屋を出て行った。

その姿が消え、足音が遠くなると突然お腹に激痛が走った。

訳も分からず、その場にうずくまる。

見上げればアリスが拳を握っていて、お腹を殴られたのだと気付いた。

「遅い。なにをもたもたしていたの。お前ごときが準備に時間をかけてわたくしを待たせるなんて身の程を知りなさい」

「うぅっ……」

「呻いてないでさっさと謝りなさい」

「も、申し訳……ございま、せんでした」

アリスはふんと鼻を鳴らし、温かな朝食が準備されているテーブルについた。

朝食は二人分用意されていたが、勝手な行動をとればまたアリスの逆鱗に触れるため、私はその場から動くことができなかった。

アリスは湯気が立ち上るスープをそっと口にし、「あら、美味しい」と意外そうな顔をした。

「これならこの国で暮らすことになっても問題なさそうね」

「え?」

今、なんて……。
アリスがこの国で、暮らす?

「さっそくだけど、わたくしロゼリアージュ様と結婚するわ」

頭を殴られたような衝撃が襲った。

アリスはサファイア国を魔の国だって忌み嫌っていたはずなのに。

「どうして……」

「どうして?そんなの決まっているじゃない。ロゼリアージュ様がわたくしにふさわしいからよ」

ロゼ様がふさわしい?
こんな性悪な女に?

よぎった言葉に自分でも驚いた。

なんてことを……。

性悪?
性悪なのは、私の方だ。

醜悪な体でありながら、心まで醜いなんて。

アリスより私の方がはるかに醜い。

これじゃ死んだ時、お母さんに顔向けできない。

スカートの裾をぎゅっと握り締めた。

その様子をアリスは違う認識をしたようだった。

「……お前もしかしてロゼリアージュ様に恋でもしたんじゃないでしょうね?」

全く関係ないことを考えていたのに、アリスの一言でロゼ様の優しい笑った顔が思い出された。

ロゼ様と一緒にいると心臓がどきどきして、胸が苦しくなってしまう。
でも、同時に心が安らぐ心地よさがあった。

これが、恋?

お母さんの隣ももちろん安らげる場所だったけど、胸が高鳴ることなんてなかった。

これが恋をするということ?

ロゼ様の花嫁になれたらどれだけ幸せだろうと思った。
この婚約が本当のものだったらどれだけ心から喜べただろうと。

アリスは吹き出して、高らかに笑った。

「あははっ!馬鹿じゃないのっ!お前みたいなブス、誰が相手をするっていうのよ!」

目に涙まで浮かべて、アリスは嘲笑った。

「いい?ロゼリアージュ様は最初わたくしを花嫁に欲しいと言ってきたのよ。醜いお前ではなく、わたくしにね。けれど来てしまったのがお前だったから仕方なくもてなしているだけ」

「そんな!ロゼ様は、私をっ……」

歓迎してくれた。

そう続けたかったのにアリス目が鋭くなり、次の言葉が出てこなくなった。

「ロゼ様?」

アリスは椅子から立ち上がるとこちらに近付き、

パンッ!!

私の頬を強い力で叩いた。

「なんて馴れ馴れしい!ロゼ様だなんて!勘違いしているようだから教えてあげるわ。そのロゼ様はね、わたくしと顔を合わせた時会えた嬉しさで挨拶よりも早くわたくしのことを抱き締めて愛を囁かれたのよ。とても情熱的な方だったわ。私が恋しくて仕方なかったのね」

当然私の時はそんな姿を見せてくださらなかった。

今までのロゼ様の優しさ、仕草や言葉が偽りとは思わない。
でも、やっぱりアリスには敵わない。

「分かったら、わたくしのロゼ様で変な妄想はやめなさい」

前髪を鷲掴みにされ、無理やり視線を合わせられる。

「それにしても、お母様の言う通りだわ。お前の苦しんでいる顔を見るとゾクゾクして、とても気分がいい」

加虐的な表情を見せるアリスと義母の顔が重なった。

「私ももっと早くお母様と一緒にお前を躾けてやるんだったわ。お前がもうすぐ死ぬなんてもったいない気もするわね。まぁ、サファイア国の王妃になったら隠れてお前を痛めつけるなんて難しいでしょうからいいんだけど」

こんな人が苦しむ姿を見て喜ぶような人がロゼ様の花嫁になるなんて。

ぎりぃっと歯を食いしばった。

「お前、ロゼ様に体を許してないでしょうね?お前のお古なんてまっぴらよ」

アリスは私の体に視線を向けて、ニタニタと嫌な笑いを見せた。

「まぁ、許したくても無理な話でしょうけど」

ロゼ様が選んだ人がアリスなら私に何かを言う資格はない。

でも、と思わずにはいられない。

ロゼ様にはもっと素敵な女性がお似合いになられるのに。



それは当然、私ではないけれど。
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

『選ばれなかった令嬢は、世界の外で静かに微笑む』

ふわふわ
恋愛
婚約者エステランス・ショウシユウに一方的な婚約破棄を告げられ、 偽ヒロイン・エア・ソフィアの引き立て役として切り捨てられた令嬢 シャウ・エッセン。 「君はもう必要ない」 そう言われた瞬間、彼女は絶望しなかった。 ――なぜなら、その言葉は“自由”の始まりだったから。 王宮の表舞台から退き、誰にも選ばれない立場を自ら選んだシャウ。 だが皮肉なことに、彼女が去った後の世界は、少しずつ歪みを正し始める。 奇跡に頼らず、誰かを神格化せず、 一人に負担を押し付けない仕組みへ―― それは、彼女がかつて静かに築き、手放した「考え方」そのものだった。 元婚約者はようやく理解し、 偽ヒロインは役割を降り、 世界は「彼女がいなくても回る場所」へと変わっていく。 復讐も断罪もない。 あるのは、物語の中心から降りるという、最も静かな“ざまぁ”。 これは、 選ばれなかった令嬢が、 誰の期待にも縛られず、 名もなき日々を生きることを選ぶ物語。

【完結】婚約者も両親も家も全部妹に取られましたが、庭師がざまぁ致します。私はどうやら帝国の王妃になるようです?

鏑木 うりこ
恋愛
 父親が一緒だと言う一つ違いの妹は姉の物を何でも欲しがる。とうとう婚約者のアレクシス殿下まで欲しいと言い出た。もうここには居たくない姉のユーティアは指輪を一つだけ持って家を捨てる事を決める。 「なあ、お嬢さん、指輪はあんたを選んだのかい?」  庭師のシューの言葉に頷くと、庭師はにやりと笑ってユーティアの手を取った。  少し前に書いていたものです。ゆるーく見ていただけると助かります(*‘ω‘ *) HOT&人気入りありがとうございます!(*ノωノ)<ウオオオオオオ嬉しいいいいい! 色々立て込んでいるため、感想への返信が遅くなっております、申し訳ございません。でも全部ありがたく読ませていただいております!元気でます~!('ω')完結まで頑張るぞーおー! ★おかげさまで完結致しました!そしてたくさんいただいた感想にやっとお返事が出来ました!本当に本当にありがとうございます、元気で最後まで書けたのは皆さまのお陰です!嬉し~~~~~!  これからも恋愛ジャンルもポチポチと書いて行きたいと思います。また趣味趣向に合うものがありましたら、お読みいただけるととっても嬉しいです!わーいわーい! 【完結】をつけて、完結表記にさせてもらいました!やり遂げた~(*‘ω‘ *)

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます

との
恋愛
「結婚おめでとう」 婚約者と義妹に、笑顔で手を振るリディア。 (さて、さっさと逃げ出すわよ) 公爵夫人になりたかったらしい義妹が、代わりに結婚してくれたのはリディアにとっては嬉しい誤算だった。 リディアは自分が立ち上げた商会ごと逃げ出し、新しい商売を立ち上げようと張り切ります。 どこへ行っても何かしらやらかしてしまうリディアのお陰で、秘書のセオ達と侍女のマーサはハラハラしまくり。 結婚を申し込まれても・・ 「困った事になったわね。在地剰余の話、しにくくなっちゃった」 「「はあ? そこ?」」 ーーーーーー 設定かなりゆるゆる? 第一章完結

【完結】離縁王妃アデリアは故郷で聖姫と崇められています ~冤罪で捨てられた王妃、地元に戻ったら領民に愛され「聖姫」と呼ばれていました~

猫燕
恋愛
「――そなたとの婚姻を破棄する。即刻、王宮を去れ」 王妃としての5年間、私はただ国を支えていただけだった。 王妃アデリアは、側妃ラウラの嘘と王の独断により、「毒を盛った」という冤罪で突然の離縁を言い渡された。「ただちに城を去れ」と宣告されたアデリアは静かに王宮を去り、生まれ故郷・ターヴァへと向かう。 しかし、領地の国境を越えた彼女を待っていたのは、驚くべき光景だった。 迎えに来たのは何百もの領民、兄、彼女の帰還に歓喜する侍女たち。 かつて王宮で軽んじられ続けたアデリアの政策は、故郷では“奇跡”として受け継がれ、領地を繁栄へ導いていたのだ。実際は薬学・医療・農政・内政の天才で、治癒魔法まで操る超有能王妃だった。 故郷の温かさに癒やされ、彼女の有能さが改めて証明されると、その評判は瞬く間に近隣諸国へ広がり── “冷徹の皇帝”と恐れられる隣国の若き皇帝・カリオンが現れる。 皇帝は彼女の才覚と優しさに心を奪われ、「私はあなたを守りたい」と静かに誓う。 冷徹と恐れられる彼が、なぜかターヴァ領に何度も通うようになり――「君の価値を、誰よりも私が知っている」「アデリア・ターヴァ。君の全てを、私のものにしたい」 一方その頃――アデリアを失った王国は急速に荒れ、疫病、飢饉、魔物被害が連鎖し、内政は崩壊。国王はようやく“失ったものの価値”を理解し始めるが、もう遅い。 追放された王妃は、故郷で神と崇められ、最強の溺愛皇帝に娶られる!「あなたが望むなら、帝国も全部君のものだ」――これは、誰からも理解されなかった“本物の聖女”が、 ようやく正当に愛され、報われる物語。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...